« とりあえずともかく一度は喜んでみる素直さや、現実を直視した冷静な判断、本心を思うと胸が熱くなります。民主党裏切るなよ。 | トップページ | 8月1日の地方紙:沖縄タイムス、琉球新報、東京新聞、河北新報、京都新聞 主要紙:朝日、毎日、読売、産経、日経の社説&コラムです。 »

2007年7月31日 (火)

7月31日の地方紙:沖縄タイムス、琉球新報、東京新聞、河北新報、京都新聞 主要紙:朝日、毎日、読売、産経、日経の社説&コラムです。

 喜ばしいことに傲慢自公お灸記念日にすることができました。6月はじめから続けてきたこの地方紙・主要紙の社説とコラムの資料としての採録活動もやり抜くことができました。

 当初始めた時には投票日までのつもりでしたが、結果が分かった後の政局とそれに対するマスコミ論調も興味深いので、投開票日3日後の8月1日まで記録することにします。

 どのようなマスコミをわれわれは目撃したのかここに資料として保存します。

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【沖縄タイムス・社説】

(2007年7月31日朝刊)

[参院第一党]民主党が試される番だ

安倍首相の指導力に疑問

 参院選は民主党が六十議席を獲得し、結党以来初めて参院第一党になった。

 自民党は勝敗の鍵を握った二十九の一人区で、わずか六議席を得たにすぎない。改選議席六十四を三十七に減らしたのは歴史的惨敗と言っていい。

 しかも、岡山で参院幹事長を務める片山虎之助氏が落選。青木幹雄参院議員会長のお膝元・島根でも国民新党が推す新人が当選し議席を失っている。

 四国ではすべての議席を民主党と同党などが支援する候補者に取って代わられた。

 格差にあえぐ地方の反乱であり、本来は自民党が強い地域で多くの議席を失ったことで、安倍内閣はレームダック(死に体)状態に陥る可能性もある。

 自民党が議席を減らした原因には、民主党が訴えた「都市と地方の格差」を同党が軽視したことも要因としてある。

 さらに言えば、安倍晋三首相が強調する「美しい国づくり」や「戦後レジーム(体制)からの脱却」、「税財政の構造改革」より先に「緊急の課題として取り組むべきことがあるのではないか」との国民の思いである。

 地方が抱える経済的苦境はそれほど深刻であり、自民党はこの問題に答え切れなかったと言わざるを得ない。

 安倍首相は三十日の記者会見で「負けた責任は私にある」と述べた。だが一方で、「私が進める改革路線は国民の理解を得ている。辞任せず改革を進めていきたい」とも話している。

 本当にそうだろうか。記者団が問うた責任論は、国民誰もが聞きたい重要な問題と言っていい。しかし、首相はこの質問にきちんと答えなかった。

 首相には国民に対し「なぜ辞任しないか」という理由を説明する責任があるはずなのに、国民が納得するような理由は示さなかった。これでは自民党支持者だけでなく、党内でも理解は得られまい。

 総理の座に残るのであれば、首相は早急に衆院を解散し国民の信を問うのが筋だろう。今選挙で有権者が出した答えは「安倍政治不信任」であり、与党に投票した有権者にも批判があることを忘れてはなるまい。

論争で政権担当能力示せ

 民主党は三十二の改選議席を大幅に伸ばした。

 小沢一郎代表はこの勢いをかって早期の衆院解散、総選挙を求めると思われる。だが、参院運営では野党第一党として議長、各委員会の委員長ポストを得ることになる。

 どのような運営を行うのか国民は注視しているのであり、その意味で民主党は、野党各党・会派との連携も視野に入れていいのではないか。

 言うまでもないが、衆院で三分の二を確保している与党が通した法案に、やはり“数の力”で反対を繰り返せば、せっかく得た国民の支持もすぐに得られなくなる。

 少なくとも民主党が参院を舞台に政争を繰り広げれば、与党と何ら変わらないということになり、「良識の府」としての参院の役割さえもが問われてくることを認識したい。

 国会は論議の場である。年金問題は言うに及ばず「政治とカネ」の問題、道州制を軸にした地方改革、公務員改革についても徹底的に、時間をかけて論議していくことだ。

 国民が求めるのは何よりも政策論争であり、民主党は論争を通して政権担当能力を示す責務があることを肝に銘じる必要があろう。

沖縄問題の解決に全力を

 沖縄選挙区で当選した糸数慶子氏は三十七万六千四百六十票を獲得。西銘順志郎氏=自民公認・公明推薦=との票差は約十二万票もあった。

 社民党比例区の山内徳信氏は十四万五千六百六十六票を得て、六年の任期を終えて引退した大田昌秀氏の後を継いだ。

 糸数氏と山内氏は県立読谷高校での生徒と教師の関係で、まさに師弟が手を携えて国会に乗り込むことになる。

 永田町では「沖縄問題」は風化したという声も耳にする。だが、日米同盟が強化され、在日米軍基地が再編されようとしている今こそ、もう一度政府、与党に「沖縄問題」の解決を強く訴えるべきであり、そのためにも両氏の手腕が問われることになる。

 沖縄問題に醒めた安倍政権に県民の声をどう訴えていくか。「平和の二議席」が果たす役割はこれまで以上に重要だ。

【沖縄タイムス・大弦小弦】(2007年7月31日 朝刊 1面)

 よい記事とは読者にとって分かりやすい記事だ、と教わった。そのため、できるだけ統一した用字用語の基準に基づいて書くのだということも。しかし言葉を取り巻く状況は、時代とともに変化している。

 障害者の「障害」の表記を「障がい」に変更する動きがある。「害」の字が持つ否定的意味合いを嫌ってのことだ。沖縄市が「障がい福祉課」としたのは二〇〇四年。ひらがな表記は当事者団体、施設へと広がる。

 県歯科医師会からも、新聞報道で一般的に使われている「虫歯」を「むし歯」に代えてほしいとの提案があった。子どもに「虫が歯を食べる」という間違った知識を与えないためである。

 国が「痴呆」に代わる呼称として「認知症」を採用したのは三年前。ちょうど患者自らが思いを語り始めた時期で、尊厳を大切にし、地域で支える取り組みを促した。

 新聞用語の取り決めが載った『記者ハンドブック』には、差別語、不快用語が列挙されている。その言い換えも。だが、単に言葉を代えただけで差別や誤解はなくならない。むしろ問題はその奥にある思想。認知症の名称が一気に浸透したのは、当事者を主人公にした活動が繰り広げられたからという。

 日々の新聞作りの中で、例外的表記を求める執筆者、取材相手が増えている。原則は「使われた側の立場に立って考えること」。当事者の声に耳を傾けることで見えてくるものもある。(森田美奈子)


