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2005年11月20日 (日)

奪われる日本――「年次改革要望書」米国の日本改造計画 警告レポート、米国に蹂躙される医療と保険制度(後半)

 「奪われる日本――「年次改革要望書」米国の日本改造計画 警告レポート、米国に蹂躙される医療と保険制度、関岡英之(全文)」の後半部です。
 僕は、今まで選挙で棄権したことはありません。さきの9・11選挙では小選挙区は民主党候補、比例区は新党日本に入れました。基準としては、死に票にしない。とにかく消去法でいく。自分の意にそわなくてもとにかく投票だけはするでした。結果は小選挙区では死に票にしてしまいましたが、、。(汗)

 投票日前日には池袋西口に行き田中康夫の小林こうき応援演説まで聞いてしまった。選挙運動フィナーレを見物に行ったのも初めてなら、終了後の人ごみの中で小林こうきと握手までしてしまったのだった。自民党と共産党にだけは投票しないことを誇りにしていたこの僕が元とは言え自民党籍にあった議員と握手をしたのである。
 下記文中の小林興起議員について書いてある部分を読むと、自分の直観的政治判断は間違っていなかったと思うのだった。(^^;

※コメント欄で、メールアドレスもリンクもなしの匿名氏が「素朴な疑問なのですが、これって著作権の問題はないのでしょうか。」
 で、以下が答え。(前半)でもご紹介しておきましたが、積極的に関岡英之さんの話題の本「拒否できない日本」を宣伝しておきます。関岡英之さんについては、気鋭の作家と注目するようになりました。僕もこれから図書館で借りるか、あるいは購入しようと思っています。本の購入パターンとして本屋で立ち読みして作家などに関心をもちファンになり購入するというのがあります。今回のも関岡英之さんのを僕自身の著述物として載せたのではなく、関岡英之さんの文章の積極的な宣伝と自分自身では認識しています。
 皆さんも関岡英之さんに注目し、できたら「拒否できない日本」を購入しましょう。文藝春秋もこれを読めて他にも面白そうな記事があるならお買い得だと思います。

以下続きです。


はずされる日本社会の安定化装置

 これらの記述から、米国側の狙いがおぼろげながら透けて見える。簡保の政府保有株式は完全に市場へ売却させ、「政府保証があるかのような認識が国民に生じないよう、十分な方策」を取らせる、つまり政府の関与を完全に断ち切らせる。純粋な民間会社となった簡保に対しては、外資系保険会社と「イコールフッティング」、つまり完全に対等な競争条件を要求していく。

 「民間企業と同様の……規制監督を適用」とは、簡保の所管官庁を現在の総務省から金融庁に移管させて、その立ち入り検査を受けさせるということである。また、「完全な会計の透明性を含む適切な措置」とはおそらくソルベンシー・マージンなどの公表を義務づけ、会計事務所の会計監査も受けさせるということであろう。金融庁が民間の会計事務所と連携しながら、金融検査や会計監査を通じて真綿で首を絞めるように、りそなを事実上の国有化へ、UFJを身売り同然の合併へと追い込んでいった経緯は記憶に新しい。

 さらに、簡保を独禁法の適用対象とし「その市場支配力を行使して競争を歪曲することが無いよう」公正取引委員会に調査させる、という筋書である。公取委は検察当局と連携しつつ、いままさに道路公団を追い詰めている。そう遠からず簡保と郵貯に対しても、民業圧迫・市場独占批判、会社分割要求などの情報戦が顕在化してくるであろう。要するに、米国にとって民営化はゴールではなく、簡保を弱体化させ、分割、解体、経営破綻に追い込み、M&Aや営業譲渡などさまざまな手段を弄して、簡保が擁している一二〇兆円にのぼる資産を米国系民間保険会社に吸収させることが最終的な狙いなのである。

 簡保は小口であることと、無審査という簡易な加入手続きを特色としている。もともと簡易生命保険制度は、民間の生命保険に加入できない低所得者にも保険というセーフティネットを提供することを目的として大正五年に創設されたもので、ビジネスと言うよりは日本社会の安定化装置なのである。それが米国人の目には単なる市場としてしか映らない。安定化装置をはずした後に日本社会がどうなろうと一切関心がない。

