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2007年7月15日 (日)

7月15日の地方紙:沖縄タイムス、琉球新報、東京新聞、河北新報、京都新聞 主要紙:朝日、毎日、読売、産経、日経の社説&コラムです。

 来る参院選は、これからの日本の運命を決定付けてしまう重大な選挙だと思います。

 「日本の9・11」衆院・郵政選挙では、特に朝日新聞(系列TVも含む)に見られた小泉政権へのすり寄りはひどいものでした。まさか産経と朝日が同じ論調になるとは思いもよらない事態でした。

 参院選投票日までに、これからどのようなマスコミをわれわれは目撃することになるのかここに資料として保存します。(資料保存スタート時の考え

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【沖縄タイムス・社説】(2007年7月15日朝刊)

[「年金」確認基準]その曖昧さに懸念が残る

 総務省の「年金記録確認中央第三者委員会」(委員長・梶谷剛前日弁連会長)が、年金記録に残っていない年金を回復させるかどうかについての判断基準を決定した。

 基準の一つは、保険料を支払った証拠がなくても「社会通念に照らして明らかに不合理ではなく、一応確からしい」と思われるのであれば給付の判断材料にするというものだ。

 二つ目は、「(給付を認める)肯定的な関連資料」や「周辺事情」に基づいて判断する内容になっている。

 「関連資料」とは、給与明細や預貯金の記録、家計簿の記録、確定申告の控えなどである。

 「周辺事情」は、申立期間が短期間だったり、事業所の人事記録や事業主の証言が得られる場合だ。

 三つ目は、関連資料や周辺事情がない場合でも、「申し立て内容によって総合的に判断する」ことで回復を図るとしている。

 年金を支払ったかどうか確認する領収書などを保存していなかったり、なくしてしまった受給者や加入者にとっては確かに朗報といっていいだろう。

 数十年も前の証拠や証言が全くないケースについても、救済を目指そうというのだから、中央第三者委員会の取り組みは評価こそすれ、異を唱えるものではない。

 だが、それでも同委員会が示した判断基準が客観的かつ公正な形になっているのかどうか。どうしても疑問を抱かざるを得ないのである。

 ありていに言えば、いずれも漠然とした内容になってはいないかということである。

 これでは地域によって判断が異なったりする不安もあるのではないか。つまり、その曖昧さがかえって混乱を招く可能性を秘めているのではないか。そのような懸念が消えないのである。

 一例を挙げれば、証言に虚偽があったり、家計簿などの改ざんがあった場合にはどうするのか。

 どうしても回復が認められない場合もあるはずだ。であれば、どのようなものが不可能なのか、事例を具体的に提示し、不正請求を防ぐ手だてを講じるべきだと思うのである。

 十七日までには全国五十カ所に地方第三者委員会が設けられる。だが、地方委の審査の在り方に迷いが生じスムーズに確認作業が進まなければ、逆に年金問題への不信感を増幅させる可能性も否定できまい。

 県内では、社会保険労務士や弁護士、行政相談員など五人の委員が審査に当たる。県民の疑念を招かないよう慎重で公平な審査を求めたい。

[違法金利対策]司法判断の前に対策急げ

 貸金業界に、また厳しい司法判断が突きつけられた。

 利息制限法の上限金利(年15%―20%)を超える過払い金の返還をめぐる上告審判決で、最高裁第二小法廷は十三日、消費者金融会社が過払い分を返還する際、原則的に年5%の利息を付けなければならないとする初判断を示した。

 消費者金融会社は利息制限法の上限金利を超えて貸し付けた場合、「やむを得ない事情がない限り」過払い発生時点から5%の利息を付けて借り手に返すことになる。個々の借り手にすれば5%の利息は決して大きな額ではないが、全国で過払い金の返還訴訟が相次ぐ中、会社側の負担がさらに重くなるのは必至だ。

 過払い金の返還をめぐって借り手有利の司法判断が相次いだ。二〇〇九年末には改正貸金業規制法で出資法の上限金利(年29・2%)が20%に引き下げられる。無登録業者「ヤミ金」への罰則も強化されるなど、違法金利から借り手を保護する法制度は整いつつあるが、増え続ける多重債務者や「ヤミ金」問題の解決は容易ではない。

 とりわけ、「ヤミ金」の一掃は緊急の課題だ。法外な金利で貸し付ける手口は巧妙、悪質化し、債務者への容赦ない取り立ては全国各地で悲惨な事件を起こしている。違法に集められた資金は暴力団に流れており、国を挙げた取り組みが必要だ。

 貸金業規制法の改正をめぐっては、〇四年二月に「みなし弁済」の適用要件厳格化を求めた最高裁判決以降、〇六年一月の出資法上限金利(年29・2%)と利息制限法の間のいわゆる「グレーゾーン金利」での貸し付けを無効とした判決など司法判断が先行。その後に立法、行政が続く傾向があった。

 金の貸し借りをめぐる複雑な法解釈が伴うため、一定の司法判断は必要だろうが時機を逸しては意味がない。多重債務者を減らすための消費者教育も充実させる必要がある。「ヤミ金」被害者の支援態勢など立法、行政がやるべきことはたくさんある。

【沖縄タイムス・大弦小弦】(2007年7月15日 朝刊 1面)

 以前、芸能担当をしていたころ、事前PRで来社するアーティストらから「沖縄では開催間際にならないとなかなか券が動かない」の声を聞いた。

 おっとりした県民性によるものなのか。見たい、聴きたいと思っていても前売り券購入にはつながらないのが現状だった。二十一日から沖縄市で開幕する国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ(キジムナーフェスタ)の前売りがかつてないほど好調な売れ行きらしい。

 今年で三回目。弊社が共催として関わっている関係から、中部支社時代、過去二回のフェスタをバックアップした。編集特集をつくり、全面広告も展開したが、前売りは芳しくなかった。

 「世界各国のパフォーマンスが沖縄に居ながらにして鑑賞できるまたとない機会。もったいない」。スタッフは嘆き節だった。それでも、いったん開幕すると、客がどんどんやってきた。

 せっかく前売り券があったのにと不思議に思っていた。それが今年はどうだ。開催一カ月以上前の六月初旬から中旬にかけての先行予約、一般前売り開始段階で、電話四回線がパンクするほどの盛況ぶりだった。

 「一度見た人は良さを分かっている。多様性のある演劇の世界。異文化との出会いで観客自体の目が養われた。デジタルの時代だからこそ、生の舞台の力が観客の心を揺さぶる」。先のスタッフは誇らしげだった。百聞は一見にしかず。「生」の力に触れてほしい。(崎浜秀也)


【琉球新報・社説】

枯れ葉剤使用 地位協定の改正しかない

 このままやぶの中、とうわけにはいかない。ことはあまりに重大だ。在沖米軍が1960年代、沖縄本島北部訓練場でダイオキシンを含む枯れ葉剤を使用していたとされる問題で、米側は13日までに「(枯れ葉剤が)使用、貯蔵されていたことを示す資料、証言や記録はない」と回答してきた。防衛施設庁と外務省が明らかにした。
 施設庁の地引良幸次長は、米側への照会以外の対応を聞かれ「それ以外に手法がないので、まずは米側に確認するのが第一だ」と述べている。つまり、自ら現地調査なり、事実を究明する気はないということになる。案の定、日本政府としては新たに土壌調査、水質調査を求める予定はないとも明言した。日米ともこれで幕引き、としたいのだろうが県民としては到底、納得できるものではない。
 今後も米側に対し、あらゆる手だてを講じて事実の究明を求めてほしい。もちろん、日米地位協定を盾に米側が難色を示してくるのは十分、予想できる。よもや日本政府がその土俵に、安易に乗るようなことがあってはならない。そうであるならば、やはりわれわれとしては不平等の根源である地位協定の改正を、強く訴えていかざるを得ない。
 枯れ葉剤の散布に関しては、作業に携わった元米兵が前立腺がんの後遺症を認定されていたことがこのほど、米退役軍人省の公式文書で明らかになった。枯れ葉剤に含まれるダイオキシンは環境の中では消えず、一般に土壌汚染は長期間続く。発がん性があり猛毒とされ、ベトナム戦争では、枯れ葉剤が米軍によって大量に散布された。この地域ではがんや先天性異常児、流産、死産などが多発。また帰還米兵にも被害が出ている。
 北部で散布との報道の直後、ショッキングなニュースが飛び込んできた。当のやんばるで、国指定天然記念物リュウキュウヤマガメや県指定天然記念物ナミエガエルなどから異変が見つかった、というのだ。一部の爬(は)虫(ちゅう)類や両生類に、目や口の周りがただれたり、足の指が溶けるなどの異常が観察されていた。
 関係者によると、異変は10数年前から見られた。確認場所は、大宜味村と東村の境界にある玉辻山から国頭村の与那覇岳にかけた沢筋や、広域基幹林道の奥与那線の周辺など、北部訓練場を取り巻くように広範囲にわたっている。
 もちろん、これが枯れ葉剤の散布と関係がある、とは断定できない。まず必要なのは、事実の確認であり、汚染の実態を調べることだ。「記録がない」が即「事実がない」とはならない。いたずらに不安をあおるつもりはないが、徹底的な調査とその公表以外、県民の懸念を解消する方法はない。

