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2014年8月25日 (月)

辺見庸 (日録27)私事片々 2014/07/23~と、(日録28) 雑談日記Archive

 辺見庸さんの(日録)私事片々の雑談日記Archiveを始めようと思ったメモなどはこちらで。辺見さんがよく言う「エベレスト」についてはこちらで

 以下、辺見庸ブログの(日録)私事片々をすべてアーカイブ保存しておきます。写真が多いので、2エントリーずつアップします(表示順は元ブログと同じく上から降順です)。

 

 以下、日録の28と27。

2014年07月30日
日録28

私事片々
 
2014/07/30~2014/08/05 
http://yo-hemmi.net/article/402883885.html

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7月30日フヨウが咲いた.JPG

・7月30日、フヨウが咲いた。スイフヨウかふつうのフヨウかわからない。どうでもいい。ガザ虐殺の死者が1200人をうわまわり、負傷者は7000人をこえた。もしレヴィナスがいま生きていたら、どう言っただろうか。「〈砕かれた世界〉あるいは〈覆された世界〉といった表現はありふれ、凡庸なものになってしまったにせよ、それでもなお、あるまがいものではない感情をいいあらわしている。できごとと合理的秩序との不一致、物質のように不透明になった精神のあいだで相互に交流するのが不可能になったこと、そして論理の多様化がたがいに不条理をきたし、私はもはやあなたとはむすびあえないようになったこと………たしかに、ひとつの世界のたそがれにあって、世界のおわりという古い強迫観念がよみがえる」と、グズグズと書かれたのは、いまから67年もまえのことなのだ。アーレントが生きていたら、アドルノが生きていたら、なんと言ったか。パレスチナの少年にガソリンを飲ませ、焼き殺した所業について。パレスチナ国際義勇軍の編成が呼びかけられたかもしれない。元気だったらわたしもパレスチナ入りをめざしたかもしれない。サルトルも国際義勇軍に賛成しただろう。オーウェルはそれに参加しただろう。ヴァルター・ベンディクス・シェーンフリース・ベンヤミンは国際義勇軍結成にかんする知的なメッセージを送ったかもしれない。ソール・ベローはノーコメント。堀田善衛は国際義勇軍に心情的に賛成しつつ、みずからは参加できない苦渋を、キザで無害なエッセイにして、スペインあたりから朝日新聞夕刊文化面に寄稿しただろう。それでも暴力の連鎖には反対だとか。吉本隆明は「ナンセンス!スターリニストども!」と罵ったろう。カネッティは『目の戯れ』の続編を書いたろう。ツェランはまたも自殺したかもしれない。世界はまだ砕かれず、覆されてもいない。世界は凡庸でもない。また再びのユダヤ人迫害への環境ができつつある。犬がブタの耳を食った。夢中になって。エベレストにのぼった。(2014/07/30)

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サルスベリの空.JPG

・ガザの死者が1300人をこえた。いま、手をこまねいてそう言うことにどんな意味があるのだろうか。他者が理不尽に殺されることについて、それを放置するかぎり、わたしは有罪でありうるのか。切実にそうおもうことができるか。「他者の死は、わたしのことがらである」のか。とまらない虐殺に、口とはうらはらに、退屈なまなざしをむける現存在とはなんだろうか。ミスド→LSV。木陰から電話。「祈るしかない」とコビト。人間はどこまで非人間的になれるのか。この設問にさえもう倦いているひとにとって、祈りとはなんだろう。エベレストにのぼった。麓のベンチに、先日とはべつの黒く陽に焼けた男が、あおむけに寝ていた。(2014/07/31)