 「官から民へ資金を流せ」、「民にできることは民にやらせろ」というときの「民」は、日本国民の「民」ではない。日本社会の行く末に責任を負わない米国民間保険会社の「民」にほかならないのである。そう話すと「それのどこがいけないのか?」と真顔で問い返す人が必ずいる。深層心理の階梯まで無国籍化した日本人の増殖は、まさに占領以来のゆがんだ戦後教育の「天晴れな」帰結というほかはない。世を厭い隠棲したい衝動に駆られる。

 昨年六月三日、竹中平蔵大臣が取り仕切る経済財政諮問会議が採択した「骨太の方針二〇〇四」によって、小泉総理の長年の悲願であった郵政民営化が、正式に日本の国策となり、そのわずか三ヶ月後の九月十日に、四分社化を骨子とする郵政民営化の基本方針が、与党自民党の了解無しに閣議決定された。その十一日後の二十一日に小泉総理がニューヨーク国連総会の際に日米首脳会談に臨むと、ブッシュ大統領から郵政民営化の進展について質問された。この事実は外務省の公式サイトにも掲載されている。

 それをさかのぼること一年前の二〇〇三年八月上旬、竹中氏はワシントンに駆け込んだ。当時、竹中氏は金融担当大臣として大手銀行に不良債権比率半減を迫った「金融再生プログラム」や、りそな銀行の国有化の経緯における強硬姿勢のため、自民党から厳しい批判を浴び、更迭要求さえ突きつけられていた。しかしワシントンで米国政府高官から「竹中路線を支持」の言質を引き出し、「追い風」を受けて帰国する。

 八月九日の朝日新聞によると、訪米前、ある米財務省幹部が竹中氏周辺に対し「あまり強く『支持』を言うと、国内の政治状況に悪い影響を与えないか」と何度か念を押してきたという。なんとも玄妙な、阿吽の呼吸をしのばせるやりとりである。

 竹中氏はワシントン滞在中に朝日新聞の堀江隆特派員のインタビューのなかで「郵貯の資産総額は四大メガバンクの合計より大きい。それだけ大きい『国営企業』の存在は、市場経済に慣れ親しんだ(米国の)人たちには理解しがたいことだと思う」と発言している。民間銀行の不良債権処理の渦中という騒然たる時期において、郵貯の話はいささか唐突に響く。この竹中談話の二ヶ月後、二〇〇三年十月二十四日に提示された米国政府の『年次改革要望書』のなかに、次のような記述がある。
《V-D.民営化
 米国政府は、二〇〇七年四月の郵政民営化を目標に、小泉首相が竹中経済財政・金融担当大臣に簡保、郵貯を含む郵政三事業の民営化プランを、二〇〇四年秋までに作成するよう指示したことを特筆する。》

 「二〇〇四年秋」(九月)にニューヨークでブッシュ大統領が小泉総理に郵政民営化の進捗状況の報告を求めたのは、こういう事情だったのだ。そしてその二ヶ月後には、合衆国大続領選挙が迫っていた。

 郵政民営化法案をめぐる自民党内の攻防で、小泉・竹中側と党内反対派が互いに頑として譲らず、最後まで揉め続けた最大の争点が、郵政三事業のうち簡保、郵貯(金融事業)を分離して完全民営化(官営廃止)するか否かの一点だった。それは、まさに米国政府の対日要求事項、つまりブッシュ大統領の関心事の核心にかかわる部分であった。

 通常国会で岡田民主党は曖昧な姿勢に終始した。総選挙での歴史的敗北後、前原新体制となった民主党は郵政民営化の対案を出した。伝えられるところによるとその内容は、簡保を廃止し、既契約分は日本郵政公社の傘下につくる複数の保険子会社に分割譲渡し、五年以内に完全民営化するものだという。この通りの内容だとすれば、これはまさに米国政府の要望書から読みとれる目論見そのものだ。与党案よりも露骨に米国に擦り寄り、簡保の分割まで踏み込んで米国保険業界の狙いをむしろ先取りしている。前原民主党の正体見たり、の感がある。