(7/15 10:57)

イラク情勢 早期撤退で泥沼脱出を

 イラク情勢が泥沼化する中、米軍の出口戦略が見つからない。大義名分のない戦争に突入したブッシュ政権に、内外での四面楚歌(そか)という事態が明らかになりつつある。ベトナム戦争を教訓にするまでもなく、ここに至っては、イラクからの早期の撤退が求められる。米国にとって、そのことこそが泥沼化を抜け出す唯一の方策だということに、ブッシュ政権は早く気付くべきだ。
 米下院本会議は12日、イラクに駐留する米軍の主要部隊を遅くとも来年4月1日までに撤退させることを定めた、新たな法案の採決を行った。その結果、223対201の賛成多数で可決された。
 法案では、イラク撤退の対象は米外交施設の警護やイラク治安部隊に対する訓練、アルカイダの掃討作戦に従事する兵士を除く全駐留米兵。法案成立後、120日以内、または来年4月1日までの撤退を規定している。
 ブッシュ大統領はこれに先立ち、イラク政策に関する中間報告で一定の進展を強調。「撤退は支持率を上げるには役立つかもしれないが、長い目で見れば米国の安全に重大な影響をもたらす」と当面の撤退はないと言明している。今回の法案可決により、議会多数派の野党民主党は大統領に徹底抗戦する意思を一段と鮮明にした。
 また、民主党のリード上院院内総務は「大統領はイラク政策の失敗を認め、アルカイダ打倒に集中すべきだ」と声明を発表、大統領に政策転換を強く求めている。実は、イラク政策については身内からも異論が続出しているのが現状だ。来年の改選を控え、地元に戻ってイラク政策の不人気ぶりを目の当たりにした共和党の上院議員らから“造反”が相次いでいる。
 これ以上、イラク国民の犠牲者を増やすわけにはいかない。米軍撤退でかえって内戦が激化するという懸念もあろうが、逆に米軍の存在がいたずらに緊張をあおる、という側面も否定できない。
 「異民族支配」の不合理さは、われわれ県民が身をもって体験している。困難はあろうと、誇りを持って自治を実現してほしい。そのためにも米軍の早期撤退が必要だ。

(7/15 10:55)

【琉球新報・金口木舌】

 子供たちはお化けごっこが大好きだ。白いシーツを頭からかぶり「お化けー」と声を上げては人を驚かせる
▼精神分析ではこれを「攻撃者との同一視」と言う。内心恐れているもの(お化け)と自分を同一化させ、恐怖から逃れようとする心理を指す
▼ 先日開かれた復帰35年記念シンポジウムで興味深い指摘があった。沖縄の人が「日本人になりたがる」のは「攻撃者との同一視」だと東江平之さん(社会心理学)が分析していたのだ。「明治初期の沖縄人への犠牲と差別の強要がいかにすさまじかったかを物語っている」と東江さん。同時に「犠牲と差別は昔ほど露骨に降り掛かってこないから、今の若い人には理解されないだろう」とも
▼だが、最近の政府の動きはどうだろう。頭越しの米軍再編、教科書検定、基地移設への自衛隊導入。県民世論を露骨に無視する決定が相次いだ。「出来高払い」との言葉は攻撃的ですらある。県民の意思で軌道修正できないもどかしさも募る
▼シンポジウムでは復帰後、県民の依存心が強まり、かえって自立から遠のいたとの指摘もあった
▼35年後、県民は依存心を克服し、自己決定権を持っているだろうか。そんな考えが脳裏をよぎった。

(7/15 10:54)


【東京新聞・社説】

週のはじめに考える 来世紀はくるだろうか

2007年7月15日

 発見されたニュートンの予言からするとあと五十年ほどで世界の終末が来てしまいます。「杞憂(きゆう)」と一蹴(いっしゅう)したいのですが、その兆候がなくもないところが不気味です。

 英国の数学・物理学者で万有引力や微積分を着想したアイザック・ニュートン(一六四二-一七二七年)は、力学、数学、光学の分野で人類史に輝く業績を打ち立てた同じ献身的努力を錬金術や神学、聖書研究にも尽くしたことで知られています。

 ニュートンの残した膨大な手稿や蔵書目録は二十世紀になって競売に付され、大経済学者のケインズも収集に尽力し研究したようです。

 2060年の世界終末論

 外電などによると、ニュートンの予言はエルサレムのヘブライ大学図書館に保管中の資料群のなかから発見されました。一七〇〇年代初頭のニュートン直筆の文書で、内容はちょっと衝撃的でした。

 「早ければ二〇六〇年に世界の終末が来る」-。

 旧約聖書のダニエル書を解読して終末年度を割り出したらしいのですが、ケプラーやデカルト、カントなどの十七、八世紀の科学者、哲学者の信念は、天体の運行や自然現象、人間の歴史には神の意思と普遍原理がひそみ、それを探り出すことを任務にしたといわれます。

 ニュートンの予言が遊びや余技であるはずがありません。

 キリスト教に最後の審判があり、仏教に末法の世があるように、世界の終わりについての思想や観念は、いつ、いかなる時代にもあり、個人の意識のうえにさえ現れます。

 気がかりなのは、予言内容が日増しに高まる地球や文明の危機の声と軌を一にしていることです。ことに温暖化による地球の危機はもうだれも無視できず、世界政治の現実課題にさえなってきました。

 地球温暖化は産業革命とともにはじまり、石炭石油などの化石燃料の大量使用による二酸化炭素(CO2)の大量放出で加速され、地球の危機を顕在化させてきました。

 気温が6・4度上昇したら

 国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、二〇〇五年の大気中のCO2濃度は三七九ppmに達したとのことです。

 これは産業革命前の濃度の一・四倍で、南極の氷床コアの測定からは産業革命までの六十五万年の地球の歴史にCO2の濃度が三〇〇ppmを超えたことは一度もなかったことがわかるのだそうです。

 気温の上昇は、暴風、干ばつ、熱波、寒波などの異常気象で農作物の減少や農地の砂漠化をもたらし、山岳氷河や南極北極圏の氷河の溶解は、水没や洪水となって襲います。

 ことし二月のIPCC報告では、何の対策もなければ、二〇五〇年代には飢餓人口が世界で最大一千万人、水不足が十億人増え、二十一世紀末の気温は最悪で六・四度上昇すると警告しました。

 三度上昇で低地の海岸地域の一億七千万人、四度で三億人に洪水の危機などの数字はありますが、六度の上昇となると予測はつきかねるようです。壊滅的打撃になることは間違いなく、「二〇五〇年までに温室効果ガスの50%削減」は世界各国にとって至上命令でしょう。