【琉球新報・社説】

安倍首相続投 民意を軽く見ては困る

 参院選は躍進した民主党を軸に野党が過半数を制した。消えた年金、政治とカネ、相次ぐ閣僚の失言などの問題で後手後手に回り、対応に追われた安倍晋三首相(自民党総裁)の政治手腕に、有権者が痛烈な批判を浴びせた形だ。
 「政と官」に対する国民の不信は根深い。これをぬぐい去るには政権の側によほどの覚悟と、強力な布陣、国民を納得させるだけの具体策が必要だろう。
 歴史的惨敗を喫した安倍政権にそのエネルギーが残っているか疑わしいが、首相は選挙の最終結果を待たずに続投を表明した。続投は一夜明けた自民党の役員会で正式に了承され、公明党との連立も維持されることになった。
 実にあっさりの感がある。有権者が自公政権に突き付けた事実上の不信任は、そんなに軽いものだったのかと思う。与野党逆転が政局にさほど影響を及ぼさないとすれば参院の存在意義や、民主主義の根幹を成す選挙制度そのものが問われかねない。
 かつて参院選で大敗した宇野、橋本内閣は退陣し、自民党は新首相を据えて局面を打開してきた。今回は有力な後継者がいない党内事情もあるが、安倍氏の続投表明会見などを見る限り、猛省している様子は伝わってこない。
 「改革続行が使命」「美しい国づくりにまい進する」などという相変わらずのフレーズでは国民は納得しない。首相の座に居座るなら、少なくとも民意に沿った政策の転換が必要だ。有権者を軽く見てもらっては困る。
 確かに、首相指名権は衆院にある。与党が衆院で3分の2を占めている以上、続投もやむなしとの受け止めはあるだろう。しかし、衆院の多数をバックに国民不在、民意軽視の手法を続ければいずれ政権は立ち行かなくなる。
 懸念材料はまだある。憲法改正の問題だ。自民党は今選挙で公約の筆頭に「2010年の改憲案発議」を掲げ、国民の信を問うた。選挙で信任は得られなかったが、改憲に前向きな民主党を巻き込みたい考えだ。国民投票法の3年後施行を見据え、改憲発議の環境整備を加速させる可能性は否定できない。参院は任期6年だから、今回の当選者は任期中に発議を議論することになる。参院で第1党となった民主党の責任は重い。
 ただ、選挙戦を見ても分かるように、ほかに優先度の高いテーマはいくつもある。まずは消えた年金の救済策だ。将来的に持続可能な安心できる制度設計も欠かせない。政治とカネの問題は小手先でなく、抜本的改革が求められる。格差社会の解消も急ぎたい。
 首相が執行部と内閣の刷新で局面を乗り切れるか。リーダーシップがあらためて問われている。

(7/31 9:39)

小田実氏死去 体現した平和力を学びたい

 旅行記「何でも見てやろう」や、ベトナム反戦などの平和運動で知られる作家の小田実さんが亡くなった。最近は作家の大江健三郎さんらと「9条の会」の呼び掛け人となり、護憲を訴えていたが、改憲を旗印とする安倍政権の参院選惨敗を見届けるかのような最期になった。
 小田さんは好奇心が旺盛な人だった。深い洞察力と、バイタリティーあふれる行動力で権力に立ち向かっていただけに「気骨の人」を失った気がしてならない。
 高校時代に小説を書き始め、米国留学の後、欧州や中近東、アジアなどを放浪し「何でも見てやろう」を発表した。帰国後に「ベトナムに平和を! 市民連合」(ベ平連)を結成。ニューヨーク・タイムズ紙への反戦の全面広告や、脱走米兵の援助などユニークな活動を繰り広げた。
 著作も多く、米国と広島双方の市民の側から描いた長編小説「HIROSHIMA」でアジア・アフリカ作家会議のロータス賞を受賞。在日韓国人の義父を描いた小説「『アボジ』を踏む」は川端康成文学賞を受けた。
 単なる好奇心で終わらず、精力的に動き回る行動派作家の草分け的存在ともいえる。ベ平連の活動実態を批判されたりもしたが、戦後民主主義をリードした一人であることは疑いなく、体現した「平和力」「市民力」など学ぶべき点は多い。
 常に「市民」の側に身を置き続けた小田さんの原点には、戦火を逃げ惑った大阪大空襲の体験があった。旧日本軍による中国爆撃のニュース映画を何げなく見ていた幼い自分が、やがて空襲を受ける側になる。そこで「加害者はいずれ被害者になる」という思いが芽生えた。
 思いは確信へと変わり、小田さんを平和運動へと駆り立てる。2004年、那覇市で開かれた「9条の会」発足記念講演会で小田さんは「世界の紛争を解決するのは日本国憲法にしかできない。憲法は民主主義だけでなく、平和と結合している。前文は世界に通じる普遍的な原理だ」と説いた。言葉の重みをかみしめたい。

(7/31 9:38)

【琉球新報・金口木舌】

 廃棄物同然のくず肉で作ったミートボール。原料100キロの豚肉から作られた130キロのハム
▼ミートホープの食肉偽装ではなく、食品添加物のすご腕営業マンだった安部司さんが2005年に発刊した「食品の裏側」(東洋経済新報社)に出てくる話だ。添加物が多用される食品製造の舞台裏が次々と明かされる
▼添加物は面倒な工程や技術が不要で、簡単に一定の品質の物ができる「魔法の粉」だが、うどん屋などでは長年の職人技が捨て去られ、漬物や豆腐、アジの干物の各従業員は「自分の工場で作った物は食べない」と口をそろえる
▼恐るべき実態だ。それだけ生産者と消費者の関係が希薄化している証左だろう。食の安全を揺るがす事件が相次ぐ昨今、消費者は疑心暗鬼にならざるを得ない状況だ
▼ 生産物に注がれる目が厳しさを増す中、沖縄農業の担い手を育成する県立農業大学校は、学生が育てた農畜産物を毎週水曜日に校内食堂で活用する「自産自消の日」を設定した。開始式で学生代表の垣花勝彦さんは「今、求められているのは安心、安全、おいしさ。そんな農畜産物を作りたい」と宣言
▼自ら作ったものを自ら食べる。食の再生は、原点に返ることから始まるかもしれない。

(7/31 9:36)


【東京新聞・社説】

惨敗の自民 この静けさは一体何だ

2007年7月31日

 参院選の歴史的惨敗で自民党が虚脱状態に陥った。総裁の安倍晋三首相の責任を声高に唱える人もなく、時期も明示されない内閣改造と役員人事へ静まりかえる。これで出直しなどできるのか。

 「挙党態勢」「一致協力」の言葉が弱々しく党幹部たちの口をつく。身内ばかりを集めて、と安倍首相の人事を批判してきた人たちまでが人ごとのように、惨憺(さんたん)たる参院選の結果を語っている。

 政権の支柱でもある参院自民の幹事長が議席を失い、長らく「自民王国」を誇った多くの選挙区で公認候補が次々と討ち死にした。参院のドン・青木幹雄議員会長は早々に引責辞任を表明した。中川秀直党幹事長も辞表を出している。

 政権政党を自負するならば、直ちに態勢を整え直すか、少なくともそのスケジュールを示さないといけない。「続投を宣言するならなぜ直ちに内閣改造に着手しないのか」と、首相の緩慢さを責める声は聞こえても、まるで犬の遠ぼえのようだ。

 敗軍の将の首相は三十日、記者会見して引き続き政権を担当する決意を述べた。さすがに表情は暗く、選挙中にも青木氏が述べていた「参院で与党が半数を割れば内閣は死に体になる」との警句を実感させた。

 「厳しい」「反省」を何度も繰り返した首相は、続投の理由を「ここで逃げてはならない」「政治空白は許されない」と説明した。国民に約束した「改革」の遂行へ責任を果たすためなのだという。

 安倍政治そのものが退けられたのではないか、との問いには、自身の基本路線は選挙戦を通じても国民の理解を得られた、と言い張った。

 そして与党圧倒多数の衆院の解散・総選挙を求める声が出ていることには「しかるべきときに政権の信を問う」とかわし、出直し態勢づくりについても「しかるべきときに内閣改造、役員人事を行い人心を一新する」と語るにとどまった。

 かつての自民党なら、ここで首相批判が噴出したはずである。政治空白をつくっているのは首相ではないか、これでは国民が決定的に離れてしまう、と。

 静まりかえる党内は、ここで騒げば改造人事を前に得策でないと、皆が縮こまっているようにも見える。

 惨敗の中でも首相の出身派閥は他派をしのぎ、衆参とも一番の数になった。「寄らば大樹」がまん延しているかのようだ。

 これでは党は劣化する一方だ。いずれ避けられない総選挙へ衆院の若手たちは、この事態を見過ごしておれるのだろうか。抗争するエネルギーのあったころが懐かしくもなる。

女性の躍進 議場の景色は変わるか

2007年7月31日

 参院選で女性の躍進が目立った。今春の統一地方選に続き、当選者数が過去最多となった。それでも世界的に見ると、日本はまだまだ少ない。この流れを止めず「先進国」入りを目指したい。

 傍聴席から見下ろすと、紺やグレーの背広を着た男性議員ばかりの議場はドブネズミ色に見えるという。ある女性国会議員の嘆きだ。国会が男性中心の社会だということを象徴する景色なのだろう。この選挙で変わるか。