「対米迎合派」対「国益擁護派」の闘い

 結局のところ、郵政民営化問題の本質を最も鋭く認識したうえで、日本国民の代表として誠実に行動したのは、郵政民営化法案に反対票を投じた自民党の国会議員たちであった。
例えば、中堅では旧通産省出身の小林興起前衆議院議員、若手では旧大蔵省出身の小泉龍司前衆議院議員である。出身母体からして、両氏は郵政族ではなかった。旧通産省と旧大蔵省といえば、むしろ旧郵政省と激しくつばぜりあいを演じていた役所である。両氏が地盤としていた関東は、郵便局の存続に対する住民の切実度が低く、民営化してもほとんど失うものがない。東京一〇区に属する小林興起前議員の秘書は「郵政民営化法案への反対を説いても、なかなか地元支持者に理解してもらえない。逆に『自民党員のくせになんで小泉サンの足をひっぱるの』と小泉ファンからたしなめられてしまう」と苦慮していた。運命の衆院本会議の一ヶ月ほど前のことである。こうした事情を知れば、小林興起氏が反対票を投じたのは利権のためでも選挙区事情のためでもなかったことが歴然としている。議席を維持する保身だけを優先するなら、おとなしく賛成票を投じていれば済んだのだ。

 一方、小泉龍司氏は五月三十一日の衆議院特別委員会で『年次改革要望書』を示して竹中大臣を追及し、その後、自民党副幹事長の職を辞して衆院本会議で反対票を投じた。

 小林興起氏と小泉龍司氏が郵政民営化法案に反対したのは、米国政府の『年次改革要望書』を自ら子細に検証し、郵政民営化法案の中身を吟味して、その背後にある米国の国家戦略と、日本の国益を損なう危険性を正確に認識したからである。

 両氏は、今年の通常国会で成立した新会社法の中の「外国株対価によるM&A」の解禁を一年凍結させるうえでも中心的存在として奮闘した。そのことは三月十二日の日本経済新聞が実名報道している通りである。この外国株対価によるM&Aが解禁されれば、世上を騒然とさせてきたライブドアの堀江貴文氏、M&Aコンサルティングの村上世彰氏、楽天の三木谷浩史氏ら日本人に替わって、いよいよ外資が日本の大手企業買収の主役に躍り出ることになる。ちなみにホリエモンのニッポン放送株取得騒動をきっかけに、放送局に対する外資の敵対的買収への懸念が急浮上し、外資の出資規制を強化するため電波法・放送法が改正された。このとき郵貯と簡保についても民営化後の外資の出資を制限することを総務省が検討したがだめだった。放送事業と違って金融業については、外資の出資規制がWT0(世界貿易機関)協定で認められていないからだ。外資による郵貯や簡保の買収を法律で禁じるとWT0に提訴されてしまうのである。

 小林興起氏と小泉龍司氏はともに元経済官僚だけに、この種の複雑な法律の条文の行間に潜む危険性を見抜くだけの高いリテラシーを持っていた。そして自らの信念を貫いて行動した結果、権力の逆鱗に触れ、見せしめとして徹底的にいじめぬかれた。

 郵政民営化を唯一の争点とした先の総選挙の真相は、官邸とマスメディアが演出したような「改革派」対「守旧派」ではなく、「対米迎合派」対「国益擁護派」の闘いだった、というのが私の理解である。しかし真の国益を守ろうとした自民党の勇気ある議員たちの警鐘は、単細胞的常套句の連呼にかき消されてしまった。我々国民は「小泉劇場」に踊らされ、これらの政策通の国会議員たちから議席を剥奪し、その穴埋めに、小泉総理にひたすら忠誠を誓う公募の新人を大量に国会に送り込んだ。

 小泉総理のワンフレーズに比べ、反対票を投じた自民党議員たちの説明は国民にわかりにくかったと、したり顔で指摘した識者が多い。だが「政治はわかりやすくなければダメ」などというのは衆愚政治の極みであって、成熟した民主国家なら本来恥ずかしくて真顔で言えるようなことではない。日米保険協議以来の長きにわたるいきさつのある大問題を、説明責任も果たさず、ただ「イエスかノーか」という二者択一に矮小化して国民に信を問う、などというのは容認しがたい欺瞞行為である。「自己責任」の名の下に、最終的につけを払わされるのは我々国民なのだから。

次なる主戦場は健康保険

 郵政民営化法案が成立した今、事情を知る者は次なる主戦場を凝視している。それは公務員数の削減でも、政府系金融機関の統廃合でもない。それらは真の葛藤から国民の注意をそらす当て馬に過ぎないのだ。この国には米国の手垢にまみれていない、もうひとつの官営保険が存在することを忘れてはならない。それは健康保険である。国民生活に与える衝撃は、簡易保険の比ではない。「民にできることは民にやらせろ」という主張がまかり通れば、健康保険も例外ではいられない。既に第三分野(医療・疾病・傷害保険)は外資系保険会社にとって、日本の保険市場を席巻する橋頭堡になっている。