 「BRICs」と呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国の経済躍進は地球温暖化と世界の人口増の要因でもあります。六十億の人口は二〇三〇年に八十億、二〇五〇年に九十億人と予測され、飢餓が地球を覆いかねません。

 人類が新しく手にしたロボットや遺伝子工学、バイオテクノロジーやナノテクノロジーは核兵器と同じく誤用や悪用によって大惨事を招きかねず、「人類が今世紀を生き抜けるかどうかは五分五分」とみる科学者も少なくないのです。

 われわれの時代の宇宙物理学や生命科学が明らかにしたところによると、この宇宙は百四十億年前のビッグバンによって生まれ、宇宙の雲の収縮や微惑星の衝突で四十五億年前に太陽や地球が誕生しました。

 地球上の生命は四十億年前、単細胞から多細胞へ、複雑な動物へとの進化をたどり、猿人の出現は七百万年前で現代人はわずか十九万年前のことだそうです。

 宇宙や地球の歴史に比べれば、人間の時代はまだ一瞬の閃光(せんこう)で、しかも何度かの生物絶滅の危機をくぐり抜けての奇跡の結果でした。われわれの時代で終わらせるわけにはいかないのです。

 ニュートンの予言に意味があるとしたら、われわれ人間の奢(おご)りへの戒めでしょう。

 「貪らず」が地球を救う

 産業革命以来の解放された物欲の追求は他を顧みない自然や生態系の破壊となり、エネルギーの途方もない費消は宇宙空間から眺める夜の地球を光の帯の連続にしました。一将の功なって万骨枯る型の企業経営もまかり通っています。

 しかし、「諸行無常」「奢れるもの久しからず」は平家物語以来の真理です。「貪(むさぼ)らず」は日本人の理想とする境地で、地球を救う生き方でもあるのでしょう。

【東京新聞・筆洗】2007年7月15日

 日本が先進国ではないと言われれば、多くの人が反発するだろう。でも政府が閣議決定している二〇〇七年度版の「男女共同参画白書」を読むと、反発できそうにない▼女性の社会参画の現状を、アジアや欧米などの十一カ国と比較した数字が載っている。働く女性の割合で見ると、約41%と各国とほぼ同水準だが、管理職に占める割合は約10%にすぎない。フィリピンの約58%、米国の約43%に比べて著しく低く、十二カ国中の十位にとどまる▼国会議員に占める割合は十一位、国家公務員に占める割合もデータがない二カ国を除いて最下位。これでは白書も「日本の女性の社会参画は、国際的に見ても全般的に低い水準」と書かざるを得ない▼政府は二〇年までに、管理職など「指導的地位に女性が占める割合」を少なくとも30%程度にする目標を掲げている。達成できたとしても国際的に高い水準と誇れそうにないが、先進国の仲間には入れてもらえるだろう▼『メガトレンド』などのベストセラーがある米国の未来学者ジョン・ネイスビッツ氏はかつて「女性が日本を救う」と話していたという。日本は男性という「半分の能力」だけを使って発展してきた。その社会に、企業に問題があると思うならもう半分の能力、女性を登用すればいい。必ず変革できる。これがネイスビッツ氏の日本分析になる▼年間の自殺者が三万人を超え、うつ病で苦しむ人も増えている。利益優先の中で信頼を失う企業が後を絶たない。これ以上の事例を挙げなくても、とうに女性の出番は来ている。


【河北新報・社説】

通信と放送の融合/法律一本化は十分な議論を

 放送法や電気通信事業法など、現在9つある通信・放送関連の法律を再編しようという動きが本格化してきた。

 総務省は先月、地上テレビ放送がデジタルに完全移行する2011年度に関連法を情報通信法(仮称)に一本化する方針を表明。同省の研究会は一本化の具体的内容を示した中間報告をまとめている。

 インターネットの発達、ブロードバンド(高速大容量)通信網や携帯電話の普及などによって、旧来の通信と放送の区別が意味をなさなくなっていることは確かだ。

 テレビ局がインターネットで映像を配信したり、インターネット事業者が独自の番組を配信したりするなど、通信と放送の垣根を越えた融合的なサービスが拡大している。

 情報通信技術の急速な進歩に法整備が追いつかず、さまざまな摩擦が生じている。新たなビジネスモデルの足を引っ張る弊害も指摘される。法律を抜本から見直す必要性は高い。

 ただ、関連法を一本化するとなれば、広範囲に影響を及ぼす大規模な法改正となる。とりわけ、放送における報道機関としての役割が制約を受けるようなことがあってはなるまい。拙速を避け、幅広く十分に議論することが求められる。

 現在の法体系は、地上放送、衛星放送、ケーブルテレビなどの放送と、固定電話、携帯電話、インターネットなどの通信に分けられ、メディアごとの「縦割り型」になっている。

 この法体系の再編については、政府のこれまでの研究会や懇談会などで、既に方向性が示されている。

 通信と放送の区別をなくし、サービス内容によって、コンテンツ(情報の内容)、伝送サービスなど、レイヤー(階層)に分ける「横割り型」に転換するというものだ。

 コンテンツなどの単一のレイヤーに特化した事業者があってもよく、複数のレイヤーを組み合わせる事業者があってもいいことを示す。現在のテレビ局の場合は、コンテンツから伝送サービスまでレイヤーを越えて一貫して手がける事業者ということになる。

 研究会の中間報告も「横割り型」を踏襲している。
 急速な技術革新に対応しやすくし、新規参入を促して多様な事業展開を可能にするためには有力な考え方だろう。産業界がこの方針を強く支持する背景もそこにある。

 一方、民放連は「ハード・ソフトの分離につながり、地上テレビ放送に重大な影響を及ぼす」として強く反対している。

 中間報告は、地上テレビ放送を「特別メディアサービス」として、現行の規律を原則維持する考えを示しているが、レイヤーの概念をより明確にし、競争ルールや「有害・虚偽情報」の規制の在り方などをさらに示すことが必要だ。

 著作権の問題やセキュリティー対策など、多くの課題の解決も求められる。あくまでも国民の立場に立った改革を目指すべきなのは言うまでもない。
2007年07月15日日曜日

【河北新報・河北春秋】

 青空と潮騒が招く海浜公園に、クラフト作家のテントがずらりと並んだ。陶芸、漆器、木工、彫金、染色…。さながら雑貨市場のような雰囲気だ。先日、青森県鯵ケ沢町で開かれた野外フェア「C―POINT2007」▼7回目を迎えた今年は、各地から約150人が集い、個性を競った。楽しみは作家とのふれ合い。お国言葉が飛び交う中、作品を買い求める多くの人々でにぎわった

 ▼ こうした工芸の世界に、いち早くスポットライトを当てたのが、思想家の柳宗悦。身近な雑器に「用の美」を見いだし、民芸運動を起こした。何よりも大切にしたのが「直観」。本質に迫るためには、何事にもとらわれず、じかに見ることの大切さを説いた▼「有名だからよいと思って見たり、評判に引きずられて見たり、主義主張から見たり、自分の小さな経験を基にして見たり、なかなか純には見ぬ」(日本の眼)。色眼鏡で曇った我々(われわれ)の目をこう批判した

 ▼ 物だけではない。人物の鑑識眼も同じことだろう。天下分け目の参院選が公示された。日本の将来を託す議員を選ぶには、柳のような「目利き」でありたい▼有名人だから、経歴が立派だから、というのでは情けない。ましてや、しがらみや己の利害で選ぶというのでは…。じかに見てほしい。政治家としての力量を。

