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2007年7月16日 (月)

7月16日の地方紙:沖縄タイムス、琉球新報、東京新聞、河北新報、京都新聞 主要紙:朝日、毎日、読売、産経、日経の社説&コラムです。

 来る参院選は、これからの日本の運命を決定付けてしまう重大な選挙だと思います。

 「日本の9・11」衆院・郵政選挙では、特に朝日新聞(系列TVも含む)に見られた小泉政権へのすり寄りはひどいものでした。まさか産経と朝日が同じ論調になるとは思いもよらない事態でした。

 参院選投票日までに、これからどのようなマスコミをわれわれは目撃することになるのかここに資料として保存します。(資料保存スタート時の考え

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【沖縄タイムス・社説】(2007年7月16日朝刊)

[北朝鮮の核]全面放棄を共通利益に

 北朝鮮が寧辺にある核施設を稼動停止した。

 ひとたび核を手にした核保有国に核を放棄させるのは容易なことではない。核クラブの仲間入りをする以前に核開発の段階でストップをかけ、思いとどまらせるのも、これまた相当な力技が必要だ。

 インドやパキスタンの例に見られるように、冷戦後の核不拡散政策は、残念ながら失敗の連続だったといっていい。

 その意味で北朝鮮が核施設の稼動を停止したことは、朝鮮半島非核化に向けたプロセスの第一歩を踏み出したものであり、ひとまず評価したい。

 核施設の稼動停止・封印は、二月の六カ国協議で合意した「初期段階措置」である。

 核施設の稼動停止・封印に加えて、国際原子力機関(IAEA)の監視・検証の受け入れが北朝鮮に義務付けられ、その見返りとして北朝鮮は重油五万トン相当のエネルギー支援を受けることになった。

 核施設の稼動停止にあわせて、韓国からの重油輸送が十四日から始まり、IAEA要員もこの日、監視のため北朝鮮入りした。

 問題は「次の措置」である。米国のヒル国務次官補が語っているように、この初期段階措置は最初の第一歩にすぎず、「他のステップが引き続き行われて初めて意味を持つことになる」。

 北朝鮮は二〇〇三年、これまで凍結していた核施設を再稼動させ、翌年に核実験に踏み切った「前科」がある。初期段階措置である稼動停止・封印にとどまるならば、またもや同じ轍を踏むことになるだろう。

 十八日に北京で開かれることが決まった六カ国協議の首席代表会合は、北朝鮮のすべての核計画の申告と核施設の無能力化という「次の措置」が主要な議題となる。

 核施設の無能力化は、その国の防衛の根幹にかかわることであり、無能力力化要求が極めて高いハードルであることも知っておく必要がある。楽観は禁物だ。

 北朝鮮の核施設の無能力化と北東アジアの安全保障は不可分の関係にある。朝鮮半島の平和と安定の仕組みをつくることが核施設の無能力化を実現させることにつながる。

 拉致問題を抱える日本は、引き続き難しい舵取りを迫られることになるだろう。正直、これまで日本は打つ手がなく、米国頼みに終始した。

 核か拉致かの二者択一ではなく、両方を解決に導くためのプロセスとして、今、何が重要か。そのことを冷静に考える時期である。

[改正DV防止法]効果的に生かしてこそ

 二〇〇一年の制定のあと二度目の見直しとなる改正DV防止法(配偶者暴力防止法)が、先の通常国会で成立した。来年一月から施行される。

 改正DV法の特徴は、被害者からの申し立てによって裁判所が(1)被害者が住む場所や勤務先などで被害者につきまとったりすることを六カ月間禁止(接近禁止)(2)生活している場所から二カ月間の退去(退去命令)―の保護命令が出せるようになったことだ。

 接近禁止命令が出されると、被害者による申し立てが前提になるが、夫や恋人が電話をかけたり、携帯電話やパソコンで電子メールを送信することも制限される。

 また、加害者が被害者の親族や支援者などに近づくことも禁止できる。

 被害者保護に一歩前進したとみていいが、同法を効果的にするには、私たち一人一人が関心を持つことが重要だということを忘れてはなるまい。

 申し立てについて、これまでは暴力を受けた被害者に限っていた。それを、生命や身体への「脅迫行為」を受けた人にまで広げたのは、より多くの被害者を救済する狙いがあるからだ。

 二〇〇六年に全国のDV相談支援センターに寄せられた相談件数は、五万八千五百二十八件だ。

 全国の警察が認知したDV被害も一万八千件に上り、〇五年に比べると8%の増加になっている。

 一方、〇六年度に県女性相談室などに寄せられた二千三百十四件のうち、最も多かったのがDV相談だった。また、来所した上での相談も五割はDVに関するものだった。

 沖縄は、DVの相談件数が人口比で全国三番目に多いといわれている。被害者の支援を含む具体的で実行可能な防止策は急務といっていい。

 改正法は、県だけでなく市町村にもDV相談支援センターを設置する努力を求めている。加害者への対応も大切だが、より重要なのは被害者保護だ。県は市町村や警察などと連携し、絶対にDVを許さず見逃さないという姿勢で防止策に取り組んでもらいたい。

【沖縄タイムス・大弦小弦】(2007年7月16日 朝刊 1面)

 故藤沢周平さんの時代小説には海坂藩という架空の藩が舞台となる作品が多い。「海坂」と書いて「うなさか」と読む。

 藤沢さんのエッセー集「小説の周辺」には「海辺に立って一望の海を眺めると、水平線はゆるやかな弧を描く。そのあるかなきかのゆるやかな傾斜弧を海坂と呼ぶと聞いた記憶がある」と記されている。

 古事記や万葉集などには「海境」という言葉があり、辞書には「海神の国と人の国とを隔てるという境界」などとある。沖縄でも海辺に足を運べば「海境」に似た光景が見られる。

 昨年、朝日新聞社が出した「藤沢周平の世界(創刊号)」で評論家の松本健一さんが沖縄について触れている。「南島では、潮が引くと、波打ち際から数百メートル先の沖までが干潮になってしまう。(中略)環礁の途切れたところが海境であり、ここから本当の海がはじまっている」。

 南城市の奥武島ではスクが寄ってきた。海境を隔てて、内側のイノーは魚や貝などを捕る生活の場、外側には憧れと畏敬の対象であるニライカナイの世界が広がる。自然を畏れつつ、親しんできた昔の暮らしの中には内と外との境界が厳然とあったのだろう。

 しかし、「海境」という言葉が忘れ去られていくかのように、海を取り巻く環境は憂うことが多い。海を慈しむ心が薄れているのか。きょうは「海の日」。海にまつわる美しい響きの言葉に思いをめぐらせ、水平線を見つめたい。(平良哲)