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LSVの赤い花.JPG

・ガザの虐殺。死者は1400人をこえた。おなじことをイスラエルがやられたら、報復として100倍以上の人間を殺すだろう。ばあいによったら、核兵器をつかうのもためらわないかもしれない。イスラエルとは何か。かれらの「出自」をきびしく問うべきであろうか。かれらを産んだ子宮の闇を知らなければならないのか。出自のみに、現在の原因があるのだろうか。そうだろうか。虐殺をつづけるイスラエルの「自衛権」を公然と支持し、武器、弾薬を補給する米国。もっぱら米国の意を受けて集団的自衛権行使を急ぐニッポン。「ニッポンのイスラエル化」の声が米欧にでてきている。むべなるかな。ルールはない。なにもなくなった。言葉は魂を失った。けふ、こんなメッセージを受けとった。この漂白されつくしたプラスチックの欠片のような記号の羅列こそ、ガザのひとびとにむかうべき心をこわしている。透明なクラスター爆弾。「辺見庸様 管理者があなたにアプリケーションの割り当ての許可を求めています。割り当てられたアプリケーションはあなたの購入履歴に表示され、それとともに、ご使用のデバイスにインストールすることが可能になります。あなたが割り当てを許可するためには、以下のURLにアクセスしてください」。ク★ソ★タ★レ!ラッダイトがいる。すべてが短絡をさそう。発作を誘発している。キチガイじみた哄笑。痙攣。けふから再開する。再開ひますっ!ひとかたまりごとに自由にナンバリングする。1章1行でもよい。そのナンバーだけが進行上の唯一のルールだ。あとは、なにも規則がない。規則があってはならない。世界にはいかなる規則もないのだから。昼前、若い郵便局員が炎天下、ハンコをもらいに家にきた。犬がほえた。電話番号の書きかえと書きかえた個所への捺印。わからない。理由はないのだ。世界に、腑におちる根拠はない。エベレストにのぼった。(2014/08/01)

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8月2日LSVで見た花.JPG

・チェーザレ・パヴェーゼにかんする、ある大事なことを、コビトからおそわる。詩集「死がきておまえの目をとるだろう」のタイトルは、マリオ・ジャコメッリのホスピスの写真「死が訪れて君の眼にとって代わるだろう」をおもいださせる。ジャコメッリはパヴェーゼを読んだのだろうか。トリマーさんのところで犬ホテルの件てつづき→オンブルヴェール(店内)→LSV。34℃。エベレストにのぼらなかった。(2014/08/02)

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わたしと目があったセミ.JPG

・ガザ虐殺の死者が昨日、1650人をこえた。米議会はイスラエルの対空防衛システム支援のため新たに2億2500万ドルの拠出を承認した。ホワイトハウス周辺で1万人以上がガザ虐殺に抗議した。米政府に“Shame on you!”のシュプレヒコール。日本とイスラエルはすでに、企業や各研究機関が「共同研究・開発」を促進するための覚書を締結している。共同研究・開発には「兵器」および軍事関連技術がふくまれる。日本政府は今春、武器輸出三原則の転換の過程で、イスラエルへの武器や関連技術の輸出が可能になるという見解を示している。アベ・ネタニヤフ両右翼政権は事実上の「準同盟関係」となりつつあり、イスラエルが集団的自衛権行使の対象になる可能性もある。“Shame on you!”のyouに、理の当然、アベ政権もふくまれることになる。きのう、檜森孝雄の遺書をおもいだした。「まだ子どもが遊んでいる。もう潮風も少し冷たくなってきた。遠い昔、能代の海で遊んだあの小さな波がここにもある。この海がハイファにもシドンにもつながっている、そしてピジョン・ロックにも。もうちょっとしたら子どもはいなくなるだろう」。檜森孝雄はパレスチナ支援の活動家だった。2002年3月末の土曜の夕、日比谷公園かもめの広場で、ガソリンをかぶり焼身自殺。新聞はベタ記事だった。かれはイスラエル軍によるパレスチナ民衆虐殺に抗議し、そして、あまりにも無関心なニッポンに絶望し、ひとしきり焔のダンスをおどったのだった。享年54歳。あの焔は、パレスチナの少年が無理やりガソリンを飲まされて焼き殺された、その焔の色とどうちがうか、おなじか。昨夜、テレビでアベの顔を見てしまった。なんていやな顔なのだろう。けふ、炎天下、汗みずくでダフネ3号店に行くも、シャッターがしまっていた。やむなく汗みずくのままもどる。途次、エベレスト登頂を試み、目眩で1回失敗、2回目成功。あおむいたセミの死骸と目があった。(2014/08/03)

