昨日の森田実さんの「2005年森田実政治日誌[505]」に紹介されていた、文藝春秋新年号、関岡英之氏の寄稿です。OCR処理でおこしました。前半部と一番最後のしめの段落だけをご紹介しておきます。
関岡英之氏は話題の本「拒否できない日本
」の著者です。
※なお、文中で引用されている投票日当日の朝日の社説については前に掲示板に投稿しているので参考にしてください(投票日3日前から投票日翌日まで全文保存してあります)。僕の感想としては、関岡氏が引用している部分は前後の文脈からすると批判、あるいは注意喚起の意味を含めたセンテンスのように読めなくはないですが、、。
TVで暴言を吐いた竹中大臣へ 私の論文を「妄想」呼ばわりする根拠は何なのか 関岡英之
本誌先月号に、私は「警告リポート奪われる日本」というタイトルの小論を寄稿し、郵政民営化の背後には、米国保険業界の意向を受けた米国政府からの圧力があったことを指摘した。
先月号発売後、十一月十三日に放映されたテレビ朝日の番組「サンデープロジェクト」において、徳本栄一郎氏の「竹中平蔵が総理大臣になる日」とともに拙稿が採り上げられた。私はその放映を見逃したが、本誌編集部から録画が送られてきて、この件についての原稿を依頼された。
番組の該当部分は竹中平蔵総務大臣と司会の田原総一朗氏のやりとりの冒頭で、概略は次の通りである。
田原氏「ふたつとも何を書いているのかというと、郵政民営化はアメリカが仕掛けたんじゃないか、特にアメリカの保険業界が簡保を民営化させたいということで、竹中さんはアメリカの要望にそって民営化したんじゃないか、特にそれがアメリカの年次改革要望書に出てると……(中略)……どうも裏にアメリカの要望、思惑があるんじゃないかと言われてるんですが」という問いかけに対し、竹中大臣は即座に「あまりに稚拙な妄想」と断定した。そのあとのやりとりは以下の通りである。
田原氏「マスコミがたいした根拠もなく、勝手におもしろおかしく書いてんだと、こういうたぐいですね」
竹中氏「たいした根拠というか、なんの根拠もなく」
田原氏「なんの根拠もなくね。わかった」
拙稿で私が根拠としたのは米国政府の公式文書である。しかもインターネットで公開されているものなので、誰でも検証することができるはずだ。もし拙稿になんらかの事実誤認があるならご指摘頂き、当方が納得できれば訂正することはやぶさかではないが、「妄想だ」、「根拠がない」と捨てぜりふを言い放つだけではこちらも返す言葉がない。
答弁を一変させた竹中大臣
郵政民営化にまつわる米国の圧力について指摘したのは私だけではない。私のような無位無冠のライターが騒いだだけなら一笑にふせば済むかもしれないが、郵政民営化法案審議の過程において、国政の場でも指摘されているのだ。国会議事録として正式に記録に残され、国民に公開されている。
例えば今年六月七日の衆議院の郵政民営化に関する特別委員会で、当時自民党森派の衆議院議員だった城内実氏と竹中大臣との間で以下のようなやりとりがあった。
城内委員「次の質問は、アメリカ政府の対日イニシアチブ、対日要求についてでありますけれども、……(中略)……日本の国民の関心が低いのに比べて、なぜかアメリカ政府、そしてまた在日米国商工会議所さらには米国生命保険協会が、累次にわたり、いろいろな形で郵政民営化についての要求をしているというふうに伺っております。……(中略)
そこで質問ですけれども、郵政民営化準備室が発足したのが昨年の四月ですから、この昨年の四月から約一年間、現在に至るまで、郵政民営化準備室に対する、米国の官民関係者との間で郵政民営化問題についての会談、協議ないし申し入れ等、こういったものが何回程度行われたのか、教えていただきたいと思います」
竹中国務大臣「昨年の四月二十六日から現在まで、郵政民営化準備室がアメリカの政府、民間関係者と十七回面談を行っているということでございます」
城内委員「十七回ということは、これはもう月に一回はこういう形で、アメリカの方で早く民営化してくれと言ってきているということであって、かなりの頻繁な数ではないかというふうに私は思っております」
このとき竹中大臣は城内議員に対しては「妄想だ」などと言い放つことなく、郵政民営化の背後に米国の圧カがあることをみずから認めている。
しかしその後、通常国会の衆議院本会議で五票という僅差の可決となり、参議院での採決が予断を許さない緊迫した情勢になって以降、焦燥の度を強めた竹中大臣の答弁は一変する。