【琉球新報・社説】

分権改革 「地方重視」を今度こそ

 全国知事会議が「国・地方の税源配分を5対5とするには、6兆円程度の税源移譲が必要」などとする国への提言をまとめた。税源移譲に伴う都市と地方の税収偏在への対応策としては「(移譲された税源を)各自治体の共通財源と位置付け、調整する仕組みの構築を検討する」と明記し、第2期分権改革に対する知事会の立場を鮮明にした。
 小泉政権時代に推進された国と地方の三位一体改革は、地方交付税などが大幅に削減される一方、国から地方への権限や税源移譲の実感に乏しく、財政が一段と厳しくなった自治体も少なくない。
 これでは改革と言い難い。地方ができることは地方に任せる。それが地方分権の出発点だったはずだ。幅広い裁量と一定の財源があってこそ、地方財政の自立も実現性を帯びる。政府は知事会が一致した提言を重く受け止め、具体化に努めてほしい。
 6兆円規模の税源移譲は、知事会の地方分権推進特別委員会で骨格が固まった。現在は6対4となっている国税と地方税の配分を5対5にするための措置で、併せて6兆円規模の国庫補助負担金を廃止するとした。
 最終的な提言では、税源配分を5対5とした上で、国庫補助負担金については「(三位一体改革で行われた)補助率の引き下げではなく、総件数を半減するなど大幅な整理合理化」を目指すとし、都道府県単位の機関の原則廃止や、地方が業務を執行できるブロック単位の機関廃止を求めている。
 補助金には各省庁が地方での権益を保つ二重行政的な性格も指摘されており、見直すことに異論はない。ただ、沖縄県の場合、戦後長きに及んだ米国統治で本土との格差が拡大した特殊事情がある。自立経済への道筋が確固たるものになるまでは機関存続も含め、引き続き配慮が必要だろう。
 知事会議では、都市と地方の税収格差是正策も論議された。住民税の一部を生まれ故郷などに納めることができる政府の「ふるさと納税」構想をめぐり、宮崎県や福島県など地方の知事が賛意を示す一方、東京都や神奈川県など都市部の知事は反対を表明した。さらに「選挙の目玉のように出てきたものに飛び付くのか」(野呂昭彦三重県知事)と慎重論も出され、最終的に一致したのが移譲財源を各自治体の共通財源とし、調整策を検討するという形だった。
 今後の焦点は、政府と知事会など地方団体との協議に移る。「骨太の方針」には税源配分の5対5が盛り込まれなかったが、「地方重視」を貫いてこその分権改革である。今度こそ「国に都合のいい改革にならないように」(石井正弘岡山県知事)注視し、地方の主張を反映させたい。

(7/16 10:04)

派遣労働 早急な実態調査が必要だ

 人材派遣会社の募集広告を見て地方から都市圏に出た若者らが、広告と違い過ぎる劣悪な労働環境に悲鳴を上げるケースが増えている。
 派遣会社や実際に働く工場などの企業側が「立場の弱い」非正規雇用の労働者に付け込み、雇用条件を逸脱して賃金を下げたり、不当に解雇通告をしていたとしたら問題だ。
 非正規雇用であっても、一方的な使い捨ては許されない。一定の権益は守られるべきであり、まじめに働く労働者が泣き寝入りすることはない。人材派遣業界が雇用創出に果たす役割は大きいし、業界そのものに疑義を挟むつもりはないが、大手を含め、こうも全国でトラブルが相次ぐと、実態をつぶさに調べねばなるまい。
 県出身者の例では、東京に本社を置く派遣会社を通じ、半年の約束で首都圏の工場で働き始めた若者3人が、2カ月で打ち切られたケースがある。実際の労働条件も広告とは違っていた。
 若者らによると、月収30万円と広告に書いてあったが、実際には手取りで約18万円。都内の3LDKのアパートに3人で入居させられ、家賃などで約3万円が天引きされた。健康診断はなく、社会保険料も納めてもらえなかったという。
 愛知県の派遣会社を通じ、沖縄から同県内の工場に派遣された若者4人は、月収が求人広告の半分以下、ボーナスは10分の1という実態を訴え、差額分1人当たり200万円、計800万円を支払うよう会社側に求めた。
 こうしたトラブルは引きも切らない。背景には、派遣労働が原則自由化されるなど規制緩和の波に乗って急拡大したことがある。バブル崩壊後、企業は人件費を削るため正社員を減らし、派遣社員らで穴埋めしてきた。現在の労働人口の3人に1人は非正規雇用の労働者だ。
 しかし、契約違反や労働基準法違反が横行するようでは経済社会は成り立たない。まじめに働く人が不当に不利益を被ることがないよう、厳しく監視する仕組みが早急に求められる。

(7/16 10:03)

【琉球新報・金口木舌】

 政治家の言葉が軽くなった気がしてならない。原爆投下「しょうがない」発言で辞任した防衛相。後任に就いた途端、地元配慮を強調した沖縄担当相時代の認識を一変させた大臣
▼かつて沖縄には、言葉で大衆を熱狂させた政治家がいた。瀬長亀次郎さんもその1人だろう。1956年4月、刑務所から出所した瀬長さんの「出獄歓迎大会」が開かれた
▼前列にいた当時高校1年の西里喜行さん(琉大名誉教授)は「米軍統治の暗い時代に差し込む一条の希望の光のような強烈な印象」を受けたという。演説内容の一部を今でも鮮明に覚えている
▼集会を監視していた米軍は「重要な点はこの集会が6千人という記録的な(あるいは「琉球最大の」)動員数だったことだ。聴衆は演説をとても注意深く熱狂して聞いていた(中略)瀬長は明らかに人気がある」と記録している
▼マックス・ウェーバーは「断じて挫(くじ)けない人間。どんな事態に直面しても『それにもかかわらず!』と言い切る自信のある人間。そういう人間だけが政治への『天職』を持つ」(「職業としての政治」)と語った
▼参院選は日本の将来を託す政治家を決める。各候補者が発する言葉に耳を澄ませたい。

(7/16 9:58)


【東京新聞・社説】

6カ国協議 『次の段階』へ確実に

2007年7月16日

 北朝鮮の五つの核関連施設が四年半ぶりに稼働停止・封印される。十八日からの六カ国協議は、すべての核施設の無能力化など「次の段階」の措置へすすめることを確認する場にしたい。

 六カ国協議の首席代表会合は、北京で二日間の予定で開かれる。

 北朝鮮が十四日から、国際原子力機関(IAEA)の監視要員を招請し、「初期段階の措置」に着手するのを受けてのことだ。見返りの重油五万トンの第一便も、韓国から北朝鮮に到着した。

 初期の措置は、さる二月の六カ国協議の合意に基づくもので、寧辺などの五カ所の核関連施設を対象に、稼働停止・封印をする。一カ月程度で完了し、その後も複数の監視員が常駐する予定になっている。

 五つの施設は、一九九四年の米朝枠組み合意によって封印されたが、二〇〇二年末に北朝鮮が封印を破り、再稼働させた。さらに昨年十月には、「地下核実験に成功した」と発表している。

 今回の「初期の措置」は、北朝鮮も約束している「完全な核放棄」に向け、具体的な第一歩を踏み出したことを意味するはずだ。

 十八日からの六カ国協議では、そのことを確認し、北朝鮮に対して誠実な履行の裏付けとして、〇三年一月に脱退表明した核拡散防止条約(NPT)復帰を求めるべきだ。

 しかし、初期の措置には、核廃棄物貯蔵施設は対象からはずれており、抽出済みのプルトニウムについても不明だ。また、北朝鮮がいったんは認めたといわれる高濃縮ウランによる核開発も疑惑のままである。

 こうした抜け道を封じるには、やはり六カ国合意に明記された「次の段階」の措置が不可欠だ。

 「すべての核開発計画の完全な申告」と「すべての既存の核施設の無能力化」がその中身だ。

 そして周辺国は、見返りとして九十五万トンの重油に相当する支援を提供する。しかし、北朝鮮のこれまでの戦術を見ると、さらなる難題を持ち出しそうだ。

 現に、北朝鮮人民軍は十三日になって「米朝軍事会談」を提案した。米国の対北敵視政策の停止、朝鮮戦争の休戦協定から平和協定への移行などが狙いだろう。周辺国への揺さぶり、取引材料づくりなどの思惑もありそうだ。「米国が圧力を加える場合、六カ国協議や合意履行は吹き飛ぶ」という激しい表現もある。