2007年07月15日日曜日


【京都新聞・社説】

第三者委初判断  これで安心とはいかぬ

 支払い損にはさせません。約束通り、年金をもらえるようにします-と言いたいのだろう。
 総務省の「年金記録確認中央第三者委員会」が、保険料納付の領収書などの証拠がない十五件について、年金給付を認める初めての判断を示した。
 社会保険庁のずさんな管理で、年金記録が消えたり、宙に浮いたりして不安に思っている人には朗報に違いない。
 だが、中央第三者委が審査にかけた日数は、わずか四日。首相官邸の意向も踏まえて、とりあえず給付を認めるケースを急いで示したのではないか、との印象がぬぐえない。
 加えて、今回、審査したのは社保庁に再審査請求があった二百八十四件のうちの三十六件にすぎない。給付を認めた十五件以外の二十一件は継続審議としており、判断基準は依然、あいまいな部分が残されたままなのだ。
 安心するのは、まだ早い。
 十五件の内容をみると、領収書はないものの家計簿に支出を付けていたケースを認めるなど、幅広い給付容認に一定の道筋をつけたとの見方もできよう。
 ただ、中央第三者委が九日に発表した「明らかに不合理でなく、一応確からしい」との判断基準に関連資料や周辺事情などを加味する、という基本方針に当てはまるものが多いのも確かだ。
 いずれも比較的、判断しやすいケースというわけだ。ところが、実際に審査を申し立てる人の中には、保険料を払ったけれど関連資料がないケースや本人の勘違い、さらには虚偽の申し立てもあるかもしれない。
 そこの線引きがはっきりしないと、現場で対応する地方第三者委員会は戸惑うばかりだろう。地方によって、判断がバラバラになる恐れもある。
 十七日からは、京都、滋賀など全国五十カ所の地方第三者委で審査申し立ての受け付けが始まる。
 中央第三者委は、給付が認められないケースも含め、判断材料となる具体例をできるだけ多く示し、基準の明確化に努めるべきだ。
 不明年金の原因と責任を明らかにするため、第三者委と並行して総務省に設置された年金記録問題検証委員会の論議も気になる。
 中間報告では、社保庁の労働慣行や組織を批判しただけで、歴代の厚相、厚労相らの政治責任には言及しなかった。秋の最終報告まで先送りしたのだ。
 年金批判の逆風で苦戦を強いられている政府・与党が、これらを参院選対策と考えているとしたら逆ではないか。
 国民が求めているのは、納得のゆく給付の判断基準を示し、問題の原因と責任をはっきりさせることだ。
 年金の財源など、どんな制度にするかの議論とともに、失われた信頼の回復を図ることも忘れないでもらいたい。

[京都新聞 2007年07月15日掲載]

寧辺の核施設  停止を誠実に履行せよ

 北朝鮮の核廃棄を目指す六カ国協議の枠組みが、やっと実質的に機能し始めたといってよかろう。
 ことし二月の合意に基づき寧辺にある核施設の停止・封印を検証する国際原子力機関(IAEA)の査察官が、四年半ぶりに北朝鮮に入った。
 韓国からは同じ日、施設停止などの見返りに提供される重油を積んだタンカーの第一便が北朝鮮に到着。十八日からは六カ国協議(首席代表会合)が、北京で再開されることも決まった。
 重油タンカーの入港と同時に、寧辺の核施設を停止するのが北朝鮮の公約だった。約束は忠実に履行すべきだ。新たな条件を持ち出したり、理由をつけ時間稼ぎをすることはもう許されない。
 日米を含め、六カ国協議に参加する各国にとって、いまは北朝鮮に確実に稼働停止させることが最も重要だ。
 停止を見届けるまで、北朝鮮と直接交渉したり個々に対応すべきではない。対応に違いを見せれば、北朝鮮は各国間の分断を図ったり、新たな条件を持ち出してくる可能性があろう。
 六カ国協議の二月合意では、核放棄へ向けた初期段階と第二段階の措置が決まっている。
 初期段階では、重油五万トン提供などを条件に北朝鮮が寧辺の核施設を停止・封印する。第二段階では、重油九十五万トン相当の提供などを条件に「すべての核計画の完全な申告と、全核施設の無力化」を実現させる予定だ。
 マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)の資金凍結問題で、六カ国協議は三月から中断したが、米国の超法規的措置で資金が北朝鮮に戻され、障害は取り払われた。
 初期段階措置の履行期限からすでに三カ月が過ぎたとはいえ、難航した交渉がIAEAによる査察再開までこぎ着けたのは喜ばしい限りだ。ここを起点に、段階措置を一つずつ確実に進め核廃棄への道筋をつけたい。
 気がかりなのは、最近の米国が見せる焦りと北朝鮮への融和的な姿勢だ。一月のベルリン米朝協議や、六月のヒル国務次官補の「電撃訪朝」は、直接交渉優先の意図が明白で、六カ国協議の枠組みを形がい化させかねない。
 足元を見透かすように、北朝鮮は最近になって、国連を交えた米朝軍事会談を提案してきた。この中で米韓合同演習などを挙げ「米国が軍事的圧力を加え続けるなら、六カ国協議の合意も吹き飛ぶ」などと脅している。
 今後の交渉で、主導権を握る思惑だろう。米国によるテロ支援国家指定の解除も狙っているようだ。
 揺さぶりに屈しないためにも米国が突出せず、五カ国が一体で対応する必要がある。拉致問題を抱える日本政府としてもこの点、米政府をよく説得して理解を得ておくべきだ。

[京都新聞 2007年07月15日掲載]

【京都新聞・凡語】

中国政府の有害食品規制強化

 中国政府は日本向け水産物など四十一社の輸出を禁止した。世界的に大問題になっている有害食品の規制強化にようやく本腰を入れる気になったようだ▼有名ブランドなど海賊版があふれるニセモノ天国でもある。ディズニーランドをまねた国営遊園地が話題を呼んだ。米国は映画や音楽など知的財産権が侵害されているとして世界貿易機関(WTO)に提訴している▼環境悪化も深刻だ。中国の大気汚染が”輸出“され、日本で光化学スモッグが再発している。人権問題も絡んだ国際的な批判の高まりで来年八月北京で開催するオリンピックに影響が出かねない▼二〇一〇年の上海万博とともに国威発揚の最大イベントだ。さすがの中国政府も危機感を募らせる。ちょうど四十年前ごろの日本をみるようだ。一九六四年の東京オリンピックと七〇年の大阪万博で経済大国の地位を不動にした▼高度成長のひずみが噴出した時期でもある。物価が高騰、水俣病や光化学スモッグなど公害問題がクローズアップされ、「交通戦争」という言葉が生まれた。学園紛争やよど号ハイジャック事件など世相も荒廃した▼中国の現状は日本の歩みをなぞっているようだ。国際ルールをないがしろにして経済発展のマイナス面に目をつぶり、拝金主義がはびこる。モラルの低下は深刻だ。日本の「負の遺産」からも学んで生かしてほしい。

[京都新聞 2007年07月15日掲載]


【朝日・社説】2007年07月15日(日曜日)付

社会保障カード―どさくさで導入するな

 「年金記録の問題、やるべきことはすべてやっていく」。安倍首相はこう叫んで全国各地を回っている。

 政府の最高責任者として、年金記録が宙に浮いたり消えたりの問題に前向きな姿勢を見せようと必死なのだろう。

 しかし、混乱のどさくさのなかで、政府部内でもまだ検討中の社会保障カードを4年後をめどに導入すると言い切るのは、先走り過ぎではないか。

 年金記録の管理はすでに電子化されていて、社会保険庁に申し込めば、加入歴や納付実績、年金見込み額を自宅から確かめられる。管理システムをこれから新しくする際に、国民がもっと使いやすくするサービスの向上は必要だ。

 こうした情報を管理するには、年金通帳や年金カードの導入が考えられる。民主党などは通帳を提案する。カードに違和感をもつ人も多いが、国民の利便性からは、預貯金のように、カードも通帳も使えるようにしたらいいではないか。

 しかし、首相が示した社会保障カードは、年金だけでなく健康保険や介護保険の番号を統一し、これらの情報をカードで見られるようにするものだ。

 確かにこうなれば便利に違いない。だがその一方で、大切な個人情報がのぞかれたり漏れたりする危険も否定できず、心配な人も多いに違いない。

 とくに、病院が診療費を保険請求する明細書(レセプト)には病名も入る。例えば精神科への通院歴や女性の中絶経験など、微妙な情報をどう扱うか。

 こうした問題をきちんと詰めずに、一足飛びに「社会保障カード」まで進んでしまって大丈夫か。

 レセプト情報は4年後に電子化が完了する。自分の健康診断や治療時の検査結果などが見られる「健康ITカード」構想も進んでいる。こうした情報を統一番号でまとめていいのだろうか。