 女性の当選者は選挙区と比例代表を合わせて二十六人となり、三年前の前回参院選より十一人増えた。「マドンナ旋風」で社会党が大勝した一九八九年参院選の二十二人を上回り、過去最多となった。

 当選者数だけでなく、東京選挙区では民主の女性新人候補が百万票を超える得票でトップ当選を果たし、自民の女性新人も同じ党の男性ベテラン候補を弾(はじ)き飛ばした。「姫の虎退治」といわれた岡山や「竹下・青木王国」の島根では、若い女性候補が自民の壁を打ち破った。

 今年四月の統一地方選でも、前半選の道府県議選で、女性当選者は百九十人と過去最多を更新した。後半戦の市議選では女性が千百二十二人と三回連続で千人を突破し、全議席の14%を占めて過去最高となった。

 民意を広く政治に反映するためにも女性の政界進出は欠かせない。こうした傾向が本物なら歓迎したい。

 しかし、世界各国の議員交流を進める列国議会同盟(IPU)によると、下院(日本は衆院)または一院制議会に占める女性議員の比率では日本は9・4%で、九十九位。参院は非改選組も含め女性議員は四十二人に増え、全議席の17%となるが、それでも「平均点」にすぎない。

 政党にはさらなる女性候補の発掘や挑戦しやすい環境づくりなどに取り組んでもらいたい。

 ある女性の衆院議員は参院選での躍進について「有権者は若い女性候補に『しがらみのなさ』を見いだし、男性のベテラン候補に『古い政治』を感じたのではないか」という。ならば、政治を変えるという重い責任を負ったことになる。

 女性候補の多くは年金や教育、子育てなど「生活」重視を訴えた。私たちの暮らしをどうにかしてほしい。そんな有権者の切実な声を吸収したものであるなら、なおさらだ。

 かつて女性の参院議員が党派を超えて「配偶者からの暴力の防止等に関する法律」(ドメスティックバイオレンス新法)をつくり成立させたことがある。議員活動で存在感を示して初めて議場の景色は変わる。

【東京新聞・筆洗】2007年7月31日

 日本の政治史で、石橋湛山元首相の引き際の潔さは特筆すべきことである。「五つの誓い」を掲げて間もなく、病に倒れた。自民党内では続投を願う声が多かったが、予算審議に出席できないと分かるや、「政治的良心に従う」と退陣を決断した。在任約二カ月だった▼後を継いだ岸信介元首相はこの潔さを「政治家としては執着性が足りない」と評したという。自民党政権であっても、首相によって進む道は異なってくる。首相の座という権力に執着することも一つの生き方だろう▼岸氏が生きていれば、孫の安倍晋三首相の決断を評価したのだろうか。参院選で自民党は結党以来初めて第二党に転落する歴史的な惨敗を喫したが、首相は続投の道を選び、役員会で了承された。「安倍ノーで一票を投じたのに…」と、釈然としない人も多かろう▼首相の昨日の記者会見を聞いても、なぜ続投なのか、心にすとんと落ちる言葉があったとは思えない。「首相に就任したとき、国民と約束したことを実現するのが私の責任」と訴えていた。でも自民党総裁選での約束で、国民と直接結んではいない▼投票日の前から、どんな結果になっても首相は辞めないとの情報があった。憲法改正という首相が執着する課題に取り組むためだと説明されていたが、会見で首相が踏み込むことはなかった▼首相の自著には「わたしがこうありたいと願う国をつくるためにこの道(政治家)を選んだのだ」とある。志は確かに大事だが、政治家の志と人々の願いのズレが拡大すれば、政治的良心の出番もある。


【河北新報・社説】

参院選後の緊迫政局/自民党も民主党も正念場だ

 自民党が参院選で大敗を喫し、世論の次の関心は、政変含みの緊迫した政局がこの先どう動いていくかの一点に絞られる。

 自民、公明の与党党首会談はきのう午後、連立の維持と安倍晋三首相の続投を確認した。

 安倍首相続投の判断は、加藤紘一元自民党幹事長が「本人だけでなく、自民党もずたずたに傷つく」と批判したように、困難極まる“いばらの道”を自ら選択するのと同じだ。

 安倍政権は、失速すれば墜落を避けられない超低空の不安定飛行を続けながら、8月下旬にも内閣の大幅改造と自民党役員人事に着手するとみられる。

 内閣改造では、「政治とカネ」にまつわる一連の問題発覚で政権の足を引っ張った閣僚らの交代が焦点になるだろう。

 しかし、今回の選挙ではこうした問題に機敏に対応できなかった安倍政権の危機管理意識の低さが問われたわけで、選挙後の内閣改造で仕切り直しをしても「後の祭り」でしかない。

 党人事では、引責辞任を表明した中川秀直幹事長の後任もさることながら、同じく辞任する青木幹雄党参院議員会長と岡山選挙区で落選した片山虎之助党参院幹事長が抜けた穴をどう埋めるかが頭の痛いところだ。

 「ミキオハウス」と呼ばれた参院自民党は小泉前首相さえ容易に手を出せなかった“不可侵領域”で、強い指導力を見せた青木・片山コンビに代わる人材は見当たらない。与野党逆転の下での綱渡りの議会運営を誰が仕切ることになるのか。

 内閣改造と党役員人事の一新はこのように、安倍首相の思惑とは裏腹に、政権に浮揚力をつける手だてになるとは考えられない。まして、国民に安倍政権の「リセット感」を印象づける効果はほとんどないだろう。

 手を尽くしても安倍内閣の求心力が低下し続ければ、内閣支持率は完全な危険水域に入り、党内の安倍下ろしの動きが本格化するのは避けられまい。

 そこで、大勝して参院第一党になった民主党はどうか。
 自民、民主の2大政党化の流れが本格化してから実質的に初めての参院の与野党逆転は、同党が勝ち取った最大の成果だ。

 場合によっては、参院史上例のない首相問責決議案を可決させることさえできる。参院に限らず政局全体を動かせる多くのカードを手に、早ければ秋の臨時国会で衆院の解散に追い込むのが基本的な戦略となる。

 しかし、衆院からの送付法案を参院で否決できるからといって、「何でも反対とはいかない」(鳩山由紀夫民主党幹事長)のは当然のことだ。常に国民生活を最優先にしながら法案処理に当たらなければなるまい。

 外交・安全保障や憲法などあいまいさが目立つ政策テーマでは党内合意を急ぐ必要がある。

 こうして自民党との対立軸を鮮明にしつつ柔軟な国会運営に努めるというめりはりの利いた対応を重ねることが世論の信頼を獲得する近道だし、他の野党との協調の幅も広げられよう。

 同党が「政権を担える党」として認められるまでには、まだ幾つかのステップが必要だ。
2007年07月31日火曜日

【河北新報・河北春秋】

 さもありなんと思わせる米国の心理学者の説がある。ある種のコミュニケーションでは、言語や聴覚による情報よりも視覚情報の比重がずっと大きい。つまり、見た目が大事▼「外見で人を判断してはいけません」と言うのは、人は他人を外見で判断していることの裏返しだ。先の説は学者の名を取ってメラビアンの法則などと呼ばれる。言われてみれば誰しも思い当たろう

 ▼ 今回の参院選はクールビズ対ネクタイの勝負だったという見方がある。失礼だが、与党の面々の外見は頼りない疲れたおじさん。炎天下にネクタイ姿の野党党首のほうが、鬼瓦のようなお顔ながら懸命さは伝わった▼クールビズの極め付きは農水大臣。選挙期間中に、特大の絆創膏(ばんそうこう)を顔に張り、無精ひげを伸ばしたルーズないでたち。だらしない登場に苦笑した向きも多かったのでは。幼稚さばかりが印象づけられた

 ▼ところで国会議員1人を養うのに年間にざっと1億円かかる。歳費、文書通信交通滞在費、立法調査費、政党助成金、その他。このコストに見合ったお仕事をしているかどうか▼野球のスター選手並みの年俸だが、活躍しなければ即契約解除の野球と違って参院議員は6年間安泰だ。与野党逆転にふさわしい緊迫した政治を。くれぐれも民話よろしく6年寝太郎とならぬよう。