 日米間には「日米投資イニシアティブ」という交渉チャンネルが存在する。二〇〇一年の小泉・ブッシュ首脳会談で設置されたもので、詳しい説明は外務省ホームページに譲るが、対日直接投資を拡大するという大義名分のもとに、外資の日本企業に対するM&Aを容易にするために日本の法律や制度の「改革」を推進してきた原動力である。毎年報告書が作成されており、経済産業省のホームページで閲覧することができる。二〇〇四年版の『日米投資イニシアティブ報告書』に、米国側関心事項として次のような記述がある。

 《米国政府は、日本における人口動態の変化により、今後、教育及び医療サービス分野における投資が重要になってくることを指摘した。そして、これらの分野において米国企業がその得意分野を活かした様々な質の高いサービスを提供できること、またそうした新たなサービスの提供が日本の消費者利益の増大に資するものであることを指摘した。米国政府はこれらの分野における投資を促進するため、日本政府に対し、当該分野における投資を可能とするための規制改革を要請した。》

 その具体的な要望事項のひとつとして、米国政府は混合診療の解禁を挙げている。また二〇〇四年三月十二日の日本経済新聞も、米国務省のラーソン次官が日本の医療分野への外国資本の参入拡大を期待する意向を表明し、混合診療の解禁を求めたと伝えている。

 米国が日本に解禁を求める混合診療とは、保険が利く「保険診療」と、保険が利かない、つまり厚生労働省が認めていない「保険外診療」(自由診療とも言う)を同一の患者に行うことである。現在は認められていないため、日本で未承認の薬などを使うと、本来保険が利く診察代や入院費などにも保険が適用されず、かかった費用全額が自己負担になってしまう。しかし混合診療が解禁されると、厚生労働省が認めていない部分のみは自己負担だが、診察代や入院費など通常の経費は保険でカバーされるため、日本で未承認の新薬や治療法をより利用しやすくなる。患者にとってはけっこうな話に聞こえる。

 しかし米国がなぜ日本に混合診療の解禁を熱心に要求しているかといえば、厚生労働省が認めていない薬や治療法を使う「自由診療」については、製薬会社や病院などが値段を自由に決められるため、収益性が高いからである。保険が利く「保険診療」のほうは、診療報酬の単価や薬の価格を政府が統制しており、高騰しないよう抑制されているのだ。

 混合診療が日本で解禁されれば、日本で未承認の米国の「世界最先端」の新薬や治療法がどっと参入してくるだろうが、それは米国側が自由に価格を設定できるため、日本の医療費の水準とはまったく異なる価格で提供されるようになる。利用できるかどうかは、患者の病状よりも所得水準によることになる。医療保険制度研究会編集『目で見る医療保険白書』(平成十七年版)によって日米の医療費を比べてみると次の通りである。
      一人当たり医療費   総医療費の対GDP比
 米国  五九一、七三〇円   一三・九%
 日本  三一〇、八七四円   七・八%

 米国は、一人当たり医療費でも、総医療費の対GDP比率でも世界一であり、その「世界最先端」医療は、同時に世界で最も高価な医療でもある。政府が「社会主義的」な価格統制を行っている日本より、市場経済にゆだねている米国の方が医療費が高いのだ。

 このため、混合診療が解禁されて米国の新薬や治療法が入ってきても、何らかの保険でカバーしない限り高くて受診できない、ということになりかねない。そこで、混合診療が解禁されると、民間保険会社にとって自由診療向け医療保険という、新たなビジネス・チャンスが発生するのである。つまり、公的医療保険がカバーしない領域が拡大するということは、民間保険会社にとっては新たな市場の創出にほかならないのだ。ここに、米国の製薬業界、医療サービス関連業界、そしてかの保険業界が三位一体となって、日本に対して公的医療保険を抑制しろと圧力をかけてくるという構図が成立するのだ。

 敵の出方を読むには、公的医療保険制度が日米両国でいかに違っているか、その径庭を知悉しておくことが重要である。私は米国に行ったことがないが、過去数年、様々な文献を学んできて最近思うことは、日本と米国とが、いかに懸け離れた価値観に基づいて運営されている国か、ということだ。彼此の懸隔を最も酷薄に思い知らされる機会は、恐らくかの国において訴訟に巻き込まれたときと、病気に罹ったときではないか、と想像する。