 北朝鮮の「完全な核放棄」への道は始まったばかりである。「次の段階」へはこれまで以上の困難がある。焦りは禁物だ。

危険産品輸出 安心に買える中国産を

2007年7月16日

 中国産食品や製品の安全性への国際的な批判に中国は問題を認め対策に本腰を入れ始めた。しかし、責任者の処刑で問題は終わらない。信用回復には政府のみならず社会を挙げた取り組みが必要だ。

 最近、スーパーで「中国産」の文字を見ると「大丈夫かな」と思う。

 ペットフードや、せき止め薬による中毒死。歯磨きやおもちゃ、調理器具への有毒物混入、魚介や野菜類の薬剤汚染。次々と暴露される危険産品に消費者は不安を募らせる。

 中国は当初、輸入業者やメディアの「過剰報道」を批判し、各国の輸入制限には対抗措置で反発した。

 しかし、最近、政府の輸出製品や食品を監督する部門の担当者が北京で開いた記者会見では「中国は発展途上国で、安全・監督管理の基礎は相当に弱い」と率直に認めた。

 産品の安全についても「情勢は楽観できない」と述べ、問題のあった食品輸出企業のブラックリストを公表。規制強化に乗り出した。

 北京市高級人民法院(高裁)も、わいろ約一億円を受けニセ薬を見逃したとして五月末に死刑判決を受けた前国家食品薬品監督管理局長の控訴を却下し刑を執行した。閣僚級の死刑は異例で「幹部に対する戒め」(人民日報)の意味が強い。

 中国政府が責任転嫁の態度を改めたことを歓迎したい。しかし、対策には心もとない面もあり、高官処刑は厳罰で批判をかわす狙いもあるという指摘が出ている。

 危険産品があふれる背景には、監督制度の未整備のほか、急速な経済成長でカネがすべてという風潮がはびこり生産者のモラルが低下しているなど複合的な原因がある。

 ところが会見に衛生、農業省など政府五部門の副局長が出席したように、安全についての行政責任は十以上の部門に分散しているという。

 問題は輸出大国の威信さえ揺るがしているのに、責任を負う閣僚さえいないのは不思議だ。二〇〇三年の新型肺炎(SARS)流行では副首相をトップに対策チームができた。同様の体制が必要だろう。

 危険産品の追放には行政、司法権力による摘発では限界がある。日本では消費者運動やマスコミが力を発揮する。中国でも世論や消費者の力が必要だ。

 有害産品は中国の人々も深刻な被害を受ける。上からの指導と下からの圧力の形成が問われている。

 日本は一年前から輸入食品の残留農薬規制を強化し、多くの有害食品の輸入を水際阻止してきた。今後、規制を他の製品や有害物に拡大することも検討すべきだ。

【東京新聞・筆洗】2007年7月16日

 お金にまつわる名言には事欠かない。それだけ人は、お金に心をとらわれていると言えなくもない。「私たちは金を稼ぐために頭脳を持ち、金を使うために心情を持っている」。英国の劇作家ジョージ・ファーカーはこんな名言を残している▼全国各地の役所のトイレなどに「報謝」「修業の糧に」などと書いた手紙と一緒に、一万円札を置いていった人はどんな心情なのだろう。北海道から沖縄まで十九の都道府県に及び、総額は五百万円近い。最初の発見は昨年七月なので、一年がかりの行動になるが、十月から今年三月の間は見つかっていない▼時間的にも金銭的にも余裕のある人、例えば定年退職した人が冬を避けて旅行しながら置いて回ったとの推理が成り立つ。心情としては置かれた場所の大半が役所内だったことに意味があるのだろう。「お金を役立てて」という思いかもしれないし、「しっかり仕事をして」という訴えにも取れる▼本人が名乗り出ない限り正解は分からないが、一万円という大金の使い方として心情的に理解できない。お金は使い方でいろいろな可能性がある▼開発途上国に目を向けてみると、汚れた水などによる下痢と脱水症状で命を失う子どもが年間に約百五十万人いる。日本ユニセフ協会によれば、その子どもたちの治療に効果のある「経口補水塩」は一回分を約六円で調達できる▼財布の中でときに邪魔者扱いしている一円玉が輝いて見える。一万円なら千六百六十六回分と輝きは増す。お金の使い方次第で、稼いだ自分も輝くことができる。


【河北新報・社説】


児童虐待最多に/連携がまだまだ足りない

 子どもに対する虐待が依然として増加傾向を示している。厚生労働省による2006年度の集計(速報値)によると、全国の児童相談所が対応した虐待件数は約3万7000件に上った。05年度を約3000件上回り、またも過去最多を更新した。

 悪質な虐待事件が後を絶たないために通報も増え、全体の件数を押し上げている側面はあるのだろう。社会の関心が虐待防止に向かっていることは好ましい状況だが、肝心の「解決能力」となるとまだ不十分だ。

 児相を中心に行政や教育機関、病院などが連携しない限り、虐待問題の解決は難しい。児相に勤務する児童福祉司らの絶対数を増やすとともに、さまざまな機関との協力を強めることがますます必要になっている。

 東北の児童虐待件数は06年度が計2046件となり、05年度(1914件)より約130件増えた。青森、岩手、秋田、福島の4県が数十件ずつ増え、宮城県と仙台市が減少、山形県は1件減少と前年度並みだった。

 前年度より大幅に増えたのは福島県(93件増加)と秋田県(53件増加)。福島県泉崎村と大仙市では昨年、親による虐待や暴行によって幼い子どもが死亡する事件が起きた。事件が虐待問題への関心を呼び起こし、通報数を増やす結果になったのだろうか。

 両県の事後検証では、状況判断の甘さなどから効果的な対策を打ち出せなかったことが指摘されている。大仙市では児相と福祉事務所との連絡が不十分だったし、泉崎村では関係機関による会議を何度も開きながら具体策の検討はしなかった。

 関係する組織の相変わらずの連携不足は、厚労省の専門委員会が05年の虐待死亡事例を検証した結果からも浮かび上がっている。同じ自治体の保健部門と福祉部門が連携できなかったり、転居先の児相に引き継がなかったりしたケースが報告されている。

 児童虐待が起きる家庭というのは、さまざまな問題を抱えているケースが多い。親としての資質はもちろん、経済的な問題や病気などだ。妊娠・出産の時点から支援を要する家庭も少なくない。

 病院のケースワーカーや自治体の保健福祉センター、福祉事務所がかかわらなければならないし、子どもが通う幼稚園なども関係する。医療や福祉の面での援助が続く中で、子どもの安全が心配されるようになって児相も関与していくといった例が多い。

 そもそも虐待問題だけを切り離して対応しても解決は難しいだろう。児相などは過去の事例を参考に、間違っても「連携不足」に陥るようなことがないよう取り組まなければならない。
2007年07月16日月曜日

買収攻防/企業の姿を考える機会に

 企業買収をめぐり、2カ月にわたって繰り広げられたブルドックソースと米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジックファンドの攻防―。

 経済のグローバル化と世界的なカネ余りを背景に、外資系企業による日本企業の合併、買収は今後、ますます増えていくだろう。企業がどうあるべきか、経営陣、株主、従業員がそろって考える機会にしたらどうだろうか。