八月二日の参議院の郵政民営化に関する特別委員会では、民主党の桜井充参議院議員との間で以下のようなやりとりがあった。
桜井充委員「……要するにアメリカ政府からいろんな要望を受けると、それに従ってこうやって法律が整備されてきております。このことを踏まえてくると、果たしてこの民営化というのは国民の皆さんのための改正なのか、米国の意向を受けた改正なのか分からなくなってくるということでございますが、竹中大臣、いかがでしょう」
竹中国務大臣「……ここで読み上げる、読み上げていただくまで私は、ちょっと外務省には申し訳ありませんが、アメリカのそういう報告書、見たこともありません」
本誌先月号でも紹介したが、二〇〇三年十月二十四日付けの米国政府の年次改革要望書には次のような記述がある。
《V-D.民営化 米国政府は、二〇〇七年四月の郵政民営化を目標に、小泉首相が竹中経済財政・金融担当大臣に簡保、郵貯を含む郵政三事業の民営化プランを、二〇〇四年秋までに作成するよう指示したことを特筆する》
米国政府が公式文書で自分自身の名前をわざわざ特記しているのに、担当大臣たる本人がそれを見たこともないなどということがありうるのだろうか。
次に掲げるのは、〇四年十月十九日の衆議院予算委員会での民主党の小泉俊明衆議院議員(当時)の質問に対する竹中大臣の答弁の議事録である。
小泉(俊)委員「……そこで、この中に出てきます年次改革要望書、これはアメリカから来る文書でありますが、ここに、添付資料の資料一に、実は、この年次改革要望、どの程度これがちゃんとされているかというのを確認する文書がちゃんとここに出ています。ことしの六月八日に、日米間の規制改革及び競争政策イニシアティブに関する日米両国首脳への第三回報告書というものであります。それがこの資料一であります。これはどこからとったものじゃないですよ。在日米国大使館のホームページで公開されている公式文書であります。そこで、この規制改革イニシアティブの第三回報告書、この文書というのは、麻生総務大臣、竹中大臣、当然これは御存じですよね」
麻生国務大臣「ファクトシートのことだと思いますが」
竹中国務大臣「存じ上げております」
やはり、ご存じだった。麻生大臣だって知っている。主要閣僚が知らないことなどありえないのだ。桜井議員の質問に対して「見たこともありません」と答えてしまったのはいかにもまずかった。「記憶にありません」と答えればよかったのに。
権力とマスメディアの癒着
それにしても解せないのは、竹中大臣の国会答弁でのこうした矛盾を、日本のマスメディアが一切追及しようとしないことである。冒頭にふれたテレビ番組でも、田原総一朗氏は、広く一般に公開されている公式文書である年次改革要望書の内容を検証しようともせず、あたかも申し合わせたかのように竹中大臣の「たいした根拠というか、なんの根拠もなく」という発言に、鸚鵡返しで「なんの根拠もなくね。わかった」と即座に結論づけた。こうした権力と報道のあられもない癒着ぶりに、私は昨今の我が国のとめどない退廃を感じる。
衆議院特別委員会で、郵政民営化準備室が米国の関係者と十七回も会っていたという、核心に触れる重大な証言を竹中大臣から引き出した城内実前衆議院議員は、自己の良心に従い、国民の代表としての信念を貫き、総裁派閥である森派でただひとり、衆議院本会議で反対票を投じた。その結果、国政の場から追放された。
自分に従わずに正論をはく者を弾圧し、刺客を放って政治生命まで絶つというのは、控えめに言っても恐怖政治だ。にもかかわらず新聞各紙は、それを批判するどころか、むしろ小泉批判を封殺する方向へ世論を誘導した。特に非道かったのが朝日新聞だ。
例えば八月十二日の社説で「党のリーダーが最優先の公約にしている政策なら、反対派を排除してでも実現しようとするのは当然だろう」、続く八月二十三日の社説でも「一つの法案に反対した前議員を容赦なく追いつめる。非情と映るやり方ではあっても、自民党を政策本位の政党に作り替える剛腕だと評価もできる。それが内閣支持率の上昇につながっているのだろう」と手放しで礼讃している。