 日本は国民皆保険といって、すべての国民が公的保険でカバーされている。大企業に勤める人は会社ごとにある健康保険組合、中小企業に勤める人は国が直接運営する政府管掌健康保険、自営業者や退職者などは各市町村が運営する国民健康保険など、働き口によって手続きが分かれてはいるが、すべての国民が公的保険に加入できるようになっている。このため、誰でも保険証一枚あれば、どこの医療機関でも費用のことはあまり気にせずに安心して診察を受けることができる。これは、ひとの命にかかわる医療は、貧富の格差にかかわらず、すべての国民が平等にアクセスできなければならない、という価値観に基づいた制度である。ただしこれは高負担・高福祉、つまり「大きな政府」を前提としている。

 米国には、国民皆保険制度は存在しない。公的保険制度には加入制限があり、高齢者・障害者限定のメディケアと低所得者限定のメディケイドの二種類しかない。伊原和人・荒木謙共著『揺れ動く米国の医療』(じほう)によると、米国民のうちメディケアで約一三%、メディケイドで約一一%しかカバーされていない。しかもメディケアは薬代をカバーしていないため、高齢者は民間保険にも重複して入らなければならない。このため国民の約七〇%は民間保険会社の医療保険に加入しているという。医療に関しても、文字通り「小さな政府」、「民にできることは民にやらせろ」という米国流の市場原理主義的イデオロギーが貫徹されているのだ。

 民間保険会社の保険料は、もちろん市場原理が貫徹される。例えば大企業の社員は、会社が一括して保険会社と契約するので、大口顧客として保険会社に値引き圧力をかけることができるため保険料が割安となり、低負担で「世界最先端」の医療を受けられる。

 一方、保険会社は大口契約で削られたマージンを小口契約で補填しようとするため、自営業者、退職者など個人で保険に入ろうとする人などには割高な保険料を請求する。その結果、所得の低い人ほど保険料が重くなるという負担の逆進性が常態化している。「小さな政府」で個人の自己負担が小さくなるわけではなく、むしろ逆なのである。

 このため、メディケイドでカバーされている低所得者層と、民間保険会社の保険料を負担しうる富裕層との中間に、公的保険にも民間保険にも入れない無保険者層があって、二〇〇二年にはそれが四四〇〇万人、国民の約一五%にもなっているという。無保険者は費用を心配するあまり、よほどの重症にでもならない限り病院にも行けず、行ったところで診察を拒否されたり、診察代を払いきれなかったり、といったトラブルに陥る。米国では医療費負担にともなう個人の自己破産が、クレジットカード破産に次いで多いとも聞く。病気に罹ることはまさに人生の破局に直結する。

長生きしたければもっとカネを払え

 こうした事情の帰結なのか、0ECDの調査によれば、米国は世界最高の医療費を費やしながら、平均寿命、乳児死亡率、いずれも先進国で最低であり、WHOの二〇〇〇年の報告でも米国の医療制度の評価は世界第十五位と悲惨である。米国医療の実態は、「小さな政府」が国民経済全体的には高負担・低福祉をもたらすことを示唆している。一方、日本の医療制度は米国より安い医療費で、WH0から世界第一位の評価を得ているのだ。この歴然たる事実は、市場原理の導入による医療の効率化を喧伝する「改革」論者を顔色なからしめるものがあるはずだ。

 にもかかわらずその日本で、来年の通常国会に向け医療制度「改革」が推し進められている。昨年九月、小泉総理は唐突に、混合診療の解禁について年内に結論を出すよう関係閣僚に指示した。竹中大臣が仕切る経済財政諮問会議と、オリックスの宮内義彦会長が議長である規制改革・民間開放推進会議が連携して推し進めたものの、日本医師会と厚生労働省が激しく抵抗したため、昨年は本格的な解禁が先送りとなった。

 今年、経済財政諮問会議は戦術を変え、医療費総額の伸び率に数値目標を導入し、公的医療費を抑制する仕掛けを作ろうと画策している。そうなると公的保険の給付範囲をせばめる必要が出てくる。つまり、政府が価格や報酬を抑制している公的医療保険が利く分野が減らされ、外資を含む製薬会社や民間医療サービス業者が自由に価格や報酬を決められる「保険外診療(自由診療)」の分野が拡大されることにつながる。公的医療保険に代わって保険外診療分野をカバーする民間医療保険への二ーズも発生する。それは日本の医療制度に市場原理を導入し、公的医療保険を「民」すなわち米国の製薬業界、医療関連業界、そして保険業界に対して市場として開放することにほかならない。米国政府は初年度九四年以来一貫して、医薬品と医療機器分野を『年次改革要望書』の重点項目に位置づけているのだ。