 東京高裁は、ブルドックの買収防衛策の差し止めを求めたスティールの抗告を棄却した。

 ブルドックは株主総会に続いて、地裁、高裁での法廷でも勝利を収めた形だ。予定通り、株主に対して新株予約権を割り当てる国内初の買収防衛策を発動、27日にもスティール以外の株主に対し、1株につき3株が渡ることになる。

 敵対的な株式公開買い付け(TOB)を仕掛け、議決権割合で10.52%の株を保有していたスティールの比率は2.86%に低下し、経営への影響力は大きくそがれよう。

 しかし、ブルドック側の受けた傷も極めて大きいと言わざるを得ない。スティール側に株に代えて約23億円を支払う。弁護士や財務アドバイザーの支払いを含めると総額は約30億円に上るとみられている。

 ブルドックの純利益は約5億円のため、数年間の利益がこの買収防衛策で一気に吹き飛んでしまうわけだ。早めに買収防衛策を打ち出せなかったのかどうか疑問が寄せられるのは当然だろう。

 経営陣に求められるのは、買収防衛策が認められたことに安堵(あんど)せず、従業員と一体となって企業価値を高め、株主に報いることだ。新規製品の開発など、積極的な事業展開が必要だ。

 一方、高裁は、スティールについて、株を買い占め、高値で売り抜けるグリーンメーラーを指す「乱用的買収者」と認定しており、日本市場で投資活動を続ける上で、大きな痛手を被ることは間違いない。

 スティールは、高裁決定を不服として、最高裁へ特別抗告したが、対日戦略の修正を迫られるとの見方が広がり、キッコーマン、江崎グリコ、ブラザー工業などスティールが投資した銘柄が下落している。

 ただやみくもに株を買い占めるだけで、ターゲットにした企業のどこを、どうしたいのか示さないのでは、日本の企業文化になじまないし、信用されない。

 企業は株主のものであるだけでなく、経営陣、そして、働く従業員のものでもあるはずだ。あまりに強引な要求が支持を受けるわけがない。今回の企業買収劇はファンドにも教訓を残した、と言えよう。
2007年07月16日月曜日

【河北新報・河北春秋】

 年金行政をつかさどるはずの柳沢伯夫厚生労働相の影がこのところめっきり薄い。代わって、年金問題処理でも存在感を増しているのが菅義偉総務相▼検証委員会、第三者委員会が総務省に置かれ、近く発足する社会保険庁監視委員会も総務省に設置される。厚労省に当事者能力はないと、官邸から宣告されたのに等しい

 ▼ 総務省はもともと、ほかの省庁の業務について勧告できる機能を持つ。だが、個別業務を監視する機関の設置は異例中の異例。厚労省からは「情けない」と嘆く声が聞こえるが、本はといえば身から出たさび▼保険料を納めたはずなのに、記録も領収書などの証拠もない場合の審査に当たる第三者委。個別審査の受け付けが17日始まる。判断基準は「一応確からしいこと」。「性善説」を前提に、全く資料がなくても人柄や態度などで総合判断するという

 ▼極めて緩い基準だ。よほどのことがない限り、すべて認めることになりそう。官邸の意向を強く感じさせる。これなら、わざわざ手間をかけずに、社保庁の窓口で認めた方がいいのでは▼もちろん虚偽の可能性は否定できない。不正防止を重視する考えからは基準に異論があるかもしれない。いずれにせよ、参院選が終わったら国の姿勢が変わった、ということだけはあってはなるまい。

2007年07月16日月曜日


【京都新聞・社説】

まだない

【京都新聞・凡語】

まだない


【朝日・社説】2007年07月16日(月曜日)付

北朝鮮の核―やっと稼働停止まで来た

 ようやく北朝鮮が核施設の稼働を止め、国際原子力機関(IAEA)の監視を受け入れた。北朝鮮の外務省がそう表明し、米政府へも伝えた。

 核兵器の開発に使われてきた主だった施設の停止は約4年半ぶりである。

 停止と封印は、6者協議の2月合意に基づいて、まず最初に取らねばならない「初期段階の措置」だった。

 見返りの重油5万トン支援の第1陣が韓国から北朝鮮に届いた。それに合わせ、北朝鮮もやっと行動に移したのだ。

 2月合意が想定した期限よりも3カ月遅れだとはいえ、稼働停止・封印の作業が始まったことを歓迎したい。

 核爆弾の材料であるプルトニウムが増え続けるのを、これで食い止めることができるからだ。北朝鮮の「第2次核危機」といわれる緊張の高まりを、いったん和らげることにもなる。

 現地にはIAEAの要員が入った。カメラの設置をはじめ、できるだけ厳密な監視活動に努めてもらいたい。

 思えば、稼働停止という出発点へ戻すのに、長い道のりが必要だった。

 02年秋。北朝鮮はプルトニウム型の核開発を抑える米朝枠組み合意の裏をかく形で、ウラン濃縮型の核開発を狙っているのではないか。米国はそういう疑惑を突きつけ、枠組み合意によって続けてきた重油支援の中断を決めた。

 反発した北朝鮮は、施設の凍結を監視していたIAEA査察官を追放し、再び稼働させた。約8年のあいだ維持された枠組み合意の崩壊である。北朝鮮はプルトニウムの抽出を続け、「核保有」宣言と核実験までした。

 6者協議という場ができても、肝心の米国は北朝鮮と中身のある交渉をしようとしなかった。今年、米国は姿勢を大きく変えたが、今度は北朝鮮資金の国際送金という別の問題が足かせになった。

 それやこれやの曲折を経たうえでの、今回の稼働停止・封印の開始だ。

 4年半前の状態に戻っただけ、と言えなくもない。だが、これが一つの節目であることには違いない。さらに北朝鮮の核放棄につながっていくよう、この流れを大事にせねばならない。

 停止・封印の対象は、プルトニウムを生成しやすい黒鉛減速炉と、使用済み核燃料の再処理施設などで、必要な施設は入っている。IAEAとの協定に基づく正式な核査察ではないが、北朝鮮はIAEAに全面的に協力すべきだ。

 核放棄をめざす長い行程は、第2ステップへ向かう。6者協議の2月合意は「次の段階の措置」も定めている。

 北朝鮮によるすべての核計画の完全な申告。核施設を再び使えないようにする無能力化。見返りに重油95万トン相当のエネルギー・人道支援。「初期措置」よりさらに重要で難しい課題が並ぶ。

 18日から北京で6者協議代表が集う。「次の段階」をいかに実行していくか。代表会合はそれを詰める場である。

参院のあり方―強すぎても、弱すぎても

 参院が創設されて今年で60年になった。二院制のもとでの参院の役割とは何なのか。強すぎるのか、弱すぎるのか。無用論も含めて、改革論はかまびすしい。今回の選挙を機に、参院の持つ意味を考えてみたい。

 参院ホームページをひらくと、「参院改革の歩み」の記述は1971年までさかのぼる。創設から20余年にして、すでに「参院の現状に対して厳しい批判が加えられている」(71年の意見書)。

 政党化して第二衆院のようになってしまい、衆院に対する「抑制と補完」という本来の役割が果たせていない。そんな批判が、もう30年以上にわたって続けられているのである。

 最近、決定的な一撃があった。一昨年の郵政総選挙だ。民営化法案を参院が否決したことをうけて、当時の小泉首相が衆院解散にうってでた。与党の大勝で、法案はのちに成立した。