 安倍首相は個人情報の保護には万全を尽くすというだろう。だが、社保庁の職員が、国会議員や芸能人の年金歴をのぞき見して漏らしたのは3年前のことだ。最近は自衛官や警察官のパソコンから機密情報が漏れる事件が続いている。

 いろいろな個人情報が一つの番号に整理され、国が情報を串刺しに管理することには、国民に抵抗感が強い。

 全国民に住民票コードを割り当てて行政事務に使う「住基ネット」は稼働して5年になるが、国民からはソッポを向かれ、ほとんど利用されていない。

 柳沢厚生労働相は「政府がどう考えるかではなく、国民に向かってどう整理するのか。広い視野で考えなければいけない」と述べている。その通りだ。

 社会保障カードの構想は、年金記録の騒動のなかで突然登場した。どさくさで導入を決めても、後で強い抵抗が出てくることは目に見えている。

 参院選が終わり、年金の混乱が一段落した環境のなかで、国民の合意点をじっくり探っていくべき問題だろう。

ブッシュ政権―異常なレームダックだ

 米ブッシュ政権の混迷ぶりがひどくなっている。

 まず、イラク問題である。米下院は先週、来年4月までにイラクから戦闘部隊を撤退させるよう義務づける法案を可決した。今年3月に同趣旨の法案を可決したのに続くものだ。

 大統領の拒否権行使が確実視され、前回同様、撤退実現には結びつきそうにない。しかし、議会が軍事政策をめぐって、政権に何度も異を唱えるのは、ベトナム戦争以来だろう。

 その同じ日、大統領は年初からの米兵増派の効果について中間報告を議会に出した。テロが減少するなど軍事面で改善があったとしたが、その後の会見では米国民の間に「戦争疲れ」が見える現実を認めざるをえなかった。

 国内問題でも、大統領の評判はさんざんだ。政権の意に従わない連邦検事が更迭された問題で、司法省の高官たちが辞任に追い込まれた。なのに、大統領の長年の友人であるゴンザレス司法長官は職にとどまっている。

 中央情報局(CIA)の秘密工作員の名前がメディアに漏れた事件では、実刑判決を受けた前副大統領補佐官に大統領の権限で減刑措置を発動し、刑務所入りを免れさせた。

 こうした大統領の対応に「身内に甘い」という批判が渦巻いている。支持率は一段と下がり、最新のギャラップの世論調査では、ブッシュ氏としては初めて30%を割り込んだ。

 歴史上、不人気になった大統領には、ウォーターゲート事件で辞職に追い込まれたニクソンらがいるが、政策的な失敗で国民の信頼を失った点ではフーバーに似ているかもしれない。28年の選挙で大勝して就任したものの、翌年に始まった大恐慌のなかで有効な政策を打ち出せず、数年後には「軽蔑とあざけりと憎しみの対象になった」と評されている。

 国内だけではない。米国の民間調査機関ピュー・リサーチセンターの世論調査によると、世界各国でのブッシュ氏への信頼感は、調査対象になった多くの国で、過去の調査よりも大幅に下がっている。世界もまた「ブッシュ離れ」だ。

 議院内閣制の国なら、ブッシュ首相はとっくに不信任を突きつけられて退陣していることだろう。

 3選の禁じられた米国の大統領は、2期目の半ばをすぎると急速に影響力が衰えることが多い。「レームダック」と呼ばれる現象だが、ブッシュ氏の威信の低下ぶりはそれどころではない。

 米国では、08年の大統領選に向けた動きが活発化しているが、ブッシュ氏の任期はまだ1年半もある。イラクに限らず、混乱が続く中東情勢の改善、北朝鮮の核廃棄、迷走する多角的貿易交渉の立て直しなど、世界が直面する課題もたくさん残っている。

 唯一の超大国である米国の政権がこんな状態では、世界が困る。

【朝日・天声人語】2007年07月15日(日曜日)付

 書店にもいろいろあるが、作家の丸谷才一さんは二つに分けている。岩波文庫を置いている店と、置いていない店と。「そして前者が上だと思っている」と、本紙掲載のコラムで述べている。

 その岩波文庫が、昭和2年の創刊から今月で満80年を迎えた。古今東西の名著を5433点、総数は3億5000万冊を超すというから、日本の「教養」を連綿と耕してきたと言える。

 年配の読書家には、書目分類の「五色の帯」が懐かしいだろう。緑の帯は日本文学、赤は外国文学、社会科学が白で、青は哲学や歴史、黄色は日本の古典である。五色を取り込んだ「読書人の一生」という戯れ歌を、文芸評論家の向井敏さんの随筆で知った。

 〈ゆめ見るひとみで緑帯/むすめざかりは赤い帯/朱にまじわって白い帯……行き着く先は黄色帯〉。つまり、多感なころは漱石や藤村、大人びてくれば翻訳小説、青年期にはマルクスにかぶれ……老境に入って「もののあはれ」に行き着く。来し方を重ね合わせて微苦笑の人もいることだろう。

 近ごろは、緑帯と赤帯の世代にケータイ小説の愛読者が急増中らしい。電話で配信される小説だ。素人ぽいのだが、人気作が本になるや次々と数十万部を売り、不況の出版業界を驚かせている。

 名作を読まないと嘆く声も聞こえるが、活字離れの一番深刻な「緑と赤」の世代である。まずは書物の世界を覗(のぞ)いてみることが大事だろう。若き日の丸谷さんも「片っ端から歩き回った」という名著の森への道が、ぽっかり口を開けているかもしれない。


【毎日・社説】

社説:イラク報告 米軍撤退へ踏み出す時だ

 イラク情勢に関する18の達成目標のうち、満足すべき進展があったのは8項目。肝心の治安状況は「複雑で極めて前途多難」とされた。米政府が議会に提出した報告書は、イラクの治安回復のめどが立たない現状を改めて浮き彫りにした。

 米国は割れている。報告書提出にあわせた記者会見でブッシュ大統領は「我々はイラクで成功できるし、成功しなければならない」と語った。その数時間後、野党の民主党が多数を握る米下院は、来年4月1日までに米軍をイラクから撤退させる法案を可決した。

 下院のペロシ議長(民主党)が報告書について「米政府でさえイラクで重要な進展があったと結論づけられない」と批判すれば、ブッシュ大統領は「戦争遂行は米議会の任ではない」と議員たちをけん制する。来年の大統領選をにらみ対立は激しくなる一方だ。

 昨年12月、超党派のイラク研究グループが段階撤退を進言した際、ブッシュ政権は逆にイラクへの兵員増派に踏み切った。これに対し米議会は戦費拠出の条件としてイラク情勢の報告を求め、今回、中間的な総括が発表された。最終報告は9月だが、2カ月で情勢が大きく変わるとは思えない。

 もはや「駐留継続ありき」のイラク政策を見直し、段階撤退に踏み出すべきだ。報告書には、イランが武装勢力に財政支援などを行い、シリアからは月に50~80人もの自爆志願者を送り込める--など興味深い記述もある。ただ、それが事実としてもイランやシリアを非難するだけでは解決しない。

 米軍が撤退すればイラクはテロリストの巣になるという意見もある。だが、米軍が今の規模で駐留を続けてイラク正常化への展望が開けるのか。米軍の存在自体が反米勢力をイラクに吸い寄せている実態にも目を向けるべきだ。

 ブッシュ大統領は会見で、イラクでの戦いは中東における広範な戦いの一部だと述べ、イランが「核兵器入手をめざしイスラエルを地図から抹消すると脅している」と非難した。イラン攻撃もありうると強い態度を見せたのだろう。だが、こうした発言が、「米軍駐留は結局イスラエルのため」といった反米感情をあおり、自爆も辞さない若者を増やしている現実も考える必要がある。