 「長生きしたければもっとカネを払え。払えない年寄りは早く死ね」。ホリエモンは「人の心はカネで買える」と言い放ったが、「人のいのちもカネで買える」時代がまさに到来するのだ。

 かくも重大なテーマであるにもかかわらず、先の総選挙ではどの政党も医療制度問題をまともな争点にせず、逃げをうった。小泉圧勝を受け、経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議などの「改革」推進勢力はいよいよ居丈高となり、今や破竹の勢いである。すべては「民意」の名の下に正当化され、もはや誰にも止めることはできそうもない。その結果がどう降りかかろうと、決定を下した我々国民の自己責任というわけだ。

 『年次改革要望書』は今年で十二冊目を数える。すでに十年以上の長きにわたって、既成事実を積み重ねてきた。たとえ来年、小泉総理が退陣したとしても、『年次改革要望書』とその受け皿である経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議が命脈を保つ限り、米国による日本改造は未来永劫進行する。それを阻止できるものがあるとすればそれは、草の根から澎湃と湧き起こり、燎原の火の如く広がる日本国民の声のみである。


以上、転載終り

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コメント

いつもお邪魔しております。
TBさせて戴きます。

投稿: おぅんごぉる | 2005年11月20日 (日) 10時47分

はじめまして。
素朴な疑問なのですが、
これって著作権の問題は
ないのでしょうか。

投稿: ゆき | 2005年11月20日 (日) 19時14分

わたしもゆきさんと一緒で、
著作権の問題が気になります。
引用にとどめる、という範囲でないと。

投稿: 野良狸 | 2005年11月20日 (日) 19時52分

本文に書かれている、※コメント欄で、…以下を、今気付いて読みました。
これで著作権の問題がクリアーできる理由だとは私には思えませんでした。
ウィキペディアで「著作権」「引用」の部分を目を通してみて欲しいと思います。
ちなみに私の上に書かれたゆきさんは、批判ではなく、親切心だったかもしれないと私は思います。
「メールアドレスもリンクもなしの匿名氏」というような扱いはどうかと思います。

投稿: 野良狸 | 2005年11月21日 (月) 23時19分

わたしの素朴な疑問に対して反応をいただき
有難うございます。
著作権の問題はないとお考えのようですので、
やはり転載に関する許諾をえたほうがよいか
と思います。

文藝春秋では知財法務部という部署がFAXで
問い合わせを受け付けているようです。

http://www.bunshun.co.jp/feedback/chosakuken.htm

文藝春秋、または著者の許諾があることを
ブログ内に明示したほうが、サイト訪問者も
安心して記事を閲覧できるのではないかと
思います。

投稿: ゆき | 2005年11月22日 (火) 20時20分

今日も(11月23日)医療制度・医療保険制度について、マスメディアは、にぎやかなことです。
 マスメディアについてTBしておきます。

投稿: harayosi-2 | 2005年11月23日 (水) 14時59分

TBありがとうございます。セキュリティー関連やTB関係の
記事を参照いたしました。これからもよろしくお願いしま
す。

投稿: rosso_fiolencino | 2005年12月 3日 (土) 19時43分

意見は細かいところで色々違いますが、とにかく選挙に行くことが重要ってのは共通していると思います。選挙に行かず世の中に文句を言う人を見ると本当に馬鹿かと思います。しかしみなさんどうしてそんなにアメリカが好きなのか疑問ですね。僕はとりあえず飢え死にするほど生活は困窮していないのでいいですが、貧しい人ほど選挙に行って、現政権にNOと言うべきなのに・・・教育の問題でしょうか・・・

投稿: mondo | 2006年1月 4日 (水) 00時47分

この度の参議院選挙では、有権者は賢い選択をしなくてはなりません。荒井広幸氏に刺客を放ち意図的に落選させるなど言語道断です。

投稿: tron | 2007年6月 3日 (日) 20時37分

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受信: 2005年11月22日 (火) 18時43分

» マスメディアのキャンペーン [医療制度改革批判と社会保障と憲法]
マスメディアのキャンペーンは、権力側の企図を実現させるための、事前のデマ宣伝だと看破しておかなければ、まことしやかな報道攻勢が、繰り返し扇情的な内容で続くと、多少の問題意識を持っていても、ついつい乗せられてしまいます。  テレビをよく見ている高齢者が、小泉自民党に投票したという、先般の総選挙での投票行動調査結果についての記事がありました。みずからの首を締めることになるにもかかわらず、テレビなどの�... [続きを読む]