2007年07月31日火曜日


【京都新聞・社説】

衆参ねじれ国会  民意生かす政治の再構築を

 参院選で自民党は歴史的な大敗を喫したが、安倍晋三首相の続投を決めた。内閣改造などで人心一新を図り、政権の求心力を維持する構えだ。
 参院は野党が過半数を得た。民主党が参院の第一党となり、史上初めて議長ポストを取って主導権を握ることになる。与党が三分の二という圧倒的な過半数を握る衆院とねじれ現象となった。
 衆院を通過した法案が参院で否決されるという郵政国会のような事態が常習化することも予想されよう。政府・与党の国会運営は極めて難しくなる。安倍政権が法案審議で立ち往生する場面も起きてくるだろう。続投してもいばらの道が待っているのは間違いない。
 二年前の衆院選から一転、参院で野党に過半数を与えた民意は何なのか。
 安倍政権は衆院の絶対多数を背景に憲法改正など戦後体制脱却を掲げて数の論理で強引な国会運営をしてきた。年金問題の怒りが象徴するように、政策課題の設定が政治に求めている国民の感覚とずれていたといわざるを得ない。
 今回の選挙結果は郵政選挙で与党に議席を与えすぎた反省から、いわば参院に法案の拒否権を与えて衆院の暴走をチェックする国民のバランス感覚が働いたとの見方もできまいか。
 与野党双方に民意を生かす政治の実現と国会運営を求め、政権党としての力量を競う機会を与えたといえよう。

 政権運営いばらの道
 安倍首相は記者会見で、続投する理由について「極めて厳しい結果だが、反省すべきは反省して改革を進め、国づくりや経済成長を進める目標に向かって責任を果たしていく」と述べた。
 かつて宇野宗佑、橋本龍太郎の両首相が参院選敗北の責任を取って退陣している。今回は匹敵する大敗にもかかわらずすんなり続投を容認したことに自民党の政党力の衰えを感じる。「ポスト安倍」の人材不足で総裁選の混乱を回避したいというのが本音という。
 敗因は年金など政策課題もさることながら事務所費など閣僚の「政治とカネ」問題へのまずい対処や相次ぐ失言など身内の不祥事である。安倍首相の任命責任は免れないが、内閣改造と党役員人事で党内批判を封じる考えを示した。
 来月中にも行う方針だが、選挙を通じて首相の指導力に疑問符を付けた国民の信頼を取り戻すのは容易ではあるまい。挙党態勢を図れば安倍カラーを鮮明に打ち出すことが難しくなるジレンマにも陥ろう。選挙後最初の試金石だ。
 安倍批判をまともに受けた形で公明党も議席を減らした。連立を維持するが、もともとタカ派的な安倍首相と政策や体質が異なる。今後、政策をめぐって与党内のあつれきも生じよう。過半数割れを機に与野党を超えた政界再編の動きが生じる可能性も否定できない。

 政権交代にも現実味
 民主党の小沢一郎代表は今回参院選で与党を過半数割れに追い込むことに政治生命をかけていた。次のステップとして国会審議の行き詰まりで衆院の解散総選挙に持ち込み、政権交代を実現する戦略だ。第一段階は見事に成功した。
 自民党の金城湯池だった東北や四国など地方の一人区をねらい打ちにして支持基盤を切り崩す選挙戦術でまんまとお株を奪った。都市部でも複数当選を果たすなど二大政党の基盤を固め、政権交代が現実味を帯びてきたといえる。
 その小沢代表が勝利の会見にも姿を現さない。選挙疲れで数日静養するというが、民主党が政権交代を目指すうえで、小沢代表の健康不安が懸念材料に浮上することもありえよう。またぞろ党内で不協和音が頭をもたげかねない。
 さらに今回大勝したとはいえ、必ずしも民主党の実力とはいえない。出口調査などで安倍批判票の受け皿となった実態が明らかになっている。政権政党としての信頼感はまだ不十分だ。
 むしろ参院の主導権を握ったことで国政に対する責任が問われ、政党として力量が試される状況が生まれたといえる。憲法や安全保障など基本政策で党内が結束できるか。対立軸となる政策提言がどこまでやれるか。秋の臨時国会から政権交代への最終試験が始まる。

 参院の機能を見直せ
 野党が過半数を得たことで、今後の国会運営は参院が主戦場になる。これから三年間は現在の勢力分野が続く。
 憲法は衆院の優位性を認め、参院が法案を否決しても衆院で三分の二以上の多数で再議決すれば成立する。現在の与党議席数があれば可能だが、政治的にみれば再議決はなかなか難しい。
 野党は政府の予算案や法案をことごとく参院で否決したり、首相や閣僚の問責決議を可決して政権を追い詰めることは可能だ。参院が法案の生殺与奪の権を握る事態になることは二院制の本旨から逸脱し、国民の批判も強まろう。
 参院は今年で創設六十周年を迎えた。「良識の府」といわれた参院は党派性から超越した大所高所から衆院に対する抑制と補完の機能を期待されている。参院選が政権選択の場であったり、「政局の府」であるのは本末転倒だ。
 衆院のカーボンコピーと侮られたり、参院無用論が登場するのは本来の役割を果たしていないからである。審議方法や内容、政権との距離、選挙制度の見直しなど抜本的な参院改革をすべきだ。
 憲政の常道に反するような衆参ねじれ国会になった今こそ国会のあり方を根本的に見直す好機としたい。

[京都新聞 2007年07月31日掲載]

【京都新聞・凡語】

政治の潮目

 海釣りで「潮目が変わる」醍醐味(だいごみ)を実感したことがある。枝ハリスに魚がぶつかるようにかかる。あっという間にクーラーボックスが満杯になった ▼もっとも海面を見ている限りでは、変化に気付かなかった。海の中で、異なる二つの潮流がぶつかって、魚たちが沸き立つような状態になっていたようだ▼今回の参院選も似たような印象をもつ。自民惨敗の原因は、年金や政治とカネの問題だけでなく、“政治の潮目”が変わったことに気付かなかったせいもあるのではなかろうか▼では、政治の潮目が変わったのはいつだろう。独断を恐れずに述べれば、一年前の滋賀県知事選ではなかったか。新幹線の新駅建設を「もったいない」の一言で覆した県民の選択は、有権者の政治意識が土台から変わり始めた兆しを感じさせた▼旧来型のお任せ民主主義ではなく、税金の使い方や政策の優先順位を見極めて投票する-こうした態度が全国に広がっている気がする。その結果が参院選に表れたのではないか▼世論調査では、国民が政治に望むものは一貫して社会保障の充実が一番だ。いかに実現するか。国民の目は与野党の双方に等しく向き出した。大切な税金を、公正かつ有効に使うには。格差を減らす方策は。負担と給付のあり方は。外交と海外支援は…理念と具体策の是非をめぐって与野党が真剣勝負するのは大歓迎だ。

[京都新聞 2007年07月31日掲載]


【朝日・社説】2007年07月31日(火曜日)付

首相の続投―国民はあぜんとしている

 参院選挙から一夜が明けて、安倍首相が続投を正式に表明した。自民党の役員会、次いで公明党の太田代表との党首会談で、政権の座にとどまることに了承をとりつけた。

 あれだけ明確な有権者の「ノー」の意思表示を、どう受け止めたのか。記者会見でただされた首相は、こう述べた。

 「国民の厳しい審判を厳格に、真摯(しん・し)に受け止め、反省すべきは反省しながら、そして謙虚に、改革、国づくりに向かって責任を果たしていく」

 要するに、厳しい選挙結果は首相に対する不信任ではなく、国民のおしかりと受け止めるということなのだろうか。だとすると、首相はこの歴史的大敗の重さを見誤っていると言うよりない。

 自民37、民主60という獲得議席の差だけではない。朝日新聞の出口調査では、有権者の56%が「他の人に代わってほしい」と首相に辞任を求めた。自民党支持層まで4人に1人が、比例区で民主党に投票したのだ。