 参院の議決は、総選挙での圧倒的な民意によって吹き飛ばされた。何のための参院なのか。存在意義が問われたのは当然のことだった。

 憲法は、衆院の参院に対する優越を認めている。予算案や条約、首相指名では衆院の議決が優先される。ただ、一般の法案については、衆参の権限にほとんど違いはない。

 衆院が可決した法案を参院が否決した場合、衆院に戻して3分の2以上の賛成で再可決すれば成立する、という規定はある。でも、普通ならそう簡単には実現されない高いハードルだ。

 だから、参院で与党議員が造反したり、与野党の議席数が逆転したりすると、一般の法案は成立しなくなる。政権の命運をかけた重要法案が否決されれば、内閣不信任にも等しい。しかも内閣は衆院を解散できても、参院を解散することはできない。

 こうした点が「強すぎる参院」論の根拠とするところだ。

 しかし、現在のように与党が衆院で3分の2以上を押さえると、とたんに参院は弱くなる。いくら法案を否決しても衆院で覆されてしまうからだ。

 先の国会終盤、多くの重要法案の強引な処理を強いられたのは、「弱すぎる参院」の悲哀でもあったようだ。

 仮に野党が参院の多数を握った時、与党が衆院での再可決を連発すれば、国会の異常事態である。与党は「数の暴力」との批判を免れないし、野党も党利党略で否決したと非難されるかもしれない。どちらに分があるのか、総選挙で問うべきだとの声が高まることになろう。

 そうなれば、与野党は対決を避け、政治は妥協を基調にしたものになる可能性もある。むしろそれこそ「抑制と補完」という参院の本来の役割ではないか。そんな見方もあるだろう。

 私たち有権者は、どんな参院が望ましいと思うのか。じっくり考えをめぐらせてから一票を投じたい。

【朝日・天声人語】2007年07月16日(月曜日)付

 きのう岩波文庫の創刊80年について書いたら、「一番売れたのは何か」と質問をいただいた。答えは、157万部を数える『ソクラテスの弁明・クリトン』である。

 古代ギリシャの哲人ソクラテスは、「神々を信仰せず青年を堕落させた」と告発される。『弁明』は、その裁判での反論演説の記録だ。彼は死刑を宣告される。逃亡もできたのに拒み、毒杯をあおいで死んだ。「悪法もまた法なり」の言葉を最期に残したとされる。

 「昭和のソクラテス」と呼ばれた人を思い出す。戦後の食糧難時代に、違法なヤミ米を拒み、極度の栄養失調で死んだ山口良忠判事である。「自分はソクラテスならねど食糧統制法の下、喜んで餓死する」と病床日記に残した。この秋で、亡くなって60年になる。

 「立派だ」「愚直にすぎる」。感想は分かれよう。だが「ザル法もまた法」とばかりに、事務所費の疑惑に頬被(ほおかむ)りする当節の大臣に比べれば、どれほど「品格」に富むことだろう。論法は同じでも、モラルは天と地ほどに違う。

 「李下(りか)に冠を正さず」と言う。だが赤城農水相は、不自然極まる経理処理で「冠を正し」てしまった。疑惑を晴らすには、李(すもも)を盗んではいないと、手を開いて見せるしかない。この場合は領収書を示すことだろう。

 かばい続ける安倍首相にも、「仲良し内閣」と批判が募る。首相と赤城氏は、祖父同士も「首相(岸信介)と農林相」の間柄だった。御曹司ゆえの大甘か。ちなみにではあるが、岩波文庫の2位は136万部の『坊っちゃん』である。


【毎日・社説】

社説:緊急地震速報 周知徹底し上手な使い方を

 地震が起きると2種類の波が発生する。「初期微動」を起こすP波は、「主要動」をもたらすS波より足が速い。

 この時間差を利用し、大きな揺れがくる直前に警告する気象庁の「緊急地震速報」が10月から一般に提供される。P波の観測をもとに震源の位置や規模、想定される揺れの強さをはじき出し、主要動が始まる数秒から数十秒前に知らせる仕組みだ。

 地震が発生する前に場所や時間、規模を言い当てる「地震予知」は今の技術ではできない。地震が起きた後の情報でも、鉄道を止めたり、身の安全をはかったりすることにうまく使えるなら、それに越したことはない。そのために大事なのは、速報の問題点を洗い出し、解決しておくことだ。

 重要な問題は一般への周知が不十分なことだ。気象庁の5月末の調査では、緊急地震速報の名前を「知っている」「聞いたことがある」を合わせると8割強。ところが、内容を正確に知っている人はそのうちの4割だけだった。

 家庭で速報を受け取った場合に最も重要なのは「頭を保護し、机の下などに隠れる」ことだが、「何はさておき火を消す」を選んだ人も6割近くいた。すぐに消せる場合はいいが、火元が離れている場合に無理は禁物だ。

 情報をさまざまな手段・形で受け取る可能性があることも理解しておかないと混乱する。不特定多数に向けた情報は、震度4以上が推定される地域を知らせるもので、テレビなどで流される。広域に情報を流すため、「強い揺れ」が予想される地域名を列挙するなど、大まかな言い方になる。

 一方、配信業者などが情報を加工して家庭用の端末に流す場合には、「10秒後に震度5」など場所に応じた情報が考えられる。携帯電話で情報を流すサービスも計画されている。デパートなどでは館内放送で速報を知る場合もあるだろう。

 こうした情報の流れをよく整理し、国民に知らせておくことが大事だ。受け取る側も活用法をよくシミュレーションし、備えることが減災につながる。特に、人が多く集まる場所では、対応によってパニックを招く恐れがある。施設はマニュアルを用意し、事前に訓練をしておかなくてはならない。車を運転中に情報を受け取った場合にも、急ブレーキを踏まないよう周知徹底し、追突事故を防がなくてはならない。

 速報には限界もある。震源との位置関係によっては速報より先に大きな揺れがくる。震源に近く、揺れの大きいところほど、速報が間に合わないという原理的な弱点もある。震度の推定には誤差もある。さらに、気象庁が速報を流したからといって、どこにいても必ず受け取れるとは限らない。

 減災を速報だけに頼ることはできない。日ごろから家具の転倒や備品の落下防止、安全な場所の確認などが欠かせない。住宅やビルなどの耐震化を進めることも不可欠だ。速報を、そうした防災対策のきっかけとしても活用したい。

毎日新聞 2007年7月16日 東京朝刊

社説:’07参院選 集団的自衛権 国民の前で議論すべきだ

 安倍晋三首相は集団的自衛権について具体的に自分の考えを示し、各党とも積極的な議論を戦わせるべきだ。

 歴代政府は集団的自衛権の行使は憲法上認められないとの立場をとり、自衛隊の活動は厳しく制約されてきた。首相はそれを「戦後レジーム」だととらえ、私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置した。

 懇談会は秋に報告書を出す予定で、首相はこの報告を受けて自分で政策判断をするとしている。

 懇談会には首相の強い意向を受け解釈の変更に積極的な論者が集められた。その人選に対して、私たちは「初めに結論ありきにならないか」と指摘してきた。

 考えが近いメンバーだけに議論は早く、懇談会はテーマに設定した4類型のうち、集団的自衛権にかかわる(1)公海上の米軍艦船の護衛(2)米国向け弾道ミサイルの迎撃--の2類型の議論を終えた。

 予想通りに二つのケースに対応するために、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するよう政府に求める見通しとなった。 首相の持論は「現行憲法下でも集団的自衛権の行使は可能」である。このことからしても首相は懇談会の報告を基本にして政策判断をすると見るのが自然だろう。