受信: 2005年11月23日 (水) 15時02分

» 「医療制度改革」のゆくえ [川辺より]
「医療制度改革」をめぐる攻防が続いているらしい。 [続きを読む]

受信: 2005年11月27日 (日) 15時34分

» 新自由主義の行く末は [奥田健次の教育改革ぶろぐろ部]
今年5月に学会発表をするためにシカゴ(Chicago)に行った際、帰りにサンディ [続きを読む]

受信: 2005年11月29日 (火) 19時24分

» 断固反対!!医療制度改悪 [世相春秋]
今回、私は怒髪天を衝(つ)く思いで、この記事を書いています。 小泉内閣が打ち出した、「三位一体改革」とは、これまで、この国に貢献し てきた高齢者にまで、「痛み」を与え、余生を健康で健やかに過ごそうとい うお年寄りの願いを、むげにするこの政府のやり方に、激しい怒りを感じ ます。 政府与党は、来年の医療改革制度の大綱案をまとめ、その政策内容が ほぼ決着したようです。来年度から、患者の窓口負担を現役並みの収入 がある70歳以上で2割~3割の「負担」とし、'08年から一般的な所得の人 々... [続きを読む]

受信: 2005年12月 3日 (土) 19時41分

» 「混合保険」解禁が日本人を殺す [不条理日記]
らくちんランプの、「ペテン師」小泉純一郎は、貧乏人は「死ね」と言うのかというエントリーにて紹介されていた読売の記事によると政府は、 国民年金の未納者に対し、国民健康保険を使えないようにするつもりらしい。 年金未納なら医療費は全額自己負担に、厚労省が検討 厚..... [続きを読む]

受信: 2006年1月15日 (日) 01時17分

» 今週の丸激ゲストは「拒否できない日本」の関岡英之さんです [ビデオジャーナリスト神保哲生のブログ]
「拒否できない日本」の大ヒットで一躍時の人となった関岡さんは、実は私の小学校の同... [続きを読む]

受信: 2006年3月 6日 (月) 21時48分

» ここにもアメリカの影が 細野透「耐震偽装」(日本経済新聞社) [梟通信~ホンの戯言]
著者は大学・大学院で建築・構造を学んでジャーナリストになり「日経アーキテクチュア」編集長などをやった人。姉歯の事件が起きたときは病気で取材ができなかった。その分、過去に遡って「耐震設計」規制の歴史をふりかえりながら問題を提示する。 マンションづくりのプロセスにかかわる分譲会社、設計事務所、行政および確認検査機関、建設会社の役割をおさらいする。いくつかのポイントでその気になっていれば耐震偽造は見抜けたはずだ。特に施工に当たる建設会社は見積もりの段階で積算担当者が図面をもとに鉄筋の量、鉄骨の量、コ... [続きを読む]

受信: 2006年3月14日 (火) 11時31分

» アメリカ第51番目の州になってしまうのか日本 吉川元忠・関岡英之「国富消尽](PHP) [梟通信~ホンの戯言]
興銀産業調査部副部長、コロンビア大学客員教授、神奈川大学教授などを歴任した吉川氏は本書(東京銀行、国際協力銀行、早稲田大学で建築研究の関岡氏との対談)の刊行を待たずして昨年10月に逝去。これはいわば彼の遺言。今日のホリエモン事件を予想している。彼の論を敷衍すればこの事件は堀江個人の特殊なものではなく「株価の時価総額が企業価値である」という考え方を行動原理とすることに起きがちな事件なのだ。不正会計スキャンダルはアメリカの企業社会に深く根ざした構造的な問題であることが指摘されている。 時価総額... [続きを読む]

受信: 2006年3月14日 (火) 11時32分

« 奪われる日本――「年次改革要望書」米国の日本改造計画 警告レポート、米国に蹂躙される医療と保険制度、関岡英之(前半) | トップページ | NHKスペシャル「兵士たちの帰還~イラク駐留 アメリカ州兵部隊」(映像写真14枚) »