 そもそも、首相自身が「私と小沢さん、どちらが首相にふさわしいか、国民に聞きたい」として、この選挙を信任争いと位置づけたはずである。

 記者会見でそのことを聞かれた首相は、まともに答えようとはしなかった。逆に「人心を一新せよというのが国民の声だと思う」と言い、自らを除く党役員や閣僚を入れ替える考えを示したのはあまりに都合が良すぎないか。

 政治は結果責任だ。政治家は進退によって責任を明らかにする。今回、結果に対して潔く責任を負おうとしない指導者に国民は失望するだろう。「なぜ続投なのか」という疑問と不信は、長くくすぶり続けるに違いない。

 自民党有力者たちの反応にも驚かされた。派閥全盛期の自民党を懐かしむわけではないが、かつての自民党なら責任を問う声が噴き上がったことだろう。

 実際、36議席だった89年の参院選では宇野首相が、44議席だった98年には橋本首相がそれぞれ退陣した。個性の違う別の有力者がそのあとを襲った。

 それが半世紀にわたって政権を担ってきた党の緊張感であり、活力の源でもあった。なのに、いまの有力者から聞こえてくるのは「代わる人材がいない」「本人が決めること」「とりあえず」などの中途半端な声ばかりだ。

 公明党があっさり首相の続投を認めたのも解せない。自民党への逆風のあおりで大敗した面があるのに、連立のあり方も含めて責任問題を総括すべきだ。

 首相は、成長重視の経済政策や格差の是正、「政治とカネ」での新たな対応策など、今後取り組んでいく課題を語った。だが、そうした政策を展開するために欠かせない国民の信任を、首相はまだ一度も得ていない。

 続投するというなら、できるだけ早く衆院の解散・総選挙で有権者の審判を受けるのが筋だ。

小田実氏死去―市民参加の道を示した

 「ベトナムに平和を!市民連合」(ベ平連)の活動で一時代を築いた作家の小田実さんが亡くなった。常に市民の側から戦後政治を問い続けた人生だった。

 二度と戦争をしてはいけない。その原点は少年時代、大阪の街が米軍機に焼かれ、腐った死体のにおいを忘れられなくなった空襲体験にあった。「やられる側」に立たないと真実は見えない。この信念がその後も貫かれていく。

 戦後は、フルブライト留学生として米ハーバード大に学び、世界各地を歩いた。その体験記「何でも見てやろう」がベストセラーになった。

 ベトナムに介入した米軍が65年に北ベトナムへの爆撃を始めると、ベ平連をつくった。泥沼化するベトナム戦争に反対する市民の声を、デモや集会のかたちで表していった。

 政治運動は、ひとつの世界観を持って主義主張を通すためにやるもの。それが従来の政治活動家の常識だった。これに対してベ平連は、政治には素人の市民が、ベトナム反戦という目的で集まり、それぞれができる範囲で行動するという市民運動のあり方を確立した。

 勤め帰りのサラリーマンや主婦が加わるデモは、ヘルメットをかぶり警官隊と衝突する学生とは一線を画した。その一方で、日本で脱走した米兵をかくまうというユニークさも併せ持っていた。

 こうした市民運動のやり方は、さまざまな住民運動のほか、のちの非営利組織(NPO)や非政府組織(NGO)の活動にも影響を与えた。その原点をたどれば、組織よりも個人の自由な発想を大事にする小田さんの個性があった。

 小田さんはその後も、阪神大震災の被災者救援や、憲法を守る「九条の会」などで、いつも社会にかかわっていくという姿勢を貫いてきた。

 いま、イラク戦争に反対する声が世界に満ち、反戦デモもあちこちで見られるが、日本では大勢の人々が加わる反戦デモは影をひそめた。ベ平連が活発に動いていた時代の熱気は失われた。

 しかし、福祉や教育、海外援助、スポーツなどさまざまな分野で、活動する市民は少なくない。ボランティアで参加する人も、専従で活動する人も、そのかかわり方はまちまちだ。

 世の中がおかしいと感じれば、選挙で「風」や「うねり」となって政治を大きく動かす。無党派層のなかには、そんな人たちもたくさんいる。

 安倍首相への信任選挙といわれた今回の参院選で、かれらは「ノー」を突きつけた。憲法改正で「戦後レジームからの脱却」をめざす首相への異議申し立ての意味もあっただろう。

 何でも見てやろうという好奇心、そして、普通の人々の生活や生命への共感、それをないがしろにする戦争や権力に抵抗する姿勢。小田さんの精神と生き方は、これからの時代にも通用するひとつの指針であるに違いない。

【朝日・天声人語】2007年07月31日(火曜日)付

 きのう75歳で亡くなった小田実(まこと)さんは、存在感のあふれる作家だった。行動派で知られ、60年代には「ベトナムに平和を!市民連合(ベ平連)」の顔となって奔走した。一つの時代が過ぎたと感じる人も多いだろう。

 ともにベ平連をつくった哲学者の鶴見俊輔さんは、小田さんをよく知らないまま運動に呼び込んだ。「たまたま拾ったビンから煙がもくもく出てきて、アラジンのランプみたいに巨人が現れた」と出会いを回想する。並はずれた実行力で運動を広げていった。

 根底にあったのは大阪空襲の体験だ。爆弾の中を必死で逃げた。ふるえながら防空壕(ごう)をはい出し、黒こげの死体を片付けたという。だから米軍の北爆の写真を見たとき、煙の下で起きていることが手に取るように分かった。「される側」の視点である。

 若い頃、世界を歩いて『何でも見てやろう』を書いた。印象深いくだりがある。ユースホステルで徴兵制が話題になった。小田さんが「日本はそんな野蛮な制度はとっくの昔にかなぐり捨てた」と言うと、様々な国籍の若者の目が輝いたそうだ。そうした体験が、憲法9条への思いにつながっていく。

 末期がんの病床でも、いまの日本の空気を「戦前のようだ」と憂えていた。家族によれば、ここ1カ月はあまり話せなくなっていた。だが、「政治が本当にひどいときは市民は動くもんだ」と何度も口にしたという。

 市民派として、「市民」への信頼を貫いた生涯だった。永眠は奇(く)しくも、その市民が安倍政権に厳しい審判を突きつけた夜だった。


【毎日・社説】

社説:水増し合格 大学の“お手軽入試”が元凶だ

 私立高校が有名大学合格者数を水増ししていたことが相次いで表面化した。昨秋には全国各地の公私立高校で必修科目の履修漏れが発覚した。これも大学合格実績を上げるためのごまかしだ。責められるのは高校だけだろうか。問題は日本の大学入試の貧寒とした実情も映している。

 水増し問題は、成績の良い生徒に多数出願させ、その合格件数を人数にカウントするものだ。大阪の学校の場合、昨年度入試で1人を73の学部や学科に合格させ、数字を大幅に積み上げた。

 なぜ可能なのか。大学入試センター試験の成績だけで合否判定する募集枠を使うからだ。出願先の受験料は高校が負担していた。生徒はセンター試験を1回受けるだけでいい。後は学校が自らの負担で1人の生徒から何十人もの合格者を生み、「進学校」としての評判を高めるという構図だ。

 国公立大受験生向けに79年度から実施された共通1次試験は、受験生の成績で大学が序列化されるなどの弊害が出、90年度にセンター試験になった。大学が受験生に科目を指定するアラカルト方式と、私立も自由に参加し合否判定に利用できることが特徴だ。

 初年度に私立の参加は16校にすぎなかったが、今年度は450校1243学部に上り、大半の私大が何らかの形で使っている。大学の負担が軽減されるうえに、センター試験だけで判定する枠には広く出願者を集めることができ、受験料収入にも反映する。また国公立も含め、センター試験の科目数を減らして受験生を集めやすくする大学も相次いだ。

 少子化、全入時代と大学を取り巻く環境は厳しく、私立では深刻な定員割れも目立ち始めた。こうした中で「各大学で試験をもっと工夫し、手間をかけて学生を選べ」と求めるのは無理難題だろうか。決してそうではない。