 首相は11日の日本記者クラブ主催の党首討論でも「私が『こうだ』と言えば(懇談会で)議論する意味がない」と、考えを明かさなかった。

 選挙では議論せずに、選挙直後に集団的自衛権の行使を容認するという結論を出すのは、世論を無視することに他ならない。このままでは国民の前での議論が欠落してしまう。

 自民党の選挙公約は「個別具体的な類型に即し、集団的自衛権の問題も含め憲法との関係を整理し安全保障の法的基盤の再構築を行う」というものだ。「法的基盤の再構築」で見直しに言及しているとも言えるが、具体性が足りず国民にはよく分からない。

 党内では「解釈変更ではなく改憲を発議すべきだ」という意見も根強い。今後の憲法改正との関連もきちんと説明してほしい。

 連立政権を組む公明党は解釈変更に強く反対している。選挙協力にも影響しかねないので、両党とも選挙中は集団的自衛権の議論にはほおかむりするというのであれば、納得できない。

 一方、民主党は昨年12月にまとめた同党の基本政策では「自衛権は個別的・集団的といった概念上の議論の経緯に拘泥しない」としている。これに対しては、党内からも「あいまいで観念的だ」と指摘が出ている。参院選の同党のマニフェストでは集団的自衛権問題について触れていない。これでは論戦を避けようとしていると指摘されても仕方がないではないか。

 解釈の変更はわが国の安全保障政策の根幹にかかわる。年金問題の陰で決して軽んじられていい問題ではない。

毎日新聞 2007年7月16日 東京朝刊

【毎日・余禄】

余録:先月末の阪急阪神ホールディングスの…

 先月末の阪急阪神ホールディングスの株主総会でのこと。傘下の阪急電鉄が1999年から実施している「全席優先座席」について、高齢の株主が「普通の優先座席があったほうが席を譲ってもらいやすい」と見直しを求めた。突然の発言に、複雑な思いが広がった▲どの席でも困っている人がいたら譲るのは当然--そんな善意への期待が「全席優先座席」を生んだ。一部のシートにあった優先表示が、ドアの上の「席をおゆずりください」のシールに替わった。株主の発言は、そんな理想と現実のギャップを突きつけるもので、阪急も再検討を始めた▲優先座席は73年9月15日の敬老の日、東京の国鉄(現JR東日本)中央線に初めて登場した。老人医療費の無料化や年金の物価スライド制が始まり、「福祉元年」といわれた年だ。75年、運輸省(現国土交通省)の通達で全私鉄に広がった▲四半世紀を経て阪急が「全席優先」に転換した時、「今でも有名無実化しているのに」と冷ややかな声があった。大手私鉄も、お手並み拝見とばかりに追随しなかった。にもかかわらず、おおむね好意的に受け止められたのは、だれもが思いやりの心を信じたかったからではないだろうか▲明確に区分けされた優先座席が人の善意を引き出すきっかけになっているのは事実だ。一方で、お年寄りに席を譲らない男が注意されて逆切れしたり、若い女性に注意した男性が口論の末、相手を殴って捕まるなど、トラブルも頻発している▲だが、「ありがとう」の一言にぬくもりを感じない人はいないはず。阪急の再検討を「それみたことか」と冷笑しても何も変わらない。新たな問題提起だと受け止めたい。私たちはどんな社会を望むのか。もう一度、考え直してみよう。

毎日新聞 2007年7月16日 東京朝刊


【読売・社説】

財政再建 具体化への確かな道筋を示せ(7月16日付・読売社説)

 財政再建は喫緊の課題だ。

 2007年度末で、国と地方の長期債務は770兆円に達する。先進国では群を抜く借金大国だ。このまま放置するわけにはいかない。

 参院選を通じて議論を深め、財政再建の確かな道筋を示すべきである。

 参院選で自民、民主両党はいずれも2011年度までに、国と地方の基礎的財政収支を黒字化すると公約に盛り込んでいる。だが、財政再建の目標は同じでも、示された手法は両党の間で、大きく異なっている。

 自民党はまず、歳出削減を重視する。目標達成に必要な財源不足額を16・5兆円とはじいた。うち11・4兆~14・3兆円を歳出削減で対応するとし、社会保障や公務員の人件費、公共事業などの削減を打ち出した。それでも足りない2・2兆~5・1兆円を増税で賄う方針だ。

 「景気回復による自然増で、増税をしなくても十分な税収が確保できる可能性がある」。安倍首相や中川幹事長はこんな言い方を繰り返している。

 しかし、財務省がこのほど、昨年度の決算概要をまとめたところ、実際の税収は、見積もりを1・4兆円も下回ったことが判明した。

 経済は生き物だから、見積もりが狂うことはある。だが、甘い見通しに期待し過ぎれば、道を誤ることにもなる。自民党は歳出削減で足りない分の手当てを、真剣に考えなければなるまい。

 民主党も歳出削減の徹底を叫ぶが、内容を疑問視する声が多い。国の予算から総額15兆円余りムダを減らすという。

 具体的には、地方への補助金を見直し6・4兆円を捻出(ねんしゅつ)する。特殊法人などの原則廃止で3・8兆円、談合や天下りの根絶で1・3兆円といった具合だ。

 小沢代表は「制度を根本から変えれば大幅な歳出削減が可能」と強調するが、補助金は大半が社会保障や義務教育関連だ。簡単に切るわけにはいくまい。

 民主党は、歳出削減などで手にした財源を、基礎年金や子ども手当の創設などにつぎ込むとしている。これでは財政赤字の削減につながらない。財政再建は看板倒れに終わるのではないか。

 財政再建には、安定財源の確保が欠かせない。消費税が最も有力な財源であることは明らかだ。だが、民主党は消費税率引き上げを否定している。自民党は、秋以降に本格的に議論すると、明確な態度を示していない。

 財政再建に不可欠な消費税を含む税制抜本改革の中身を詰め、国民に詳しく説明するのが、政権与党や政権を目指す野党第1党の責任だろう。
(2007年7月16日1時24分  読売新聞)

「海の日」 外航海運の日本離れをどう防ぐ(7月16日付・読売社説)

 貿易を支える外航海運の日本籍船が100隻を割り、日本人船員も減少が続く。

 世界のどこかで紛争が起き、船舶航行の安全が脅かされた場合、食料やエネルギーを確実に輸入できるだろうか。「海の日」に、海運の現状を考えたい。

 海運市況の高騰で、日本郵船など海運各社は空前の好決算に沸く。約2000隻の商船隊を動かし、世界の海で活躍している。新造船の計画も目白押しだ。

 その足元で、深刻な“日本離れ”が進んでいる。1972年に1580隻あった日本籍船が昨年は95隻に、74年に約5万7000人いた日本人船員は約2600人に激減している。

 外航海運は、地球規模で内外無差別の価格競争が展開される自由市場だ。

 日本の海運各社は、80~90年代の円高で失った競争力を取り戻すため、船籍を税負担が軽く各種の規制も緩いパナマなどに移し、船員はフィリピンなどで養成した外国人に切り替えてきた。「便宜置籍船」の偏重は、その帰結である。

 イラン・イラク戦争に際し、日本のタンカーは、危険なペルシャ湾から原油を積み帰り、原油の確保に貢献した。今、船籍が外国で船員も外国人という船に同じことを期待するのは難しい。

 交通政策審議会(国交相の諮問機関)の国際海上輸送部会が、こうした問題の対応策について中間報告をまとめた。

 物資をすべて日本籍船で輸送しなければならない非常事態が1年間続いても、平時の3割強の国民生活と経済活動は維持できるようにすべきだとし、それには約450隻の日本籍船と約5500人の日本人船員が必要、と試算した。