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アパートの塀沿いの花.JPG

・ガザ虐殺の死者が1830人以上となった。殺すだけ殺し、壊すだけ壊して、ネタニヤフは侵攻部隊撤収を示唆している。併せて、ハマスの全員を、どこまでも追いつめて、殺すと予告している。シオニズムの狂気とは、ジェノサイドの結果現象ではなく、ジェノサイドをみちびいた淵源のひとつとして、じつは反ユダヤ主義と表裏をなすものだったのだろうか。そうだろうか。ネタニヤフは、だれを相手に、なにを再演したのか。エベレストにのぼった。(2014/08/04)

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灼熱.JPG

・東京で佐高信さんと対談。4度目。「戦争をさせない1000人委員会」(この名前じしんのかもすそこはかとないいやらしさ……)の哀れなほどの人畜無害性について、他方、安倍政権のいちじるしい有害性、致死性、その怒濤の勢い、文字どおり危殆に瀕している社会状況について、わたしは話した。すなわち、壮大な害悪の質量とダイナミズムにたいし、「戦争をさせない1000人委員会」の貧弱な発想とあいもかわらぬ偽善のそぶりは、まったくみあっていないし、釣りあっていないばかりでなく、集団的自衛権行使容認のプロセスを、図らずも、民主的、市民的に補完・承認してしまっているのではないか。敵は日ましに不穏かつ暴力的になってきているのに、こちらは平穏、日々これ好日。ファシズムは身中にほどよい「反ファシズム」のようなものをかかえてこそ、より強靱で持久的なものになる。「戦争をさせない1000人委員会」は敵にとってせいぜいが気の抜けた薬味のひとつでしかない。痛くも痒くも辛くもない。いま起こすべきは、身体を賭した「諍い」ではないのか。「戦争にもテロにも反対」という思考方法は、かつてもいまも今後も無効である。対談はあまりかみあわなかった。知的怠惰のにおいがここにもあった。「思慮ある人は、苦しみながら探求する」(サルトル『ユダヤ人』)という。「戦争をさせない1000人委員会」が苦しみと探求から生まれたとはおもえない。むしろ、60年安保時代からなにも変わらない知的怯懦と怠惰の所産である。1000人委員会はむろん、古い石鹸箱のように、あったってよい。そして、べつになくてもよいのだ。無害の「主観的善」は、そのふやけぐあいにおいて、悪の知性にさえ劣る。エベレストにのぼらなかった。(2014/08/05)

 

2014年07月25日
日録27

私事片々
 
2014/07/23~2014/07/29 
http://yo-hemmi.net/article/402548872.html

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桃色の花.JPG

・風邪。PL顆粒、抗生剤のむ。『南京!南京!』。1937年12月から翌年1月までの出来事が、1971年生まれの中国人監督によって、このように映像化された。まずそのことに、言いしれないおどろきをおぼえる。歴史、経験、記憶、映像、忘却、視圏、写角……。見ることと、見られること。記憶すること、記憶されること。曝すことと、曝されること。死者の山のざわめき。エベレストにのぼらなかった。(2014/07/23)

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咲きのこった花.JPG

・『南京!南京!』の政治プロパガンダ性はどうだろう。中国共産党によるプロパガンダというよりは、中国共産党への多少の配慮(と対策)はかんじられる。だがそのことでこの映画の試みがすべて壊れているとはいえない。事実との異同はどうか。事実とは反事実をふくむ、糸のきれて散らばった数珠玉である。事実とはしたがって異同そのものである。陸川監督が資料と証言というおびただしい数珠玉を、かれの歴史観、人間観、想像力という糸でつないでみたら、こんな全景になったということだろう。力業である。いくつかのシーンにわたしは既視感をもった。そのことにおどろいた。わたしはなぜ既視感を覚えたのだろうか。エベレストにのぼらなかった。(2014/07/24)