 一連の問題は、今の「やすきに流れるお手軽入試」だから起きたともいえるのだ。例えば、履修漏れ問題のように世界史も学ばないで大学に入ることができる試験でいいのか。選択肢で解答するセンター試験のマークシートで何十もの多様な学部・学科に学ぶ適性を判定する、その粗っぽさはどうしたことか。これを改め、大学の教育目標や理念に照らして学生を選ぶことに踏み出さなければ同じような問題は繰り返し、大学の存在意義そのものも軽くなるだろう。

 もちろん工夫がされていないわけではない。センター入試の設問の改善、各大学個別に受験生の適性、意欲、高校での学力を多面的に見るAO(アドミッション・オフィス)入試や推薦制など、さまざまな試みも進められている。

 だが、AO入試が形骸(けいがい)化し受験生取り込みの青田買いに変じたと指摘される例もある。学生の確保を最優先するようなやすきに流れてはならない。今真に必要なのは効率ではなく、丁寧さなのだ。

 大学入試の内実ある改革は、そこに至る長い教育課程や学力観にも必ずプラスの影響を与える「教育再生」のキーポイントである。

毎日新聞 2007年7月31日 東京朝刊

社説:参院選ショック 安倍首相会見 やはり民意を見誤っている

 参院選での自民党惨敗から一夜明けた30日、安倍晋三首相は記者会見し、改めて続投する意向を表明した。

 見逃せないのは、首相は「すべての責任は私にある」と繰り返す一方で、前夜から「政権の基本路線は多くの国民に理解されており、間違っていない」と語っていることである。本当にそんな認識なのだとすれば、ここでも民意を見誤っているというほかない。

 首相が反省点として挙げたのは年金記録漏れ問題と政治とカネの問題への対応だった。年金問題では「不信を払しょくする努力が足りなかった」とも語った。だが、この問題に対する首相の最大の責任は、再三指摘している通り、民主党が早々と追及していたにもかかわらず、内閣支持率が急落するまで事の重大性に気づかなかったことだ。まず、それを首相自身が素直に反省しないと信頼など戻ってこない。

 政治とカネの問題も同様だ。首相は惨敗を受け、政治資金規正法のさらなる改正を自民党に指示したという。しかし、先の国会で成立した改正法は、これもまた再三、ザル法だと指摘されていたものだ。「今ごろになって」というのが多くの国民の思いだろう。

 一方、国民に支持されているという基本路線とは経済の成長路線だという。ところが、「なぜ支持されたと言えるのか」と問われると、首相は「(街頭演説などでの)聴衆の反応で感じた」という。これでは選挙の意味が分かっているのかと疑いたくなるほどだ。

 しかも、首相は安倍政治の中核といえる憲法改正など「美しい国」「戦後レジームからの脱却」路線が国民の支持を得たのかどうかには触れず、「憲法問題は選挙戦では詳しく話す時間がなかった」とかわすだけだった。これも都合のいい解釈である。

 首相が内閣の最大の課題と位置づけてきた憲法改正は、今度の選挙で実現は一段と困難になったとみるべきだ。その現状を認めないと、いくら突然、民主党との協調路線を言い出しても国会運営は前には進まない。

 安倍首相は内閣の大幅改造をする方針も明らかにし、「人心を一新せよというのが国民の声だ」とも語った。しかし、今のような首相の認識、姿勢では「首相も含めて人心一新を」との声は国民の間からなかなか消えないのではなかろうか。

 それでも自民党は30日の役員会で早々と首相の続投を決定した。党内各派閥幹部の多くは押し黙り、首相の責任を求める声はごくわずかしかない。首相が交代しても参院の与野党逆転状況は変わらない。そして、世論の空気を大きく変えるような後継候補も容易には見つからない。

 総裁候補、首相候補を党を挙げて育成してこなかった、ここしばらくのツケが一気に回ってきたということでもあろう。この行き詰まり状況は深刻である。

毎日新聞 2007年7月31日 東京朝刊

【毎日・余禄】

余録:「ああいう人だとは知らないで、運動に呼び込んじゃったんですよ…

 「ああいう人だとは知らないで、運動に呼び込んじゃったんですよ。そうしたら、アラジンのランプみたいで、ワーッと巨人になっちゃったんだ」とはベトナム反戦運動に小田実さんを誘った評論家の鶴見俊輔さんの言葉だ。「ああいう人」とはむろん小田さんのことだ▲まだ1度しか会っていない鶴見さんから「反戦運動をやらないか」と電話を受けた小田さんは、すぐに「やろう」と応じた。初めての集会のビラは自分で書いた。「呼びかけ 言いたいことは、ただ一つです--『ベトナムに平和を!』……」▲そのケタ外れにエネルギッシュな行動力とあの風ぼうである。ランプの魔人とはいいえて妙だが、それを巨大化させたのは1960年代の世界的な価値観の転換の潮流だった。小田さんは、従来の組織やイデオロギーにとらわれない新たな市民運動の旗手というオーラに包まれた▲小田さんの市民運動の「原風景」をなしたのは、少年時代の大阪空襲だった。焼け野原で見た焼死体は、どんな名誉とも無縁のむごたらしい死であった。小田さんはそれを「難死」と呼んだ。「『難死』のまえで、その可能性のまえで、人は平等だった」▲鳥のように見下ろす視点ではなく、いつも地をはう虫の視点から人々に呼びかけたのは、むろんその“空襲下の平等”の記憶があったからだ。小田さんにとっての大阪空襲を、いつも同じ釣瓶(つるべ)で水をくみ上げる枯れない井戸にたとえたのも鶴見さんだった▲その小田さんが75歳で亡くなった。「小さな人間」が世界を変える希望を訴えた生涯だったが、自らはランプの巨人のようにちょっと大きくなりすぎたのかもしれない。それは人の「難死」が続く世界に、全身をもって抗し続けた運動家のジレンマだろう。

毎日新聞 2007年7月31日 東京朝刊


【読売・社説】

衆参ねじれ 必要な政策の推進が大事だ(7月31日付・読売社説)

 衆院で与党、参院で野党がそれぞれ過半数を占める「衆参ねじれ」という参院選後の新たな政治構図は、基本的に政治過程の不安定化を意味する。

 しかも、政界再編などで現在の政党間関係に変化がない限り、この構図は長期間続くだろう。

 不安定な政治状況下でも、重要な政治・政策課題は山積している。とりわけ、国益や国民生活の安定にかかわる政策は粛々と推進していかねばならない。

 ◆試金石はテロ特措法◆

 安倍首相は、「民主党とよく話し、耳を傾ける点は耳を傾けねばならない」としている。参院第1党として参院運営の主導権を握ることになる民主党の鳩山幹事長は、「参院で何でも反対という態度を取るべきではない。大人の政治を行うべきだ」と言う。

 いずれも、責任政党として、当然の姿勢である。

 だが、民主党の場合、そうした態度を貫けるのかどうか、懸念もある。

 試金石は、11月1日に期限が切れるテロ対策特別措置法の延長問題だ。秋の臨時国会の最大の焦点になる。

 アフガニスタンで対テロ作戦に当たる米英軍などへの支援の一環として、インド洋で燃料補給などの活動をしている海上自衛隊艦船の派遣継続は、悪化している現地情勢を見ても、今、打ち切ることは出来ない。

 派遣を中止すれば、テロに対する国際協力活動から脱落したと見なされ、国際社会の信頼を失う恐れがある。

 だが、民主党はテロ特措法の過去3度の延長に、ことごとく反対してきた。これまでは、参院で与党多数の下で、延長の改正テロ特措法が成立したが、今度はそうはいかない。

 参院で否決しても、衆院で3分の2以上の多数で再可決すれば成立するが、成立までに時間を要する。日本国内での延長手続きが混乱すれば、それ自体が、国際社会に誤解を与えかねない。それでも「反対」の態度を取るのかどうか。

 民主党は、政権交代の実現へ、安倍政権を追い詰め、衆院解散・総選挙に追い込むとしている。そのためには、単独で参院の過半数議席がない民主党としては、政府提出法案の処理などで、共産党や社民党などとの共闘が不可欠だ。

 民主党は、共産党や社民党の立場、主張に配慮せざるを得まい。そうなれば野党共闘が足かせとなって、「何でも反対」ではない「大人の政治」をするのが難しくなるのではないか。