 海運各社も、日本離れの行き過ぎに気づき、日本籍船を今後5年で2倍、日本人船員を10年で1・5倍にする、との目標を掲げている。だが、これでは10年たっても非常時に対応できない。

 欧米や韓国などの主要海運国は、安全保障の確保と海運関連産業振興のため、自国船員の優遇策を設けている。

 自国船員を雇うことなどを条件に、海運会社の法人税の課税標準を利益から保有船舶のトン数に切り替える「トン数標準税制」が、代表的だ。好決算時には税負担が大幅に軽減される。

 与党は昨年末、トン数標準税制を日本籍船に限定して導入する意向を固め、政府に具体策の検討を指示した。今年末の税制改正で最終決定する。

 法人税の原則に反するが、競争条件を外国に近づけるため、導入はやむを得ないのではないか。その場合、日本人船員の雇用拡大を義務化すべきである。
(2007年7月16日1時24分  読売新聞)

【読売・編集手帳】7月16日付 編集手帳

 トカゲの仲間、ヤモリは、害虫を捕らえて食べることから、家の守り神であるとされ、「守宮」と書かれる。「家守」の字をあてることもあるが、こちらは、江戸時代に地主に代わって長屋などを管理した職業の呼び名でもある◆江戸の家守は、店子(たなこ)が持ち込む様々な相談に乗り、庶民の暮らしを助ける存在だった。この家守を復活させ、現代の街の再生に取り組もうという動きが広がっている◆空室が目立つビルの店子を集め、事業を支援する。地元の商店・企業との交流を手助けし、周辺の遊休不動産の活用法も考える。コンサルタントであり、プロデューサーやマネジャーにもなるのが現代版の家守だ◆大都市だけでなく、地方での関心も強まってきた。一昨年から東京・千代田区と組んで、集中講義型の家守育成塾を開いてきたコンサルタント会社には、「今年はうちの地元で塾を」との声が数多く寄せられている◆塾のこれまでの卒業生にも、地方の非営利組織(NPO)のメンバーや、自治体の職員がいる。引退後に故郷に帰って街づくりに取り組みたい、と受講した会社社長もいる◆地方にとって、地域再生は急務だが、人材やノウハウの不足が悩みの種だ。地域の守り手となる可能性を秘めた「現代版ヤモリ」の生息地が広がれば、日本全体がもっと元気になりそうだ。
(2007年7月16日1時30分  読売新聞)


【産経・社説】

【主張】07参院選 憲法 臆せず国の根幹語る場に

 多くの転換期を迎え、将来への危機も叫ばれるこの日本をどうするのか。各党の憲法論議は不十分である。

 いちばんの問題は、民主党の姿勢にありそうだ。

 小沢一郎代表は公示直前の党首討論会で、「憲法問題を参院選で掲げる緊急の必要性を認識していない」と言い切った。一方、公示後のテレビ出演では「安倍晋三首相が掲げる『戦後レジームからの脱却』の根幹をなすのは憲法だ」と指摘した。

 ようやく論戦が始まるかと思ったら、「首相としての見識を持って、参院選で憲法問題を国民に提起すべきだ」と、人ごとのような首相批判に終わってしまった。

 民主党は一昨年秋にまとめた「憲法提言」を基に「国民と自由闊達(かったつ)な憲法論議を行う」と公約している。

 憲法提言は「制約された自衛権を明確にする」といった建設的な見解を示したものだったが、その後の党内論議は進展しておらず、公約でも改正内容への言及はない。

 小沢氏は参院選で与党を過半数割れに追い込んだ後に思い描く「野党連合」で、共産、社民とともに護憲を旗印にでも掲げるつもりなのだろうか。政治生命をかけて、国を建て直す最後のチャンスだというなら、まず自ら憲法を語るべきだろう。

 安倍首相は、改正を政治スケジュールに載せる姿勢を変えていない。改正発議に必要な3分の2の勢力を集めるため、「多数派形成に努力する」と言い始めたのも、現実的な取り組みといえる。

 ただ、核心となる9条改正への具体的見解には踏み込んでいない。

 自民党も、155項目の公約の筆頭に新憲法制定の推進を掲げたが、改正内容には触れておらず、それが知りたければ一昨年にまとめた新憲法草案を参照してほしい、という姿勢だ。新憲法制定の国民運動を推進するという割に、熱意は乏しい。

 公明党は、自民党への付き合い程度に「加憲案」への取り組みを公約に入れた。憲法を参院選の争点にしたくない、という本音がうかがえる。

 逆風下の自民党は、公明党との選挙協力が欠かせない。もし友党への気兼ねから憲法改正を訴えないようなら、争点隠しと呼ばれかねない。

(2007/07/16 05:39)

【主張】6カ国協議 北朝鮮のペースに乗るな

 北朝鮮の“核放棄”へ向けた「初期段階の措置」が、3カ月遅れでやっと動き出したようだ。韓国からの重油の第1便が北朝鮮に到着し、国際原子力機関(IAEA)の査察団が現地入りしたのを受け、北が寧辺の核施設の稼働を停止したとの連絡が米国にあったという。

 3月下旬、北朝鮮代表の一方的な帰国で休会となっていた6カ国協議の首席代表会合が、18、19日に北京で再開されることも決まった。

 しかし、今後の成り行きに、楽観的になることはまったくできない。むしろ北朝鮮の思惑に対して疑念や警戒心が強まるばかりだ。5カ国代表には、北のペースや策略に乗ることのないよう改めて求めておきたい。

 北の思惑に対する新たな疑念は、朝鮮人民軍板門店代表部がここへ来て突然、米朝軍事会談を提案してきたことからも生じている。

 提案の中で北側は、米国が核問題を口実に北朝鮮に圧力を加えるなら、6カ国協議は吹き飛ぶ-などともし、今後、駐韓米軍の撤退を新たな取引材料にするのではとの疑惑も生んだ。

 この提案を米国務省は「協議の適切な場所は6カ国協議」とかわしたが、米首席代表のヒル国務次官補は「われわれは6カ国協議の議題をこなしていくだけで精いっぱいだ」と述べ、北の新戦術に困惑の様子である。

 18日からの6カ国協議では「初期段階の措置」に加え、すべての核計画の完全な申告、すべての既存の核施設の無能力化を含む「次の段階の措置」についても協議する。日朝協議など5つの作業部会、6カ国外相会議の日程なども議題となる見通しだ。

 いわば今後の6カ国協議の工程表を作る作業だが、北朝鮮に新たな時間稼ぎの口実を与えることのないよう厳密に詰めることが肝要だ。

 2月の6カ国合意には、すべての初期段階の措置を「並行してとる」と明記されている。その中には日朝協議開始も含まれている。拉致問題を後回しにすることは合意違反である。

 日本政府の「拉致問題の進展なくして経済支援なし」の原則は、2月の協議でも了解されたはずだ。「次の段階の措置」で、数々の新たな対北経済支援問題が出てこようが、政府はこの大原則を曲げるべきではない。

(2007/07/16 05:11)

【産経抄】

 仕事柄たくさんの人にインタビューしてきたけれど、別れ際に「おもしろかったですか」と聞いてきたのはこの人だけだ。超ヒット商品「ウォークマン」の生みの親だった元ソニー取締役の黒木靖夫さんが、12日に74歳で亡くなった。