 素朴な疑問もある。報告書の達成目標はイラクの憲法修正問題なども含んでいるが、内政問題になぜ米国が介入するのか、これではかいらい政権ではないかと首をかしげる人もいるだろう。米国的基準の押しつけとも映る政治的関与を控えないと、「イラク民主化」への疑問は強まるばかりだ。

 来月ゲーツ国防長官とライス国務長官が中東を歴訪することもあり、米政府はイラク政策の転換を考え始めたという観測も流れている。政策転換は必要だ。「イラクに集中するために米国は北朝鮮核問題で妥協した」という見方が一般的になるような状況はおかしい。イラク戦争前、「本当の危機はイラクか北朝鮮か」という議論があったことも思い出すべきだ。

毎日新聞 2007年7月15日 東京朝刊

社説:’07参院選 年金制度 精密な設計と財源論で競え

 年金問題の焦点は記録漏れの処理策から制度論へ移ってきた。持続可能な年金制度とは4、5年先を論じるわけでない。何十年先でも信頼の置けるものかどうかが問われている。社会保険庁の後始末論争一本やりから抜本改革や財源論に踏み込んできたのは歓迎すべき展開だ。

 安倍晋三首相が「打てる手段はすべて打った」という処理策は、手法、スピードに多少の違いはあっても、与野党とも差がない。本来の年金額をもらえる人にきちんと払い、騒動の原因と責任を明らかにし、あとは全員に加入履歴を通知してチェックしてもらうことに尽きる。社保庁への怒りとは別に、このことだけを選挙の争点にしても生産的ではなかろう。

 党首討論会を境に、年金制度の将来像にスポットライトが当たり出した。その前提には、3年前の「百年安心」の年金改革が看板倒れだったということがある。

 民主党が公約した改革案は、各制度を一元化し、基礎年金部分(最低保障年金)を全額税でまかない、保険料は2階の所得比例部分に充てるというものだ。基礎年金部分の費用を13兆円と見込み、現行5%の消費税率を据え置いたままでも行政の仕組みを根本的に変え、無駄を省けばやっていけるとしている。

 安倍自民党は「財源の根拠がいいかげん」と批判、公明党も「65歳以上の人すべてがもらえるなら22兆円が必要だ。民主案では4割の人が年金をもらえないことになる」と追及する。対して民主党は、年収1200万円を超える人には支給しないという構想を明らかにし、あくまでも13兆円の消費税投入で済むと反論。財源論をめぐって論争が激しさを増している。

 民主党は走りながら考えたのだろうか。前回参院選で公約した税率アップの年金目的税を財源に充てるアイデアを引っ込めた経緯も説明されていない。保険料と税のミックス方式を全額税に切り替えた場合、これまでまじめに保険料を払ってきた人も、払ってこなかった人も一律同額の基礎年金を受け取る。過去の納付実績が考慮されないとかえって不公平感が生じることになる。民主案にその対応策が用意されているのか、これまでの説明ではわからない。

 安倍首相も財源論でブレている。消費税について、いったん「税率を上げないとは一言も言っていない」と口火を切った。反響の大きさに驚いたのか、その後「上げないで済む可能性もある」と軌道修正している。

 少子高齢が進む人口減少社会で、年金も医療も介護も現在のサービス(給付)を維持するには、みんなの納得する負担割合が最後のよりどころとなる。財源を景気に依存する風まかせでは頼りなく、持続可能とはいえない。選挙戦では各党ともあいまいさを排し、制度設計も財源もより精密なものを提示しないと国民の信頼は得られない。

毎日新聞 2007年7月15日 東京朝刊

【毎日・余禄】

余録:「シュトルーベの測地弧」と呼ばれる…

 「シュトルーベの測地弧」と呼ばれる世界遺産がある。ノルウェー、ラトビア、ロシアなど10カ国にまたがり、全部で34のポイントで構成される。岩にうがった穴や刻まれた十字、記念碑などで示されるこれらの点は「三角点」だ▲地球の大きさを最初に測ったのは古代ギリシャのエラトステネスといわれる。17世紀に登場した三角測量が精度を高めたが、19世紀にさらに高精度の測地が要求された。ウィーン会議後に欧州の国境線が問題になると同時に、戦乱に備えた地図作りが重要視されたためとユネスコの資料は解説する。ロシアでは天文学者シュトルーベが皇帝の助力で、2820キロを三角測量した。世界遺産は当時の名残だ▲その後、衛星を使った測量が登場したが、三角測量が廃れたわけではない。国立天文台と鹿児島大のグループは、1万7250光年のかなたにあるオリオン座付近の星までの距離を三角測量で精密に求めた。この原理で人類が計測した最も遠い星という▲光で1万年以上かかる距離が古典的手法で測れるのは不思議だが、それを可能にした二つの技術がある。電波望遠鏡を日本列島の4カ所に置き、全体をひとつの巨大な望遠鏡として使う技術と、二つの天体を同時観測することで大気の揺らぎを打ち消す技術だ▲電波望遠鏡のひとつは鹿児島県にある。今は大学だけで大型装置の予算を得るのが難しい時代だ。国立天文台との共同建設・運用で望遠鏡が自由に使えると、鹿児島大はプロジェクトのもうひとつの意義も強調する▲計測を進めていくと銀河系の精密な立体地図ができる。私たちが見たことのない銀河系の正確な姿が浮かび上がるはずだ。未来から振り返ると、電波望遠鏡が宇宙三角測量の遺産となるのかもしれない。

毎日新聞 2007年7月15日 東京朝刊


【読売・社説】

中国産品 これでは世界の消費者が見放す(7月15日付・読売社説)

 中国産品の安全性への懸念が世界規模で強まっている。

 生命にもかかわる有害産品の大量輸出は、中国経済そのものにも悪影響を及ぼすだろう。

 米国では今春、中国産原料を使ったペットフードで動物が中毒死し、騒ぎとなった。それ以降、菓子類、練り歯磨き、野菜、ダイエット食品、魚介類、化粧品、おもちゃなどから、次々と有害物質が検出された。

 パナマでは中国産原料を含むせき止め薬を服用し、100人以上死亡していたことが最近分かった。日本、オーストラリア、欧州連合(EU)などでは、有毒物質入りの中国製歯磨き粉が見つかり、回収処分された。

 中国産品の安全問題は今に始まったことではない。だが、最近の中国製品による被害の拡大ぶりは、目に余る。

 中国では、利潤最優先の不正行為が年々深刻になっている。これが、被害を拡大させている最大の要因だ。信じられないような事件が頻発している。

 3年前、広州市でニセ酒を飲んで14人が死亡した。昨年は広州市と安徽省でニセ薬投与で20人余が犠牲となった。

 中国政府は昨年、食の安全にかかわる事案6万8000件を摘発したとしているが、官民癒着の不正は広がる一方だ。医・食の安全を総合的に監督する中央機関のトップが、ニセ薬認可に関与し処刑される事件まで起きている。

 ニセ薬製造といった犯罪行為の蔓延(まんえん)だけではない。増える海外需要に応えるために、安全性を無視した原材料の使用やずさんな生産管理が拡大している。輸入国側の対応も追いつかない。

 倫理欠如のまま、海外に垂れ流される中国産品の被害を食い止めるには、輸入国が「圧力」をかける必要がある。参考になるのが日本の対応である。

 5年前に日本では、中国産ホウレンソウの残留農薬が大きな問題となった。これを機に導入したのが、残留基準を超えた農薬や添加物を含む農産物などの販売を厳格に禁じる制度だ。

 世界一厳しいとされる制度導入を決めた際、中国は強く反発した。だが、実施後は、危険食品の流入防止というだけでなく、中国の日本向け農産物の産地では、安全、安心への配慮が格段に高まる副次的効果を生んだ。

 今回も中国政府は当初「マスコミは騒ぎすぎ」と反発したが、国際批判が高まるにつれ、生産から流通の各段階で安全管理を強化する、との姿勢に転じた。

 中国政府は事態を深刻に受け止め、改革に着手すべきだ。そうでないと、中国産品は世界中で排除されかねない。
(2007年7月15日1時42分  読売新聞)