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アサガオ.JPG

・なんくせをつけたらキリがない。集団レイプのやりかた、殺戮のやりかた、屍体の見せしめのしかた、さらし首の方法……ああではなかった、と言うことはできるだろう。でも、ああではなかった、じっさいはこうだったのだ、と言うことで、唇が凍えてくるのが、ひとというものだ。『南京!南京!』は、中国製というより、陸川監督の手になる南京大虐殺にかんする堂々たる映像テクストである。日本ではこれに比肩しうる映像テクストがない。完敗である。みずからの非を飾ることのさもしさもさることながら、日本というクニには、かかわってきた戦争と戦争犯罪の映像テクストがほとんどない(なにかがうごき、つくらせず、つくろうともしなかった)こと――それは過去に「学ばない」という習性のあわれをこえた不可思議であり、それこそが恐怖のみなもとだ。南京攻略祝賀式典のシーン。うち鳴らされる大太鼓。ドンドコドンドコ。多数の兵士たちの、なにやらドジョウすくいのような、異様なダンスと行進。神輿のようなもの。はためく各師団の幟。必見である。思い切ってデフォルメされた、このありえそうもないシーンこそ、わたしにはもっともリアルで、卓抜な映像とかんじられた。シュールである。南京大虐殺とは、じっさい、シュールでさえあったのだ。リーベンレン(日本人)の身ぶりとふるまいが、このようにみられたのだ。じぶんが祭りをけぎらいする、じぶんでも知らないわけを、奇妙なことに、この映画でおしえられた。わたしが教員なら、この映画を学生たちにみるようにつよくすすめたにちがいない。けふもエベレストにのぼらなかった。(2014/07/25)

SOBA:辺見さんが上記言及している『南京!南京!』を末尾で採録

追記(2015/10/11):
NNNドキュメント15 シリーズ戦後70年
『南京事件 兵士たちの遺言』を末尾で採録

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サクラの木のカメムシ.JPG

・3日ぶりに外出。陽が目にひりひりと痛い。33度。サルスベリの枝ぶりが、3日見ない間に、またいちだんと歩道側にせりだして、白い花の房が綿アメのようにふくらんでいる。見あげると、一面、白い天井だ。口に花の粒がとびこんでくる。むこうの歩道では赤いサルスベリも1本、燃えだしている。容赦ない陽。曝されている。すべてが灼かれている。オレンジ色の筋のある毛虫が意外なスピードで足下をはっていた。サクラの幹にカメムシがはりついている。うごかない。暗褐色のあれはたぶんクサギカメムシだ。カメムシのすぐうえで水アメ色の脂がういてひかっている。カメムシの触角の先。そこにベンチがあり、やはり暗褐色をしたひとがひとりですわっていた。ほとんどうごかない。生きているのか。曝されている。曝されているが、目だちはしない。本人がたぶん存在をかくそうとしているために、こちらもそれにあわせて見まいとするものだから、一枚の破けた影のように目だちはしないけれど、かれもわたしもそのようにふるまっているだけで、ほんとうはカメムシよりもよほど目だっているのだ。サクラの木の脂がとけてジワッとひとつ音をたらした。カメムシが吐息をもらした。ベンチの男には音がない。どこをどうあるいてきたのか。どこへいくのか。あるけるのか。どうするのだろう。余力はあるのか。わたしは訊かない。訊くという発想がない。汗が木脂のようにうかんでいる。男のその汗はひからない。なぜだろう。なぜひからないのだ。日に焼けた皮膚があまりに黒すぎて表情がみえない。Hi!とわたしは声をかけない。それがきまりごとのように、声ひとつかけない。声をかけようと、おもいつかない。おもいつこうとしない。どんな立派そうなことを言ったってだめだ。えらそうなことを言ってもだめだ。無効だ。わたしのズボンの左のポケットには3000円ほどある。それをわたすか、だまってベンチのかれの横におくか。それさえおもいつかない。おもいつこうとしない。かれはここか、または、ここからそう遠くないところで、そう遠くない先に、静かに存在を閉じるだろう。かれは無になる。ぽっと無になる。有から無ではなく、まるで不完全な無から完全な無になるように。不完全な死から完全な死へ。ほとんど予定どおりに。世界はいっこうに減りはせず、世界は砕けず、世界はたそがれもしない。だれも叫ばない。だから、わたしは(も)許される、というものではない。そうではない。そうではないのだ。カメムシを見るまえに、わたしはエベレストにのぼった。そのときは男が見えなかったのだが……。(2014/07/26)

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真夏の雪花.JPG

・エベレストにのぼった。頂上からベンチを見たら、きのうの男が、影ごと消えていた。なにもなかったのだ。あたりまえだ。わかりきっていた。『南京!南京!』を見たあたりから体調をくずした。あれを見たからなのか。あるしゅのVerfremdungseffektか。完敗である。ribenにはつくれまい。逆立ちしたってつくれまい。なんくせをつけるならつくってみろ、ということだ。どちらに「表現の自由」があるのか、どちらに「表現の自由」がないのか、わかったものじゃない。(2014/07/27)