 ▼きっかけは若いエンジニアの遊び心だった。小型のカセットレコーダーを改造して、ヘッドホンで音楽を楽しんでいるのに驚いた黒木さんは、早速名誉会長の井深大さん、会長の盛田昭夫さんのところへ持ち込んだ。2人の面白がり方は対照的だったという。

 ▼ 大出力のアンプの音も、ほとんどは壁と床に吸収されてしまう。それに比べて、耳のそばでいい音があれば省エネだと井深さんが感心したのは、いかにも根っからの技術者らしい。一方流行に敏感だった盛田さんは、音楽なしでは生きていけない若者の必需品になると見抜いていた。

 ▼ 「再生専用機なんて売れるのか」と後ろ向きな販売会社を説得し、ネーミングのトラブルを解決するなど、黒木さんが商品化の裏話をおもしろおかしく語ってくれたのは、20年前の夏だった。ナナハンをぶっ飛ばし、酒は好きだが接待は受けず、マドンナのコンサートでは、舞台に背を向け客席の反応を確かめたという、自称「非マジメ社員」の仕事ぶりが、強く印象に残った。

 ▼60歳で工業デザイナーとして独立してからも著書などで、ソニースピリットの重要性を説き続けた。今若者たちの心をとらえているのが米アップル社のiPod(アイポッド)であることを、くやしがってもいた。

 ▼会社をやめてしばらくして、会いたいといってきた盛田さんが、約束の当日に倒れたことが長年の心残りだった。今ごろは、誰よりも敬愛していた「師」と再会を果たしているだろう。

(2007/07/16 06:54)


【日経・社説】

社説 歳出削減を緩めず税財政改革の加速を(7/16)

 日本は国と地方の合計で国内総生産(GDP)の1.5年分という巨額の長期債務を抱え、まもなく一段と急な人口減少に直面する。現世代が漫然と借金を積み上げれば、子供や孫の世代にさらに重い負担を押しつける。参院選のマニフェスト(政権公約)で与野党は税財政の改革に一応触れているが、経済の活力を高めながら財政を立て直す方策をもっと真剣に議論する必要がある。

スリム化の道筋不透明

 与党である自民、公明両党の公約は小泉前政権が2006年に決めた歳出・歳入一体改革の目標を踏襲した。国・地方で11年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にする、つまり行政サービスの経費は税収や税外収入の範囲でまかなうという大枠だ。自民党は10年代半ばに債務残高の対GDP比率を安定的に下げるという、さらに先の目標にも言及した。

 当時の方針は5年間に11.4兆―14.3兆円の歳出を削るため、公共事業を最大で5.6兆円、人件費を2.6兆円削り、高齢化に伴う社会保障関係の伸びを制度改革で1.6兆円抑える。公約に明示はないが、これが前提と解釈できる。

 問題は実行である。08年度予算ですら削減の道筋は不透明だ。自民党議員などが公共事業抑制に反発し「3%削減」の合意ができていない。公明党は子育て支援を含む社会保障予算の抑制のあり方を「改めて検討する」と明記した。教育や福祉分野での支出増圧力もある。改革を貫く決意を改めて強く示すべきだ。

 民主党は11年度のプライマリーバランス黒字化を掲げながら、歳出削減を分野別にどう進めるかの道筋が見えな2い。公約では中学3年以下の子供1人当たり月額2万6000円のこども手当を設け、教育支出も5割増やし、農家への戸別所得補償もするなど、歳出増が目白押しだ。

 国の補助金を一括交付金に切り替えて6.4兆円、特殊法人や独立行政法人の原則廃止で3.8兆円などムダの排除で15.3兆円の財源ができるというが、どの経費をどの程度削るのかの根拠を示すべきだろう。「所得税などの見直し」で2.7兆円の財源を見込むというが、これは所得控除の縮小という実質増税だと正直に説明すべきではないか。

 私たちは財政健全化の基本はあくまで徹底的な歳出削減であると主張してきた。官製談合事件に象徴される公共工事の不適切な入札、行政経費の無駄遣いなどの例は後を絶たない。民間企業の感覚でコスト削減を進めねばならない。会計検査院や総務省行政評価局の内なるチェックも厳格にして、政府の信頼を取り戻す努力を徹底してほしい。

 選挙戦の序盤では与野党の税制改革、とくに消費税率引き上げに関する姿勢に関心が集まった。

 与党は05年衆院選の公約をなぞり「07年度をメドに、消費税を含めた税体系の抜本的改革を実現する」と、態度決定を選挙後に先送りした。だが自民党総裁である安倍晋三首相が「消費税を上げないとは一言も言っていない」と述べたのが増税に含みを持たせたと受け取られ、その後「上げずに済む状況に持って行きたい」と軌道修正した。あいまいな態度を野党に突かれた構図だ。

 野党はそろって消費税率の引き上げに反対や不支持の立場だ。

奥の深い税制論議を

 かつて岡田克也元代表の下で年金財源に3%の消費税率上乗せを主張した民主党は、税率を維持したまま税方式の基礎年金である「最低保障年金」を実現すると路線転換した。小沢一郎代表の強い意向とされるが、消費税率を維持したまま制度が持続できるのかどうか、疑問が残る。

 団塊の世代が年金受給者となる10年ごろを過ぎると、社会保障などの受益と負担のバランスは著しく悪化する。急増する高齢者を、減る一方の現役世代が支える格好になる。いずれは景気による収入の変動が少ない消費税率の引き上げが検討課題になるが、先に増税ありきでは歳出削減のタガは緩む。消費税率引き上げの増収を財政赤字の穴埋めや債務残高の引き下げに充てるのか、目的税として社会保障の財源にするかなども整理されていない。

 税制の問題は、消費税だけではない。株式売買損益と他の金融所得を通算できる所得税の改革、研究開発も含め新たな投資を加速して企業の活力を引き出すような法人課税の見直しなども、併せて論議すべきだ。低所得者対策も、税と社会保障の双方で考える必要がある。

 税財政改革を収支の帳尻合わせにとどめてはならない。増税を言ったか、言わないかという低次元の論争ではなく、経済成長にも目配りした奥の深い論戦が望まれる。

【日経・春秋】(7/16)

 「音大、美大に続くのは農大だ」。ある若者文化ウオッチャーは力説する。ここ数年、芸術系大学を舞台にした漫画が若者の人気を集めた。次の流行は農大漫画だと予測する。代表格が石川雅之氏『もやしもん』。発酵を研究する学生が主人公のコメディーだ。

▼笑って読み進むうちに菌の役割、食の流通などへと自然に関心が向く。秋にテレビアニメ化されるという。他に人気の高い女性漫画家が「農家のヨメ」を題材に作品を発表したり、夏の連続テレビドラマで農大生の実習模様が描かれたり。若者向けエンターテインメントでは確かに「農」は旬のテーマだといえる。

▼珍しい野菜を手作りで育て、取引を求め国内外の有名な料理人が日替わりで訪れる農園が千葉県にある。最近、会社勤めを辞めた若い女性が働き手に加わった。ここの野菜のおいしさが最後に背中を押した。これまでは客だった一流レストランの皿の上に、自分が育てた野菜が載っている。それがうれしいという。

▼グルメ漫画と一線を画す「農業漫画」台頭からも若者心理の変化が垣間見える。彼らの意気と高齢化する農業の現場がうまくかみ合えば面白そうだ。「補助金をもらい、お上の指導する作物しか作らないような農家は挑戦とは無縁」。千葉の農園主A氏は、農業に重要なのは創造性だと説く。


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