新司法試験疑惑 不信ぬぐう再発防止策を講ぜよ(7月15日付・読売社説)

 司法制度改革の核とされる新司法試験への信頼を揺るがす事態だ。抜本的な再発防止策を講じる必要がある。

 法務省が、慶応大法科大学院の教授を、新司法試験の出題と採点を行う「考査委員」から解任した。

 教授は、5月に実施された今年度の試験前に、試験問題と類似したテーマを学生に教えていた。

 法務省は「問題そのものの漏えいは確認できなかった」としている。そうだとしても、漏えいに極めて近い、軽率な行為だった。解任したのは当然だろう。

 新司法試験は、昨年度から始まった。法科大学院の修了者に受験資格が与えられる。法科大学院では、弁護士事務所での実習など、実務教育を重視し、即戦力となる法律家を養成している。

 新司法試験の考査委員は、約150人に上る。法曹資格を持つ法務省職員と裁判官、弁護士が半数で、残りを法律学の学者が務めている。

 解任された教授は、行政法が専門で、司法試験で全員に課すことになっている「論文」問題を作成した。その後、試験までの間に、自分の教え子らを集めて、勉強会を7回開き、論文問題に類似したテーマの解答指導などをした。

 背景には、2004年にスタートした法科大学院間の競争がある。

 当初、法科大学院の開設は、40校ほどの予想だったが、現時点で、74もの大学が法科大学院を設けている。少子化が進む中、学校経営の観点から、学生を確保するために、各大学が競って開設に走った結果だ。

 新司法試験の合格者が多ければ、評価が高まり、学生も集まる。問題の教授も「合格者数を維持したかった」と、勉強会を開いた理由を語っている。

 文部科学省と法務省は、すべての法科大学院と考査委員を対象に、勉強会の開催状況などの調査を始めた。来月中にも結果をまとめるという。勉強会でどのような指導が行われていたか、徹底した実態把握が必要だ。

 現在の制度では、学者を含め、すべての考査委員が分担して問題作成と採点を行っている。法務省は、実務に忙しい裁判官や弁護士だけで、問題作成、採点をするのは現実的に難しいとしている。

 しかし、学者が大学院生を教える一方で、問題も作成、採点するシステムは、やはり変えるべきだろう。

 米国では、専門機関が、問題作成を担い、ロースクールの教員は、出題内容を知り得ない仕組みになっている。参考にしてはどうか。
(2007年7月15日1時41分  読売新聞)

【読売・編集手帳】7月15日付 編集手帳

 これは一般の組織論としても考えさせられることの多い内容だ。愛知県長久手町で起きた籠城(ろうじょう)・発砲事件についての愛知県警の検証結果を読んで、そう思った◆銃撃された警察官の救出に5時間も要した。捜査1課の係長や特殊急襲部隊(SAT)の中隊長クラスで議論して救出作戦を固めたというが、戦場の最前線にいて延々と議論しているような違和感を覚えた◆後方任務に就いていたSAT隊員が射殺された。「船頭多くして」のたとえのような結果になってしまった。誰が捜査の大方針を示し、誰が具体的な作戦を決断するか。そうした決定と責任の明確な体制は、普段からあったのだろうか◆役員会で決めていてはスピード経営ができないと、決定権を中堅幹部に下ろした企業もある。SAT隊員の訓練や装備の充実は大事だが、有能な指揮官の的確な命令のもとでこそ効果を発揮する◆作戦は刑事部が指揮したが、警備部に所属するSAT隊員の運用には口を挟まなかった。警視庁のオウム事件捜査でも両部門は連携を欠いた。責任を愛知県警だけに負わせて済む問題ではない気がする◆捜査幹部の仕事は特別だ。被害者を助け、犯人を検挙できるか、一般の人にもわかる形で結果が明白に出る。大変な重圧だろう。組織体質の見直しなど、今回の教訓をぜひ生かしてほしい。
(2007年7月15日1時49分  読売新聞)


【産経・社説】

【主張】エレベーター偽装 緩みは業界の構造問題か

 エレベーターの安全性に疑問を投げかける問題が相次いでいる。今回は製造販売大手「フジテック」(滋賀県彦根市)のエレベーターで強度不足の鋼材が使われていたことが明らかになった。

 こうまで続くと、個別企業の特殊ケースと片づけることはできない。エレベーター業界全体に、安全な製品づくりの意識が根本的に欠如しているとみられてもやむをえないだろう。

 所管官庁である国土交通省の監督体制にも疑問を抱かざるをえない。今回も関係企業に緊急調査と早急な補強工事の実施を指示したのは当然として、問題が起こる度、“モグラたたき”的に対応に振り回されるだけでは、もはや済むまい。現在の安全基準とチェック体制に欠陥はないか、根本から見直す必要があろう。

 エレベーターは人命を安全に運ぶという点では鉄道、自動車、飛行機と同じ設計・製造思想が求められる。今回は、その安全性に直接かかわる材料が長年にわたって使われていたというのだから事態は深刻だ。

 強度不足の鋼材を本来使用すべき鋼材と偽って納入していたJFE商事建材販売(大阪市)は、偽装はフジテック側の要請で行ったものだと主張、依頼した事実はないとするフジテック側と見解は真っ向から対立している。

 いずれにせよ、安全性に欠ける鋼材が使われていたことだけは事実であり、仮にフジテック側の主張通りとしても、製造販売者としての責任は免れまい。国交省は責任の所在を明確にすることはもちろんだが、原因の究明と再発防止策についても、しっかりと進めてもらいたい。

 エレベーターは、ビルの高層化にあわせて高速・大型化が進み、高齢化社会とともに一般住宅でも設置するケースが増えている。いわば現代社会の必需品である。

 建築設計に関する強度偽装、ミートホープ社の食肉偽装など、消費者を欺く企業の犯罪行為が後を絶たない。利益の追求は企業の使命としても、詐欺まがいの不正行為は、一時的に利益を得ても、結局は消費者の信頼を失い、企業自体を滅ぼすことになる。

 企業経営者には、改めてコンプライアンス(法令順守)の重要性をかみしめてほしい。

(2007/07/15 05:02)

【主張】07参院選 教育再生 何が改革かを見極めたい

 学力低下だけでなく親のモラルの低下までが社会問題になっている。いじめ問題で高まった公教育への不信は解消されていない。年金記録紛失問題に隠れてしまったが、各党の教育に対する考え方は大きく異なっており、教育再生は極めて重要な争点である。

 教育改革をめぐっては、安倍政権発足後、約60年ぶりに教育基本法が改正され、先の国会で学校教育法など教育再生関連3法も成立した。

 教育基本法では旧法で触れられていなかった「国と郷土を愛する態度」や伝統文化の尊重、公共心など、戦後教育で軽視されがちだった教育理念が明確にされた。

 学校教育法など3法改正では、副校長・主幹制や教員免許更新制、教育委員会改革などが盛り込まれ、学校教育を充実させるための仕組みが具体化された。

 国会審議や参院選の公約をみると、基本法改正などの成果をふまえ教員の資質向上策などをあげる自民党に対し、野党の教育政策や教育観には違いがでている。

 教育基本法に関する国会審議では、民主党は「日本を愛する心」や「宗教的感性」の涵養(かんよう)を盛り込むなど評価される対案を出したものの、社民、共産党はともに反対した。

 公約で民主党は学校教育力の向上をあげ、「学校理事会」や「教員養成課程6年制」など自民より踏み込んだ施策を掲げているが、「教員の資格、身分尊重、適正な待遇の保障」など支持母体の日教組への配慮もみえる。共産党は公約で「教育基本法改悪」と反対している。