 ◆実力者内閣が必要だ◆

 民主党以上に多難な課題を負うのは無論、自民党だ。

 安倍首相は続投を表明したが、政権の求心力が低下している。今後の政権運営は極めて苦しい。根本的な態勢立て直しを急がねばなるまい。

 安倍首相は30日の記者会見で、内閣改造、党役員人事を断行し、「人心一新」を図る意向を表明した。適材適所の「一致協力して全員で政策を前に進めていくチームを作る」という。

 安倍内閣の閣僚は、昨秋の総裁選の論功行賞や、安倍首相に近い議員の起用が目立ち、「論功行賞内閣」「お友達内閣」などと揶揄(やゆ)されもした。不明朗な事務所費問題や相次ぐ失言など、閣僚自身の資質が問われ、求心力を欠いていた。

 これが参院選での逆風を一層強く吹き募らせることにもなった。

 苦境を乗り切るには、内閣・党役員の陣容一新に当たって、党内の有能な実力ある人材を網羅した「実力者内閣」とすることが肝要だろう。党役員人事では、参院で民主党との折衝に当たる参院自民党の態勢作りも重要な要素となる。

 今後は、参院が与野党攻防の主舞台となるが、この際、参院のあり方にも留意する必要がある。参院が政局の焦点ともなる状況が生まれ、議院内閣制の下で参院に本来期待された役割とはますます乖離(かいり)しているからだ。

 ◆問われる参院のあり方◆

 民主党の小沢代表自身、自由党党首時代に、こう主張している。

 「衆院と参院がほぼ同等の権限を持って……参院まで政党化し……衆院との機能分担が出来なくなっている」「衆院で過半数を獲得しても、強いリーダーシップが発揮されない……総選挙で示された国民の総意が現実政治に反映しない」

 衆参二院制の下での議院内閣制は、本来、衆院の多数派が政権を担い、安定した政治運営に当たるはずが、参院がネックとなって、そうはならない状況への批判である。

 これは、今の自民党に、そのまま当てはまる。自民党は衆院で圧倒的な議席を持ち、「強いリーダーシップ」を発揮出来るはずが、参院での与党過半数割れで、それが出来ない。

 小沢代表が、現在、参院で野党が過半数を確保したのをてこに、与党の「強いリーダーシップ」を阻む先頭に立っているのは、政治に政略は付き物とはいえ、皮肉なことだ。

 だが、衆参のねじれや政略を超えて、必要な政策を推進することは、政権を目指す政党の責務である。
(2007年7月31日10時50分  読売新聞)

【読売・編集手帳】7月31日付 編集手帳

 長唄の「紀文大尽(だいじん)」に、放蕩(ほうとう)の限りを尽くして散財の日々を送る二代目、紀国屋文左衛門の述懐がある。「父は巨万の富を積み、われは巨万の富を消す…」◆海路、嵐をついてミカンを運んで財をなした初代紀文よろしく、小泉前首相が郵政解散の賭けに出て「富」ならぬ「議席」を積んだのは2年前である。小泉改革路線を継承した安倍首相は今、長唄にいう二代目の心境かも知れない◆評論家の谷沢永一さんは、人の性格のうち「可愛気(かわいげ)」にまさる長所はないと言う。「才能も智恵も努力も業績も身持ちも忠誠も、すべてを引っくるめたところで、ただ可愛気があるという奴(やつ)には叶(かな)わない」と(新潮社「人間通」)◆ムキになる姿もどこか憎めなかった小泉氏の、余人にまねのできない長所は可愛気だろう。谷沢さんによれば可愛気とは天性のもので、乏しい人は一段下の長所「律義」を目指せばいいという。律義なら努力によって手に入る、と◆赤城徳彦農相の事務所費問題で「ルールに従っている」と繰り返した安倍首相の対応は律義からほど遠い。最上級はないものねだりとしても、一段下の長所まで放棄しては議席が消えるのも道理だろう◆ 年金、政治とカネの宿題が残った。初代とは持ち味の違う二代目である。「精だせば凍る間もなき水車(みずぐるま)」、律義、律義でいくしかない。
(2007年7月31日1時40分  読売新聞)


【産経・社説】


【主張】安倍首相続投 再起へ人心一新を急げ 欠かせない改革堅持の陣容

 参院選で歴史的大敗を喫した安倍晋三首相は、今こそ自民党の総力を結集し、危機を乗り越えるときである。

 首相は30日の記者会見で、8月下旬以降に内閣改造・党役員人事を行う意向を示した。

 だが、それを待たず、8月7日に召集される予定の臨時国会に向けて人事を断行し、国づくりに向けた新たなシフトを示すべきだ。

 時間をおけば、首相の責任を問う声が高まり、党内外から続投への異論が出ることは避けられない。

 今の首相にとっては、国民が改革の担い手として、チャンスをもう一度、与えようと心から思えるような陣容を整えることがなによりも重要だ。

 ≪国づくりの意欲鮮明に≫

 首相の続投方針は、30日の自公党首会談でも確認された。躍進した民主党は「安倍政権は信任されなかった」と主張しており、有権者の間にも続投への違和感はあるだろう。

 その意味で、首相の会見は続投への意欲や、その必然性をうまく説明できるかどうかが注目された。

 年金記録問題が招いた国民の怒りの大きさを再認識し、「政治とカネ」による政治不信を反省して、政治資金規正法の再改正も検討する。地方格差の現状にも、目を向けるとした。

 敗因の分析としては妥当なものといえよう。

 問題は惨敗にもかかわらず続投するという理由である。安倍首相は経済成長を進め、景気回復を国民に実感してもらいたい、という点を強調したが、これは今の首相に直ちに求められているテーマではなかろう。まったく食い足りない。

 憲法改正や教育再生などに象徴される新しい国づくりという大改革について、「なぜ政治家・安倍晋三でなければならないのか」を、どうしてこの大事なときに語れないのか。

 首相は、在任中の憲法改正を目指し、改正手続きのための国民投票法の成立を急ぎ、実現した。教育再生に向けた関連法の整備も進めている。

 その基本路線は、選挙結果にかかわらず評価すべきもので、不変でなければならない。

 今後は、そうした国づくりに向けて真に改革の理念を持つ人材を、優先的に閣内に登用することも大切だ。

 首相は会見で「役所の観点ではなく国民の立場」「政治主導」といった人事の基本的な考え方を示した。

 正しい方向であり、それにしたがって人心一新を図ってもらいたい。経済界からも、政権継続には人事刷新が必要だとの意見が出ている。

 首相は、相次ぐ閣僚の辞任や、政治団体の事務所経費問題をめぐる対応のまずさも率直に認めた。

 任命責任を問われるだけでなく、選挙期間中、首相が自ら問題閣僚の弁明をするような場面もみられた。

 ≪政権内の危機管理も≫

 このような改革とは別次元のトラブル、不祥事について、いちいち首相が対応に追われるような内閣の態勢は、お粗末の一語に尽きる。

 塩崎恭久官房長官は「端的に私の責任だ」とマネジメント上の不手際を認めたが、この種の問題が選挙に影響し、政権基盤を揺るがすことが実証された。この事実をもっと切実に受け止めるべきだ。

 首相が政権発足時に設けた首相補佐官制度も含め、官邸が十分に機能を発揮したとはいえない。

 新憲法制定を掲げる自民党では、党憲法審議会が置かれているものの、改正に向けた推進態勢が整っているとは言い難い。

 態勢強化にあたっては、人選に加えて、関係閣僚との連携がうまくいくかどうかなど、組織として有効に機能させることを再考する必要があるのではないか。

 参院選により、中川秀直幹事長や青木幹雄参院議員会長ら、党首脳クラスが相次いで辞任の意向を表明し、片山虎之助参院幹事長は落選した。

 党役員もおのずと一新されることになるが、参院で主導権を握る民主党との意思疎通をどう図るか。

 国政選挙の候補者選考を抜本的に見直すことなど、政権維持に向けて今後、安倍首相が目配りしなければならない課題は少なくない。

(2007/07/31 05:27)