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背中にオレンジ色の筋のある毛虫.JPG

・しばらく放置していたままのネットバンキングをしようとするも、ログインIDはなんとかわかったけれど、いつのまにそんなものができたのか、さいしょからあったのか、次にログイン・パスワードを入力せよとのこと。わからない。記憶にない。メモもなひ。犬の名前や犬の誕生日などから類推しようとしたがダメ。「パスワードが違います」。これでもういやになるが、ここはガマンだと言いきかせ、「パスワードをお忘れのかた」の頁に。すると、またログインIDを入力せよ、ときた。ハイハイ。そうすると、口座番号にキャッシュカードの4桁の暗証番号をくわえた番号が新しいログインパスワードだという。が、キャッシュカードの4桁の暗証番号がわからない。しかたなく、サービスセンターに電話すると、録音された女の声が、音声ガイダンスにしたがって数字を押せ、それにシャープをつけろと言うのである。「サービス向上のためにお電話は録音させていただいております」の声。左手でなんとかやる。やりまひた。機械で合成された声がオクターブ上がったり下がったり気持ちわるひ。やっとひとのオペレーターがでてくる。やった!ひとの声だあ。事情を話すと、ここはネットバンキングの係ではないので、音声ガイダンスにしたがって、慎重にやりなおしてくださいませ、×××がうけたまわりました……とのこと。そうする。またオペレーター。こんどはご本人様確認をしたいので、旧住所を言えというのだ。番地をすべて忘れているむね言うと、干支はなにかと問われる。むっとして、それでも、サルだというと、キャッシュカードの裏面のなんだかがなんだとか、乱数表はお手もとにあるかとかたずねてくる。ないのだ。ないから訊いているのだ。クッソッタレ。では、お届けのメールアドレスは?ユーザー名は?そんなもん忘れたよ。引っ越してから変わったのだ。言うのも面倒になる。疲れる。ああ疲れたよ、と言う。うんざりだよ。ああ、くだらねえ……。つぶやく。「はあ?」とオペレーター。あんたがわるいんじゃない。あんたのショーインシンノミヤもダイインシンノミヤも立派なんです。問題なひです。みんなおれがわるい。おれの生き方がだめなんです。すみません。くだらない。クソだよ。最悪だよ。あんたに落ち度があるんじゃない。あんたに怒ってもしかたがない……。あいしてます。ウォ・アイ・ニー。すごくあいしてます、お姉さん、ごめんね。授乳しなくていいよ。ソリ―ってあやまらなくていいよ。電話をきる。ダフネ1号店にいく。トイレで小川さかゑさんに速攻授乳していただく。いいのよ、いいのよ。アブアブって言ってもいいのよ、赤ちゃん。わたすぃ、アブアブって言う。アブアブ……。授乳コース(身障&自衛隊割引きあり)1300円。店をでたら、背中にオレンジ色の筋のついた毛虫が、わたしのアパート方向に這っていくではないですか。ピンときた。うわっ、あなたさまは朝香宮鳩彦王の生まれかわりではおまへんか!南京入城の好戦皇族。あんさんのために、いったい何人が殺されたか。あれだけのことをなさって戦犯にも死刑にもならんと、戦後は大豪邸ずまいでゴルフざんまい。なして?なじょして?それがわたひたちヌッポンの歴史。結構毛だらけネコ灰だらけ、シュショーのアタマはクソだらけ。なして?どふいふことですかねえ。毛虫答えず。おい、ケムンパス、返事くらいしろよ。よし、おれが処刑したる、ブチッと虐殺したる。と、踏みつぶそうとしたけれども、やーめた。風がきた。サルスベリの花が吹雪く。横に流れてくる。路面の花粒は地吹雪になって、眼前が白くかすむ。匂いにむせる。エベレストにのぼった。(2014/07/28)