 選挙公約では奨学金や子供手当増など予算増を伴う施策が与野党とも目立つが、そうした聞こえのいい施策だけでなく、教育再生実現に何が本当に必要か論議が必要だ。

 学校には学力向上とともに規範意識や公共心を養う教育が期待されている。同時に、基本的なしつけなど家庭教育がしっかりしていなければ教育再生は実現できない。

 参院選は地域の教育のあり方を考える好機で、安倍政権が最重要課題とする教育再生を問う選挙でもある。教育改革論議を真剣に行い、よりよい教育につなげなければならない。

(2007/07/15 05:01)

【産経抄】

 詩人・中原中也は昭和4年、21歳のときに警察の世話になっている。渋谷で酒に酔い、当時の町会議員宅の軒燈を壊したのである。器物損壊ということだろうが「凶悪犯」ではない。それでも渋谷署に15日間も留置された。

 ▼中也の友人、河上徹太郎は「それは電燈のせいだ」とでも陳述したからだろう、といったことを著書に書いている。「中也らしい」という受け取り方もありそうだ。だが、あんなに繊細な心を持った詩人でも「犯人」になる。刑法犯はそれほど身近なものなのである。

 ▼ その刑法犯の件数がかなりのペースで減少しているという。警察庁のまとめによると今年上半期、殺人や窃盗などの犯罪と認知された件数は全国で約92万6千件にも上る。しかし前年同期に比べると7%あまりも減った。この調子だと、年間の件数も10年ぶりに200万件を下回るらしい。

 ▼最悪を記録した平成14年には285万件だったというから、これは相当な治安の改善と言ってもいい。警察当局ももう少し胸を張って良さそうなものだが「住民の防犯意識が高まり…」などと、いたって「謙虚」に分析している。果たしてそれだけだろうか。

 ▼犯罪への厳罰化の効果である気がしてならないのだ。その証拠に、殺人や放火といった「重要犯罪」が前年より1割以上も減少している。断定はできないが、加害者の人権ばかり主張する厳罰反対派に遠慮することなく、その関連も分析してほしい。またすべきである。

 ▼むろん、まだまだ心配することもある。多くの犯罪が減った中で暴行だけが増えていることだ。それも20代、30代で「キレてしまって」という「中也型」の犯行である。恐らく普段は心優しい人も多いのだろう。そう思うとよけい気になる。

(2007/07/15 05:00)


【日経・社説】


社説 農業票ではなく農業再生を競え(7/15)

 参院選の争点の一つである農業政策で、自民党と民主党が激しい攻防を繰り広げている。農業が経済の中核を占める地方で、互いの政策を批判する漫画入りパンフレットを大量配布するなど、両陣営の非難合戦が過熱している。

 両党の狙いは明白である。民主党は自民党の伝統的な支持基盤である農業票の切り崩しを図り、自民党は票田を必死で守ろうとしている。

ばらまきの誘惑を断て

 だが、いま問われるべきは農業票の行方ではないはずだ。日本の農業は存亡の危機に直面している。その厳しい現実を、今回の参院選を機に直視すべきではないか。農業再生こそ国政の焦点のひとつである。

 攻める側の民主党は、すべての農家に補助金を支給する戸別所得補償制度の創設をマニフェスト(政権公約)の柱に据えた。金額算定の根拠には異論もあるが、必要な政府支出も1兆円と具体的に示した。その上で現在、政府・与党が進めている農政改革を「小規模農家の切り捨て」と呼び、強烈に批判している。

 民主党案に魅力を感じる農家は少なくないだろう。自由貿易協定(FTA)や世界貿易機関(WTO)による農産物市場の自由化という潮流に、不安を感じているからだ。

 将来にわたり、日本だけが高い関税で農産物市場の保護を続けることができないのは明らかだ。市場を開放すれば、安い輸入品が流れ込む。農産物の価格が下がり、農家の収入は減る可能性がある。

 民主党はその減った分の所得を無条件で補償するという。民主党に票を投じる農家が増えても不思議はない。自民党が防戦に躍起になっているのは、大きな脅威を感じている証左であろう。

 私たちは、この民主党の戸別所得補償制度には、日本農業の構造改革を阻む危険が潜むと考える。経営効率が悪い農家まで丸ごと温存し、生産性が低い現状のまま固定する「ばらまき」と言わざるを得ない。

 日本の農政は過去に同じ誤りを繰り返してきた。グローバル化の波が押し寄せ、構造改革を急ぐべきときに、流れに逆行するような政策で農家を誘惑すべきではない。

 守る側の自民党はどうか。マニフェストには「担い手の育成による強い農業の実現」を盛り込んだ。民主党案と異なり、政策支援の対象を農業の次世代の担い手に明確に絞り込んだ点は評価できる。

 今年4月から始まった農政改革の新制度では、農家が所得補償を受けるためには、耕作面積などの一定の条件を満たして担い手に認定される必要がある。小規模農家に農地の売却や貸与を促し、土地の集約化や生産性の向上につなげる狙いだ。自民党の公約は、基本的には現行の改革シナリオに沿っている。

 問題は、民主党に票を奪われかねない危機感から、農業の構造改革について自民党の歯切れが極端に悪くなっていることだ。

 自民党は民主党の案を「デタラメ」「矛盾だらけ」などと非難する一方で、1戸当たりの耕作規模の拡大や耕作放棄地の解消、企業参入の促進など、肝心な農業再生の方策については、数値目標や期限を含めた具体策に一歩も踏み込んでいない。

 自民党は農業を輸出産業として育て、2013年までに輸出額1兆円を目指す目標を掲げた。だが、その実現は農政改革が大前提になる。国際交渉によって貿易自由化を進める姿勢を強調しながら、現実に交渉の障壁となっている農産物の市場保護の見直しには一切、言及していない。これでは改革意欲が後退したと判断されても仕方がないだろう。

全国民の視点で農政を

 日本の農業生産は国内総生産(GDP)の1.2%、雇用規模は全体の5%にすぎない。それでも農業が重要であるのは、国民の食を支える重大な役割を担っているからだ。食糧自給率がカロリーベースで40%と先進国で最も低い現状は、早急に改善すべき国家的な課題である。

 日本の都府県の農家の平均耕作面積は1.3ヘクタール。米国の約200ヘクタールはもちろん独や仏の約40ヘクタールにも遠く及ばない。改革の痛みを恐れて放置すれば、従事者の高齢化とともに日本の農業は確実に衰退する。

 自民、民主両党とも農業票の獲得を競うあまり、農政の大局を見失い、政治の責任を忘れていないか。

 農政は農家のためだけのものではない。都市住民を含む国民全体の生活に直結し、将来の安全保障にもかかわる政策分野である。市場開放による価格低下は消費者の恩恵となるが、農業の体質強化や自給率向上との両立は、簡単には解けないパズルだ。難しい改革を果たすには強力な政治指導力が欠かせない。

【日経・春秋】春秋(7/15)

 雨にたたられたこの連休中も傘をさした観光客が列をなして歩いていることだろう。世界遺産への登録が決まった島根県の石見銀山の話だ。鉱山跡のふもとには繁栄をしのばせる町並みが残る。環境に配慮した開発という思想が「当選」の決め手になった。

▼高品質の義肢メーカーとして内外に知られる中村ブレイスはこの一角にある。創業社長の中村俊郎さんは、事業を伸ばし若者に雇用の場をつくるかたわら、ふるさとの歴史的価値を証明する史料集めに奔走してきた。景観維持のため古い家屋も30軒ほど購入。修繕したうえで社員寮や工場などに活用している。

▼子どものころ父親から「欧州との関連でこの町をみろ」と言われた。石見の銀が東西交易に大きな役割を果たした点も今回認められ、肩の荷を下ろしたが「問題はこれから」。観光客は急増中。では観光施設だけを充実させればいいのか。「遊興に明け暮れ、廃れた歴史は繰り返さない」。若者が物づくりのプロに育つ町にするという。

▼「人類全体のため、損傷、破壊の脅威から保護する」のが世界遺産の趣旨。責務を負うのは地元の人々だけではない。路地に車があふれ、派手な看板が目立つ町に変わるか。落ち着いた町であり続けるか。「遺産」の継承では、訪れる側の自覚と協力も大切になる。


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