【産経抄】

 囲碁や将棋の世界には、「勝ち」と「負け」しかない。ところが、トップに近くなればなるほど、「美学」というもうひとつの価値観を大事にする人が出てくる。たとえば、圧倒的に形勢が悪くなっても、相手のミスを期待して負けを認めないのは「美学に反する」というのだ。

 ▼安倍晋三首相はひと一倍、美学にこだわる政治家に違いない。なにしろ、自らの政権公約ともいえる著作に『美しい国へ』という題を付けるくらいだ。それなのに、政権発足してからの10カ月間を振り返ってみてどうだろう。

 ▼ 任命した閣僚の不祥事はとどまるところを知らなかった。極めつきは、赤城徳彦農水相のへらへらした弁明と絆創膏(ばんそうこう)姿だった。それをかばい続ける首相の姿は、お世辞にも美しいとはいえない。清新なイメージへの好感度が高かっただけに、失望も大きかった。参院選大敗のもっとも大きな要因といえる。

 ▼にもかかわらず首相は、早々に「続投」を宣言した。きのうの記者会見では、しきりに「反省」を口にしていたが、野党が攻勢を緩めるはずもなく、与党内からも、足を引っ張る動きが出てくる。潔く引いた方がかえって再起の道が開かれる、との助言もあったろう。

 ▼あえて苦難の道、いいかえれば、かっこわるい生き方を選んだところに、首相なりの美学をみる。哲学者の鷲田小彌太さんがいうように「泥まみれの美だって存在する。いな美はつねにとはいわないが、『泥まみれ』とともにあるのだ」(『人生の哲学』海竜社)。

 ▼国民の多くは、首相を目の敵にする一部メディアに同調して、引きずり降ろして拍手喝采(かっさい)したいのだろうか。そうは思わない。逆境の泥にまみれながら、奮闘する姿が美しいのか、見極めたいのだ。

(2007/07/31 05:28)


【日経・社説】

社説 自民も民主も改革の灯を消すな(7/31)

 息の長い経済成長のため今こそ、経済活性化や「小さな政府」実現への様々な改革が必要なのに、今回の参院選で改革はあまり争点とならなかった。安倍晋三首相は経済改革に関してはほぼ官僚任せで、既得権益の壁を崩す強い意志が感じられない。民主党に至っては、ついこの間まで改革を掲げていたのに、今回は、ばらまき的な農業補助金構想で農家の票を大量に集めた。小泉前政権の下でともったばかりの改革の灯を、政争のために消してはならない。

迫力欠いた首相の路線

 首相は経済・財政改革に関してはあまり前面に出さなかった。消費税の増税については成長促進と歳出削減を進め、なるべく増税に頼らない考え方。確かに成長率が高まれば税収が増える。社会保障費の増加を考えると消費税増税はいずれ避けられないにしても、入札制度の改革などによって国・地方合わせ何兆円もの予算が削れる可能性がある以上、歳出削減を優先するのは当然だ。

 だが成長促進策や歳出削減の中身があいまいで迫力に欠ける。来年度の公共事業の削減幅をどの程度にするのかも、ついに言わなかった。

 そもそも首相は小泉改革を継承したものの経済への関心は薄かった。戦後体制からの脱却を掲げ憲法改正に道筋をつける国民投票法を制定したほか、教育再生に力を注いだ。それは良いが、教育論議は途中で「親学」に向かうなど脱線気味で、有能な人材をいかに育てるかという意味のある論議が深まらない。

 経済改革への明確なビジョンと、実現への意欲を見せなければ、ライバルに弱みを突かれるのは当然だ。

 小沢一郎民主党代表は農村地帯に多い1人区で、小規模農家も対象にする戸別所得補償の構想を示し、票を集めた。生産性向上にはつながらない案だが、それを支持した農家を責められない。政府・自民党が今春から始めた新農業補助金制度は一定規模以上の耕地を持つ農家を対象にし、耕地の大規模化を通じ生産性を高める内容だが、小さい耕地しか持たない農家への説明や配慮が足りなかったと言われても仕方がない。

 また、農村部など地方の経済が全体に疲弊している問題に有効な政策を出せなかった。地方経済の振興には税源や権限の移譲を含む地方分権が欠かせないが、官僚の抵抗が強く現政権下ではほとんど進展がない。29の1人区で自民党が6議席しか取れなかったのもうなずける。

 農村地帯の抱える問題が解消しなければ、農産物市場を開放できず、自由貿易協定(FTA)や世界貿易機関(WTO)の通商自由化交渉に支障を来す。それは製造業やサービス業の国際展開を考えると、とても困った問題である。続投を宣言した安倍首相は30日の記者会見で「改革の陰の部分に光を当てなければならない」と反省の弁を述べた。地方分権の推進などが急がれよう。

 一方、民主党は小沢代表の下で戸別所得補償のほか、月2万6000円の子ども手当支給など、有権者の耳に心地よい構想を出した。経済活性化策は中小企業に焦点を絞り、政府系金融機関融資への個人保証の撤廃などを提言する。激化する国際競争に合わせ経済の構造を大きく変えるような建設的な内容とはいえない。

 菅直人、岡田克也、前原誠司各氏ら、以前の代表は自民党と改革を競ったが、小沢氏のマニフェストには「改革」の二文字がなかった。民主党は改革路線を続けるのかどうか、ぼやけた自画像を描き直すべきだ。

小沢氏、責任ある政策を

 民主党が政府・与党案をすべて参院で拒否するような行動に出れば、改革は停滞する。それが引き金になって自民党と民主党が「ばらまき政策」を競うようになれば最悪だ。両党は本当に重要な問題で政策を協議することも考える必要があろう。

 例えば役人の規律の緩みを正す改革。年金問題は社会保険庁職員のずさんな仕事ぶりが原因だが、それによって国民の政府不信は極みに達している。それを放置すれば、どちらの党が政権を運営するにしても困るはず。欧米に比べ遅れている会計検査や行政府内の監察、政策評価など「政府の内部統制」を充実させることに両党で取り組んではどうか。

 持続的な成長に不可欠の地球温暖化対策では民主党が排出権取引の導入を提言するなど一歩前に出ている。政権が代わるごとに制度を変えられないこのような問題でも、両党の協調は欠かせない。

 海外の主要国の多くは市場機能を生かすための改革を終えた。英国はサッチャー改革で成長の基礎を築きブレア前政権が医療費増額や若者の就職支援などでバランスをとって15年連続の成長だ。ドイツ経済も労働市場の改革や小売業の規制緩和などが功を奏し好調である。

 民主党には政権交代の可能性が見えてきたが、それを目指すなら、経済改革をこそ競ってほしいものだ。

【日経・春秋】春秋(7/31)

 話すのを聞いていれば誰でも気付くし、新聞に何度も書かれた話題なので、したり顔で言うようなことではないが、やはり「しっかり」は安倍晋三首相の口癖だ。昨日の記者会見でも「しっかりと議論を」「改革をしっかりと実行し」と、しっかり使っていた。

▼昨年9月に内閣が発足して、初めて首相官邸に向かう朝の第一声が「しっかりやります」だったし、その前日の記者会見での発言を本紙で見ると17回も出てくる。参院選に惨敗した29日夜には、辞表を持ってきた中川秀直自民党幹事長に声をかけたそうだ。「敗戦処理をしっかり」

▼語源を探ればいくつかの説に行き当たるけれども漢字で書くと「確り」または「聢り」である。「かたくうごかない。信用できる」意味の「確」をあてるのは分かるとして、見慣れない「聢」は漢和辞典に頼ろう。日本で漢字を結び合わせて作った会意国字で「耳で定かに聞いてきめる意」と『漢字源』にはある。

▼参院選の極めて厳しい結果から「国民の声を聞く」。そう安倍首相は昨日の会見で繰り返した。参院で第一党になった民主党と「よく話をしながら、その主張に耳を傾けていかなければ」とも。「反省すべき点は反省する」ならば、まず何を反省すべきか、様々な声に耳を澄ませ「聢り」と考えてもらいたい。


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