もともと体制寄りと認知されている読売や産経ならともかく、日頃は反権力を標榜している朝日までもがこうした論調を打ち出せば、その波及効果は絶大である。九月六日の社説「自民優勢『あと一年』で選ぶのか」で、朝日はついに小泉総理の任期延長待望論まで流し始めた。投票日以前の段階である。これが世論操作でなくて何だと言うのか。さらに、亀井静香氏や田中康夫氏が新党立ち上げを模索していた微妙な時期に、両氏の発言を捏造する事態まで引き起こした。そして投票日当日、朝日は社説で次のように書き、取り返しのつかない致命的な汚点をジャーナリズムの歴史に残した。
「小泉首相はこれまで見たこともない型の指導者だ。……単純だが響きのいいフレーズの繰り返しは、音楽のように、聴く人の気分を高揚させる」
まるで中国の毛沢東や、北朝鮮の金正日の礼讃記事を読むようではないか。
総選挙直後に、城内実氏がテレビで「自分は郵政民営化法案のなかみをきちんと勉強してしまった。もしまじめに勉強しなければ、こういう結果にはならなかったかもしれない」と語るのを、私は胸が張り裂けるような思いで聞いた。
『正論』十二月号に「敗北すれども我が志は死なず」という城内氏のインタビューが掲載されている。氏は人権擁護法案についてもその問題性を見抜き、「真の人権擁護問題を考える懇談会」の事務局長として中心的役割を果たしてきたことがうかがえる。城内氏は中央官庁(外務省)出身だけに、法律の条文の行間に潜むリスクを見抜くだけの高いリテラシーを体得していた。まだ若く、このまま失ってしまうにはあまりにも惜しい人材だ。
城内氏のインタビューによると、「真の人権擁護問題を考える懇談会」の会長は平沼赳夫氏、座長は古屋圭司氏、幹事長は衛藤晟一氏、事務局次長は古川禎久氏で、全員が郵政民営化法案に反対している。それは偶然ではなく、真の国益を守るという明確な国家観を備えた、真性保守主義の立場を堅持している政治家たちが結集しているからだと城内氏は述べている。誠にその通りだと深く共感する。
しかしマスメディアは、法案や年次改革要望書をみずから検証しようともせず、反対した自民党議員たちに「族議員」や「守旧派」などといった無責任なレッテルを貼って悪役に仕立てあげた。
国民の代表として真剣に審議に取り組み、誠実に責務を果たそうとした国会議員が報われるどころか、理不尽にも粛清されてしまうところに、いまの日本の政治とマスメディアの底知れない病理がある。こんな異常な状況では、まともな国会議員が日本からいなくなってしまうに違いない。
(途中略)
米国による日本改造
その後、日本の政権は細川内閣、羽田内閣とたらい回しになり、悪夢の東京サミットからちょうど一年後の九四年七月に自社さ連立による村山内閣が発足。それから間もない十月に在日米国商工会議所が対日要望事項を発表。これが「日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組み」の一環として設置された規制緩和・競争政策等作業部会に採用され、年次改革要望書として定例化したというわけである。
年次改革要望書誕生のいきさつをこうして検証してみると、日本の政治が迷走、混乱するなか、米国に足もとを見られ虚をつかれた感は否定できない。「米国による日本改造」としか形容しようがない日米二国間の異常なメカニズムと、その強力な媒体である年次改革要望書は、戦後日本の歴史的転換点というべき激動と混乱のなかで、米国に手を突っ込まれて日本の政治システムのなかにしっかりと装填された。その渦中で、五五年体制最後の首班となった宮沢総理に引導を渡したのが、小泉純一郎郵政大臣だったのである。
それから十二年、因果はめぐって小泉氏が総理の座につき、郵政を唯一の争点とした総選挙で党内批判勢力を一掃しつつ歴史的勝利をおさめ、米国流の民間人政治任用やトップダウン型意思決定という統治手法と、衆院の三分の二を制する巨大与党に支えられた「二〇〇五年体制」を確立した。
小泉総理は来日したブッシュ大統領を京都の鹿苑寺金閣に案内した。金閣の初層には、この建築の施主、足利義満の僧形木像が安置されている。足利義満は、朝廷の勅許も無しに「日本国王」を僭称し、当時世界最大の帝国、明の皇帝に対して卑屈な「臣下の礼」をとったことから、その追従外交を非難されてきた人物だ。ブッシュ大統領の見ている前で、足利義満像に合掌してみせた小泉総理の胸中に去来したのは、いったいどんな思いだったのだろうか。
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