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ベンチから見た空と梢.JPG

・エベレストにのぼった。麓のベンチにはひとがいなかった。あそこにすわろうとおもった。カツラの樹のそばのベンチにすわった。とたんに、東学農民戦争のことがチラリと脳裡にひらめいた。あそこまでいかないとわからないな、と。だが、すぐにチラリがぼける。くずれる。脈絡なく、「凌遅刑」という言葉と写真が浮かんだので、あわてて首をふって自己内記憶即刻消去処分をする。そのとき、昼なお暗い葉むらの陰から、小さなものがあらわれた。まえにアジサイが咲いていたあたりから。コビト。小さな黒い犬の背にまたがり、淡い水色の日傘をさして、シャナリシャナリとやってくる。犬は舌をだしている。コビトは唖者。念波で話しかけてくる。「暑いわね……」。うん、暑いね。「あなた、ご無事なの?」。ああ、ご無事というなら、ご無事だよ、いまのところ。「ご無事ってなんなの?」。じぶんが言ったくせに。知らないね。ご無事なんてあるのかね。「そう、ないわよね……」。だれだってご無事じゃない。コビトは何歳かわからない。10歳かもしれず、100歳かもしない。200歳ということもある。わたしは訊かない。知ったところでどうにもならない。このベンチに黒い男がすわっていたのだ。ここから空を見ていた。おなじ位置から、やけつく空をながめる。目がやける。視界がもどったら、コビトたちが消えていた。(2014/07/29)

  

完全版 1★9★3★7 イクミナ (上) (角川文庫)
完全版 1★9★3★7 イクミナ (下) (角川文庫)です。


  

辺見庸さんの『増補版1★9★3★7』と、
堀田善衛さんの『時間』(岩波現代文庫)です。 


  

辺見さんの『1★9★3★7』(イクミナ)です。 


  

 以下、辺見さんが私事片々(2014/07/23)(2014/07/24)(2014/07/25)で言及している陸川監督の『南京!南京!』(CITY OF LIFE AND DEATH)です。

↓鑑賞時は、全画面表示がお勧めです

中国映画-『南京!南京!』(日本語字幕版、HQ、高画質) 2時間14分51秒
Zhang Yuxing
http://youtu.be/VWjHyCKaRUg

2013/10/22 に公開

ニコ動にあったを一つにしたのを
Sサーバーにアップ(←の使い方はこちらで

 

雑談日記の関連エントリー:映像の他、データその他総まとめです。
【日本語字幕】中国映画「南京!南京!」(CITY OF LIFE AND DEATH)

 

ネットの動画だとどうしても画質が悪かったり、使い勝手が良くなかったりします。『南京!南京! CITY OF LIFE AND DEATH』のDVDです。

 

 私事片々(2014/07/23)(2014/07/24)(2014/07/25)で辺見さんが言及している「南京」関連映像ですが、日本でもドキュメンタリーを残す努力が為されていた事(2015年10月5日放送、但し夜中の1:10AM〜放送)を記録しておきます。陸川監督の映画『南京!南京!』の手法とは違いますが、日本でもなされていた貴重な声、資料を残そうとした人々の記録です。

NNNドキュメント15 シリーズ戦後70年
『南京事件 兵士たちの遺言』
tvpickup
http://www.dailymotion.com/video/x38lb8r_

南京事件 兵士たちの遺言 投稿者 tvpickup
公開日: 2015年10月05日
期間: 45:17

Sサーバーにアップ(←の使い方はこちらで

概要:
古めかしい革張りの手帳に綴られた文字。それは78年前の中国・南京戦に参加した元日本兵の陣中日記だ。ごく普通の農民だった男性が、身重の妻を祖国に残し戦場へ向かう様子、そして戦場で目の当たりにした事が書かれていた。ある部隊に所属した元日本兵の陣中日記に焦点をあて、生前に撮影されたインタビューとともに、様々な観点から取材した。

 

追加:
南京大虐殺 兵士たちの記録 陣中日記 2008
Marco Cavallo
http://www.dailymotion.com/video/xnu8oo

南京大虐殺 兵士たちの記録 陣中日記 2008 by JKzappa
Publication date : 01/20/2012
Duration : 46:18

Sサーバーにアップ 

NNNドキュメント’08「兵士たちが記録した南京大虐殺」
放映日時:2008年4月6日(日)24時55分~25時50分(日付としては4月7日)

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